ホンダ雪上試乗会 さまざまな違いのあるAWDを乗り比べ

マニアック評価vol417

ズラリと並ぶ今回の試乗車。SUVだけでなくハイブリッドAWDのレジェンドやS660やシビック・タイプRのスポーツモデルなど、多彩なラインアップが用意された
ズラリと並ぶ今回の試乗車。SUVだけでなくハイブリッドAWDのレジェンドやS660やシビック・タイプRのスポーツモデルなど、多彩なラインアップが用意された

今回の雪上試乗会は北海道旭川市にあるホンダの鷹栖テストコース内で行なわれ、センターデフを持たないAWDタイプの試乗と他モデルの試乗が行なわれた。簡単に説明するとビスカスタイプのオンデマンドAWDはシャトル、N-BOX、リアルタイムAWDと呼ぶ油圧ポンプ+多板クラッチのシステムはヴェゼルや北米モデルのRDX、i-VTM4システムは北米モデルだけの搭載となるが、モデルとしてはパイロットに搭載。そしてトップモデルのSH-AWDはレジェンドに搭載している。<レポート:高橋 明/Akira Takahashi>

使用するテストコースは、ユーロ郊外路、B4バイパスという名称の狭いワインディング、訓練路、150R旋回といったコースで、いずれも圧雪状態でブレーキングを繰り返す交差点付近がアイスバーンになっているという状況だ。

◆新型ヴェゼルに早速試乗

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今回の試乗で注目なのは、つい先ごろ発売になったヴェゼルのマイナーチェンジモデルと新グレードRSだが、雪上のテストであり従来モデルとの比較というのも判断が難しいものだったことを先にお伝えしておく。

2016年2月25日にマイナーチェンジしたヴェゼル。新ボディカラーの設定や安全運転支援システム「ホンダ・センシング」の展開拡大など、その内容は多岐にわたる
2016年2月25日にマイナーチェンジしたヴェゼル。新ボディカラーの設定や安全運転支援システム「ホンダ・センシング」の展開拡大など、その内容は多岐にわたる
新たに追加されたRSは、パフォーマンスダンパーや可変ステアリングギアレシオなどを採用。走りを追求したグレードとなる
新たに追加されたRSは、パフォーマンスダンパーや可変ステアリングギアレシオなどを採用
RSは専用18インチアルミホイールを標準装備するほか、グリルも専用デザインとなり差別化が図られている
RSは専用18インチアルミホイールを標準装備するほか、グリルも専用デザインとなり差別化が図られている

ヴェゼルに新たに加わったのがRSモデルで、名称のRSはRoad Sailingの略だ。Racing Sportsをイメージするが、意外にもセーリングという意味だ。このRSは標準モデルに対し、ハンドリング性能の向上を目指したモデルで、そのためにボディ側のダンパー取り付け部の剛性アップを図り、ダンパー減衰の見直し、そして電動パワーステアリングを可変式のVGRを採用している。VGRのレシオ設定は+20%としている。また、CVTはATライクにステップが感じられるようにし、シフトアップだけでなく、シフトダウンもブレーキングをすると自動でシフトダウン的に作動するように変更している。

しかし実際の走りのフィーリングをレポートするにも、雪上という条件であるため、標準車との違いをレポートするにはいささか乏しく、正確なレポートは別な機会に改めてレポートする予定だ。ここではいち早く試乗したということだけの報告になる。

4WD車にもリアサスペンションに振幅感応型ダンパーが新たに採用され乗り心地を向上。また、ハイブリッドZに4WD車が追加された
4WD車にもリアサスペンションに振幅感応型ダンパーが新たに採用され乗り心地を向上。また、ハイブリッドZに4WD車が追加された

一方、ヴェゼルのマイナーチェンジではZグレードで標準モデルより乗り心地の向上とNVHの向上が図られているが、これも雪上試乗では正直進化の具合は不明だ。現行モデルとの比較ができるわけでもなく、乗り心地の改善と言われてもその違いを感じ取ることはできない。またNVHに関しても比較すべき対象がないためコメントはできないので、次回レポートを待ってほしい。

AWDに関しヴェゼルは、リアルタイムAWDと呼ばれるシステムを搭載しており、後輪へ駆動力を伝えるため、モーターで油圧を上げ多板クラッチを経由しリヤへ伝えられる。ターンインでもノーズの入りでアンダーステアとなるような場面に遭遇しない。ステアした瞬間からノーズの回頭があり、雪道でも安心感が高い。

ヴェゼルハイブリッドのリアルタイムAWD機構の構造図
ヴェゼルハイブリッドのリアルタイムAWD機構の構造図

◆北米専用のモデルにも試乗

北米モデルのパイロット。全長は約5m、全幅は約2mの大型ボディに3.5LのV型6気筒エンジンを搭載する
北米モデルのパイロット。全長は約5m、全幅は約2mの大型ボディに3.5LのV型6気筒エンジンを搭載する

国内で販売されるホンダ車にi-VTM4を搭載するモデルはなく、北米で販売される中型SUVパイロットなどに搭載しているシステムだ。後輪左右に電動制御のクラッチを装備し、直進状態でのクルージング時には左右のクラッチはフリーとなり、FF走行をするが、荷重変化などを検知して後輪にも駆動力が伝えられる。もちろん、左右にクラッチを装備しているため、左右のトクルクベクタリング機能を装備しているわけだ。

