ホンダ 2021年F1シーズン後半に向けた最新パワーユニットの現状

ホンダは2021年10月21日、F1レースシリーズも終盤に差し掛かったタイミングで現状のF1用パワーユニットに関する説明会をオンラインで開催した。

F1プロジェクトを統括するHRD Sakuraセンター長&F1プロジェクト責任者の淺木泰昭LPLは、大幅に戦闘力を高めた現状のF1パワーユニットを解説した。

オンラインで現在の取り組みを語るF1プロジェクト責任者の淺木泰昭LPL

なお今シーズン用のパワーユニットに関しては、3月にも説明会を開催しているが、今回はより突っ込んだ内容になっている。

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現在のF1パワーユニットの規則
2個のモーターとターボエンジンを組み合わせたF1用ハイブリッドシステム

まず第1の注目点は、淺木LPLがF1プロジェクト責任者になった2018年後半に「2018スペック3」を投入し、大幅に出力を向上した点だ。これに関して淺木LPLは超高速燃焼技術を確立したとしている。

エンジンは希薄燃焼、高圧縮比により熱効率の向上がテーマ

現状のF1エンジンは、回生エネルギーの獲得と加速アシストを行なうリヤモーター(MGU-K:出力規制あり))、さらに出力制限なしのターボチャージャーと同軸の発電機(MGU-H)を装備し、その一方で内燃エンジンにはレース中の燃料流量制限が課せられている。そのため昔のような単純な高回転・高出力では燃費がクリアできないため、いかに熱効率を高めるかが重要になる。

2018年の後半に投入したスペック3から性能向上

そのため、リーンバーン(希薄燃焼)と高圧縮化が不可欠となり、リーンバーンのためにプレチャンバー(副室)式のリーンバーンが採用されている。狭い副室内に高圧のガソリンを噴射し点火プラグで着火、そして副室内の瞬間的な火炎がジェット流となって燃焼室に流れ込み、希薄な混合気を着火させるという仕組みだ。

しかし高圧縮比としているため、やはりノッキングが発生する。特に燃焼室の末端部、ピストンの外周などでは混合気の燃焼が悪く、ノッキング源となる。

F1用に確立した超高速燃焼。上が従来タイプ、下が新しい超高速燃焼

2018スペック3で実現した新高速燃焼技術はより圧縮比を高くし、ピストンの外周部、燃焼室の末端部で積極的に自己着火させ、副室からのジェット流と合体して瞬時に燃焼させるというもので、マツダのSKYACTIV-Xエンジンの自己着火とよく似た発想だ。もちろんこのスペック3は市販エンジン遥かに高回転エンジンのため、燃焼速度も超高速になっている。

こうした超高速燃焼のために燃焼室まわりの部品は新たに開発し、高耐熱性を高めているという。

2021年から投入した低重心、コンパクトでバルブ挟み角を縮小した新開発エンジン

こうした超高速燃焼を実現した上で、2021年によりコンパクトで低重心の新開発エンジンを投入。この新開発エンジンは、バルブ挟み角を極端に狭くし、その結果、高圧縮比でもピストン冠面が凸型にならず、よりフラットな形状で理想的な扁平な球形燃焼室とし、より高圧縮で、より高速燃焼が実現。さらに冷却損失も低減させ、結果的に熱効率を向上させている。

もうひとつ出力向上に重要なポイントは、出力制限のないMGU-H、つまりターボ直結の発電機出力だ。そのためには発電機に直結するターボの性能向上が不可欠になる。エンジンの希薄燃焼により、熱効率が向上すると排気温度が低下し、ターボの効率が低下する。そのため、ターボの効率を高め、結果的に発電機の発電力を高める必要がある。

ジェットタービンの技術をベースに開発された高効率大容量ターボ

ただ、市販車のターボはより低回転で高効率を目指しているのに対し、F1エンジンは最高1万5000rpmというレベルで、市販車用ターボとは異次元の高回転での効率が求められるため、ホンダはホンダ ジェット用のエンジン開発チームに協力を依頼し、ジェットタービン用のシミュレーション技術を駆使して高回転、大流量のターボを開発している。

新開発エンジンと、この新開発ターボによりメルセデスF1と同等レベルに達しているのだ。もちろん実際には、これ以外にエクソンモービルと共同開発した、耐ノック性を一段と高めた専用ガソリンも貢献している。この新ガソリンはバイオマス由来の材質と、グリーン水素を化合することで実現しており、将来的には車両や航空機のカーボンニュートラル燃料につながる素質を持っているという。

2021年後半から投入されたホンダ製の新開発バッテリー

また燃料以外に、より瞬発力の高い出力密度を持つ専用バッテリーも独自開発して今シーズン後半から投入している。これは内製バッテリーで、電極内の導電性を極限まで高める低抵抗とするため、特許のカーボンナノチューブを使用している。こうした技術は次世代のリチウムイオン バッテリーに貢献する可能性のある先端技術ということができる。

ホンダにとって、今後アメリカ シリーズ、中東シリーズの合わせて6戦を残すのみとなった。シリーズポイントはメルセデスチームと接近しており、厳しい戦いが予想されるが、よりよい結果を残すために最善を尽くすと淺木LPLは語っている。

なお、ホンダが開発したこれらの技術と2022年向けに開発済みの技術はレッドブルに移管されることになっている。

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