ホンダ 最終年2021シーズンに向け新開発F1エンジンを投入

ホンダは2021年3月16日、今シーズンのF1グランプリに向けたエンジン開発プロジェクトの概要を発表しました。ホンダは既に2021年シーズンでF1活動から撤退することを決定しており、最終シーズンに向けての計画や思いを、異例にもF1エンジン開発の総本山、本田技術研究所「HDR Sakura」のF1プロジェクト担当責任者(LPL)の浅木泰昭センター長がオンライン会見を行なって率直に語りました。

RA621H型パワーユニット

公式テストでは絶好調

この会見に先立つ3月12日~3月14日の3日間、バーレーン・サーキットで行なわれたプレシーズン公式テストでは、最終日にレッドブル・レーシング・ホンダのマックス・フェルスタッペン選手がトップタイム、そして今シーズンからF1にデビューするアルファタウリ・ホンダの角田裕毅選手が2番手のタイムを記録しています。

レッドブルRB16B
アルファ・タウリAT02

ただし、この全チームが参加するプレシーズンの公式テストは、チームごとにテストテーマがあり、さらにライバルに対する駆け引きもあって、全チームが予選状態のタイムアタックを行なっているとは考えにくいです。したがって開幕戦に向けて予断は許されない状況ですが、ホンダとしては2021年シーズン用のパワーユニット(PU)が、期待通りのパフォーマンスを発揮しているという確信は得たようです。

浅木泰昭F1パワーユニットLPL

F1用のパワーユニットの開発を担当しているのが栃木県さくら市にあるR&Dセンター「HRD Sakura」で、そのセンター長であり、F1パワーユニット開発担当責任者が浅木泰昭氏です。浅木氏はF1ターボ時代にエンジンの実験を担当し、その後は量産エンジンの初代オデッセイ用エンジン、アメリカ向けV6エンジンの開発などを担当。その後軽自動車N-BOXの開発責任者を務めた後「HRD Sakura」に呼び戻されたという経歴を持っています。

その浅木氏は、2021年シーズンに向けて、新設計のパワーユニットを短期間で開発し、投入することを明らかにしました。

F1パワーユニットの基本と2021年のレギュレーション変更

現在のF1のパワーユニットは、エンジン+モーターによるハイブリッドシステムを採用しています。エンジンはV型6気筒の1.6L+ターボで、ハイブリッドシステムとしては減速時の後輪から回生電力を得てバッテリーに貯蔵し、加速時にモーターで駆動アシストするMGU-Kと、排気ガスで駆動されるターボと同軸のジェネレーターで発電する電力を後輪用のモーターに駆動アシストするMGU-Hという2種類、つまり減速回生と排ガス回生による発電でモーターを駆動させるシステムです。

またMGU-Hはエンジンが低負荷時から加速するときには、ターボの回転上昇のアシストも行なうようになっています。

ただしMGU-Kによる電力の使用は、減速時にバッテリーに送られる回生量は1周あたり2MJ(メガジュール)で、バッテリーの電力での駆動アシストは1周あたり4MJに制限されています。一方でMGU-Hの出力や発電量には制限がないので、現在ではMGU-Hの発電性能が最大の焦点になっています。

このハイブリッドシステムが搭載されるのに合わせて、エンジンが消費する燃料は100kg/hという燃料の流量制限があり、1レースあたり110kgの燃料に制限されています。燃料の流量は瞬間的にも100kg/h相当でなければならず、その結果、より出力を高めるためには燃料が不足するようになっています。もちろん最高回転数も1万5000rpmまでに制限がかけられています。

このため、ハイブリッドシステムに合わせて、エンジンは熱効率を高めるために希薄燃焼を採用し、なおかつレース中に走行状態に合わせて燃料の混合比を変化させ、燃費が厳しい場合、減速時にコースティング走行も行なうなど燃費競争の側面も持っています。

そのため、ドライバーは、レース中に戦略に合わせてパワー・モード、回生モード、燃費モードなどのスイッチによる切り替えを行なっています。ちなみに予選でのパワー重視モードは禁止され、パーシャル・スロットル時のマップ変更のみになっています。

現状では化石燃料により発電された電力を使用するEVと同等レベルのCO2換算値に等しいほど高効率で、減速回生、排気ガス回生による効率も付加すると、最高熱効率は50%を超えているといいます。事実、メルセデス・ベンツのF1パワーユニットは2019年ころには熱効率50%を超えていると発表しており、今ではホンダも同等レベルになっているはずです。

なお2021年シーズンのパワーユニットに関する規則は、技術規定で定義されているパーツが大幅に増加し、ターボチャージャー、センサー類からバルブステムといった細かいパーツまで規則で定義されま、素材コストダウンのため最低重量は5㎏増え150㎏に変更されました。

またエンジン本体から補機、ハイブリッドシステム、燃料潤滑オイルなどの変更はシーズンで1回のみ許され、パワーユニットの使用基数も年間3基に制限されるため、1基のパワーユニットの耐久距離は7,000km以上が求められます。つまり超高回転、超高出力での全開走行を行なうユニットでありながら、市販乗用車並の耐久信頼性が求められているのです。

最新パワーユニットの投入

ホンダのF1活動は、2015年にマクラーレン・チームと共に活動を開始しましたが、マクラーレン時代はライバルに対して10%以上出力が劣っており、さらに2017年にはエンジンを見直した結果20%近い出力低下となり、これがマクラーレンと決別するきっかけになってしまいました。

2021年仕様のRA621H型パワーユニット諸元表

浅木氏が「HDR Sakura」に移動した後、パワーユニットの出力は改善し、2020年時点ではほぼライバルに比肩するレベルまで到達したと浅木氏は語っています。

そして2021年シーズンのために、新たなエンジンを開発し投入することになりました。社内では秋ごろになって2021年で撤退することが想定されていたものの、社長に直訴して「このまま結果を出さずに終われない」と訴え、いったんは開発が停止していた新設計エンジンの開発を短期間で再開し、間に合わせることができたそうです。

その新エンジンは、ポアピッチの縮小を行ない、よりコンパクト化させ、さらにシリンダーヘッドも大幅に改良。バルブ挟み角の拡大、カム配置の見直しなどにより低重心化とストレートな吸排気ポートのレイアウトとしています。当然ながら燃焼室の形状も大幅に見直されています。つまり、さらなる出力のアップとコンパクト化による車体側でのスペース効率の向上というふたつを狙っているわけです。

なお浅木氏は、新エンジンは「HDR Sakura」とイギリスのHRD-UKだけの力ではなく、ホンダジェットのエンジンを開発する先進パワーユニット・エネルギー研究所がターボ+MGU-Hを開発し、燃料は「HDR Sakura」とエクソンモービル、熊本製作所のシリンダーメッキの技術を活用するなど、幅広い領域での技術を活用していると説明しています。

3月29日、バーレーンで2021年のF1シーズンが開幕します。新エンジンを投入した、アルファ・タウリ・ホンダ、レッドブル・ホンダがどのような戦闘力を発揮するか、興味深いところです。

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