試乗車のパイロットはアメリカホンダが中心となって開発したモデルで、そのためなのか、シートに座った瞬間からアメリカンな印象。とはいえダルでルーズということではなく、大人なゆったりとした、空間があり車両の動きもゆったりとした動きをする。

パイロットのシャシー。4WDシステムのVTM-4は前後駆動力だけでなく後輪左右のトルク配分も行う
パイロットのシャシー。4WDシステムのVTM-4は前後駆動力だけでなく後輪左右のトルク配分も行う

AWDの制御ではVDA(横滑り防止)をオフにして雪上を走ると、多少のスライドを体感するがその滑り出しを感じやすく、ゆっくりと動く。そのままスロットルだけで調整していると後輪の左右トルクの調整によりグリップが戻され、再び安定した走行となる。非常にコントローラブルに感じ、滑り出しも穏やかなため、スライドした瞬間びっくりするようなことがないのも大きな安心感につながる。

レジェンドにはSH-AWDという最高峰のシステムが装備されている。このSH-AWDはリヤにツインモーターを装備した先進のAWDで、左右のトルクをモーターで補うタイプだ。さらに駆動トルクだけでなく、減速トルクも発生させるため後輪左右で外側が駆動トルク、内側が減速トルクというシーンにも遭遇する。車両の動きとしては極めて回頭性がたかく、従来のクルマとは時限の違うコーナリングを味わうことができる。

ハイブリッド4WDのSH-AWDというシステムを搭載するレジェンド
ハイブリッド4WDのSH-AWDというシステムを搭載するレジェンド
レジェンドのシャシー。後輪左右にもそれぞれモーターを搭載する
レジェンドのシャシー。後輪左右にモーターを搭載する
レジェンドのトルクベクタリングの作動イメージ
レジェンドのトルクベクタリングの作動イメージ

しかし、レジェンドはホンダのフラッグシップモデルでもあり、その制御の動きをドライバーはどこかで感じ取ることができてしまう。個人的には制御というのは、わからない、感じ取れない、という領域が好ましいと思う。制御レベルで考えればこのSH-AWDが最も優れた制御システムであることは言うまでもないが、人間が感じる違和感や馴染みといったフィールではもっともベーシックなビスカスカップリングも素直でわかりやすい挙動は好感が持てる。

個人的にはi-VTM4がもっともお気に入りの制御だった。リヤ左右のクラッチによるトルクコントロールは一切制御していることを感じさせず、また旋回時のノーズのターンインも滑らか。VDAをオフにしたときの滑り出しの穏やかさも手の内に収まる気持ちになり、安心感が高いからだ。

近年センターデフを持たないオンデマンド式が主流となりつつある中、Tia1のJTEKTやGKN、ボルグワーナーなどのシステムを導入せず、すべて自社開発しているのもホンダらしい姿かもしれない。

◆シビックType-RとS660を雪上テスト

雪上でもドライブの楽しさを十分に味わえたシビック・タイプR
雪上でもドライブの楽しさを十分に味わえたシビック・タイプR

一方、FFモデルではシビックType-Rの試乗ができたものの、有り余るパワーを雪上で使いこなすには相当のテクニックを要求される。しかし、特筆は、どんな場面でも車両が安定していることが挙げられる。タイヤが空転しているときやスライド状況になった場合でもステアリングでコントロールするのではなく、舵の方向にクルマが進んでいくのでスロットルでのコントロールが可能になる。あわただしくハンドル操作をする場面などもなく、ドライバーは意外とゆったりとした気持ちでいられることができるのだ。素性の良さがそうさせているのは間違いない。

雪上ドライブだからこそ際立ったS660の素性の良さ
雪上ドライブだからこそ際立ったS660の素性の良さ

S660も試乗でき非常に楽しめた。150Rと言われる定常円旋回のコースでのテストを用意してあり、制御あり、ナシが体験できた。この制御はVDAの長押しをしても全解除とならないところを、特別にまったく介入のない状況にセットしなおした車両でテストできた。

約73km/h付近でタイヤのグリップ限界が来てスライドをし始める。そのままスロットルでコントロールしながらドリフト状態を維持するが、路面のミュー変化やタイヤのグリップ力復元などで、全周ドリフトはできない。部分的にグリップが回復し、リバースし、というのを繰り返す。スロットルを抜けば簡単にグリップが回復し壁に向かうというわかりやすい挙動は実にコントローラブル。S660の資質の良さを感じさせるテストだった。

一方、制御ありの設定では、つまり市販状態と同じで同様に150Rを旋回してみると、アクセルを床いっぱいに踏みつけて全開で走り続けられる。一度もスロットル調整をせず、ひたすら全開でも何事も行ならないのだ。すべて横滑り防止と出力コントロールされ、クルマは安定して旋回を続けることを体験した。

S660、シビックType-Rともにクルマの素の状態が素晴らしいというのが伝わり、そのボディに制御が入るので、なおさら安心度が高くなることも体験できた。やはり、クルマはジオメトリーで走るモデルがもっとも扱いやすいということになるのだろう。

アキュラブランドのミドルサイズSUVのRDX。
アキュラブランドのミドルサイズSUVのRDX。
CR-Zをベースにした4モーターEVの試作車にも試乗する機会を得た
CR-Zをベースにした4モーターEVの試作車にも試乗
シャトルハイブリッドにも試乗
シャトルハイブリッドにも試乗
こちらは軽自動車のNワゴン
こちらは軽自動車のNワゴン

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