2016年8月2日、ホンダは2016年度第1四半期、つまり4月から6月までの3ヶ月間の決算を発表した。円高への変動の影響や熊本地震の影響があり、売上高が3兆4717億円と前年同期に対し6.3%減少したが、営業利益は2668億円と11.5%増え、営業利益率も改善し、順調に見える。
■2016年度は好転の見通し
2016年度の通期見通しでの売上高は13兆7500億円(-5.8%)、営業収益は前年比+19.2%、営業利益率は前期が3.4%であったのに対し、4.4%を見込んでいる。つまり売上高はやや低減するが、収益は大幅に改善すると見ているのだ。
逆に2015年度の決算を見ると、四輪車のグローバル販売台数は474万3000台(前年比8.6%増)で、売上高は2015年度より9.6%アップしているが、営業利益は24.9%、利益率は3.4%ときわめて低くなっていた。2015年度の後半には莫大なタカタのエアバッグリコール対策費4360億円と円高での為替の影響を受けて、国内自動車メーカーの中で独り負けとなった。
2016年度はリコール対策が一段落したこと、販売台数の増大により増益と見込んでいる。ただ、ホンダはタカタ製エアバッグの搭載台数が各自動車メーカーの中で最も多く、その分、リコール費の負担が重く、今後もまだ先行きは不透明だ。
■ホンダのビジョン
ホンダは2006年に公表した「ビジョン2010」で全世界生産450万台の目標を掲げたが、これはほぼ達成されたといえる。2009年6月に第7代目社長として就任した伊東孝紳社長は全世界6極体制を構築し、グローバル生産600万台を目指すとした。6極体制とは、日本、北米、中国、アジア&オセアニア、欧州、南米に分け、それぞれの地域に見合ったクルマを開発し、生産・販売体制を強化して規模の拡大を目指すという戦略である。
また伊東社長は「良い物を早く、安く、低炭素でお届けする」という経営方針も掲げた。もちろん早く、安くの意味は6極体制、つまり現地での企画・開発、現地生産の意味も込めている。
そして就任から5年の2013年度決算で売上高は前比で19.9%増の11兆8400億円、営業利益は37.7%増の7500億円と成長した。2014年度の目標は国内販売103万台と、世界販売483万台とした。
しかし、この時点で営業利益率は6.3%と、国内自動車メーカーの中でも下位グループでしかない。つまり販売台数や売上高は伸びているが、利益率が低いままで、近年のホンダの大きな課題なのである。自動車メーカーとしての販売台数の規模は、グローバルで7位、日本のメーカーとしてはトヨタ、ルノー・日産に次ぐ3位だが、こと営業利益率の低さは座視できない状態にある。
■利益率の実情
この薄利多売の構造は現在のホンダの商品展開に寄るところが大きい。日本市場で見れば軽自動車、コンパクトカー、小型ミニバンがメインだ。ホンダにとって最大の市場であるアメリカでもシビックやアコード・クラスがメインで、上級ブランドのアキュラはそれほど成功していない。
つまりグローバルでホンダが後塵を拝しているヒュンダイ・グループと似た商品構造なのだ。ただし、ヒュンダイ・グループはヨーロッパ市場でも成功しているが、ホンダはヨーロッパではイメージ、存在感が大きく低下している。
さらに営業利益率が低いのは、ライバル他社に比べ原価率が高い、販売奨励金も少なくないといった理由も存在する。特に日本市場での軽自動車やコンパクトカーは、他社も含めて販売店登録による未使用車を生み出す構造もあり、利益率を圧迫する要因になっている。
もちろんホンダも、より価格の高いクラスのラインアップの充実も企画している。日本では2015年から投入したレジェンド、グレイスと2013年発売のアコードでセダンのラインアップを充実させ、上級コンパクト・ワゴンとしてオデッセイの下のレンジに位置するジェイドなども発売するなどしたが、いずれも量販モデルとなっているとは言い難い。
■これからの課題
販売台数で見れば、ホンダはアメリカ市場と中国市場に比率が突出して高く、特に中国市場では日本の自動車メーカーでは日産に次ぐポジションを確保しており、ホンダ・ブランドは認知度が高い。またF1参戦などの実績もあり、グローバルで見ての知名度はソニーと同様に高いのだ。
しかし、クルマとしての商品ラインアップや具体的な商品ブランド・イメージはそれほど強くないのが現実だ。これは、販売現地で市場のニーズに合わせたクルマを現地生産するという戦略を採用してきたことの裏返しといえなくもない。
グローバル・モデルとしてはフィット、シビック、アコード、HR-V、CR-V、そして最新のNSXが存在するが、世界共通の強固なブランド性を持つホンダ車といえるかどうか。
2015年に就任した八郷隆弘社長は、就任した段階で、「グローバル6極体制の進化」、「ホンダらしいチャレンジングな商品の開発」を企業テーマとして掲げた。これは地域専用モデルの拡充を図る一方で、グローバルに通用するモデルを強化することを意味している。またホンダらしいチャレンジングな商品とは、斬新な商品コンセプト、デザイン、走りの進化だとされている。
しかし、そのためには今まで以上に、本社・営業の本田技研工業と、開発を担当する本田技術研究所、生産を担当する製作所の連携、一体化が欠かせない。本社が研究所にクルマの開発を発注するという、いわば分社構造は1960年に実施して以来、ホンダの特長のひとつとなっているが、商品コンセプトを貫くという意味では制約にもなっているからだ。
また2020年に向けての商品戦略、運転支援システム、自動運転技術などでの企業としての取り組みや、パワーユニット戦略ではFCV、ハイブリッド、ダウンサイジング・ターボといったこれまでの技術展開は、戦略性に欠けるところも散見された。
八郷社長は、2030年を目途に販売台数の2/3を電動車両とする、としている。FCVとEVで約15%、ハイブリッドとPHEVが50%以上という方針を掲げ、特にPHEVを今後の電動化の中心とすると表明している。ある意味これは当然で、迫り来るアメリカでのZEV規制、中国政府の電気駆動化の国策に対応するためには早急に電気駆動化、つまりEVやPHEVの開発が急がれ、開発の裾野を広げる必要がある。
そして何よりも、軽自動車、コンパクトカーなど低価格車に偏ったホンダ・ブランドの再構築、デザインや走りに対する新たな、ホンダらしいブランド価値の創造とアピールが最も重要な課題となっている。