3回目は既存要件への対応としてお伝えしている3つのテーマに関し、今回はカーボンフリーへの対応、事故ゼロ社会を目指す技術についてお伝えしよう。
カーボンフリー社会を目指すホンダのシナリオ
技術進歩と社会変化を考慮した標準シナリオとIEA(国際エネルギー機関)が出したシナリオとでは大きな乖離が存在しているのがわかるだろう。2016年に出した目標では、標準シナリオで2050年で80%近くが何らかの形でICE(内燃機関)を搭載していることがわかる。一方、IEAのシナリオでは50%以上が電動化されていなければならないことがわかる。
これらの高いハードルに対しホンダのシナリオは
1:電動のモビリティ社会→ユーザビリティに課題
2:リニューアブル燃料のモビリティ社会→バイオ/水素/e-fuel
3:シナリオ1と2のコンビネーション→マルチパスウエイ
という戦略で対応していくとしている。また、これらの対応にはさまざまなパワートレーンを持つホンダならではの対応であることも興味深い。つまり二輪、四輪だけでなくジェット機や汎用製品も多く存在しているからだ。
そうした製品を踏まえマルチパスウエイを構築するためには、地域ごとに異なる人・社会・エネルギーの視点で、キーポイントを整理し適材適所のパワーユニットを準備することが必要とされてくる。
例えば、エネルギーへの政策、地域性に対しては図のような対策が必要と考えている。特に中国では強力な電動化が推し進められているため、電動化への対策が必須で、北米では大型車のEV化が難しいことにも関わらずZEV規制がある。また、タイ、ブラジルのアルコール燃料など地域に向けた対応が必要になるといわけだ。
直近では、CO2排出を限りなくゼロに向けた社会に向けて、i-MMD技術を磨くことを挙げた。実際に、2019年3月、米国NHTSAが発表したCAFE(企業平均燃費)では29.4MPG(マイル・パー・ガロン)を達成し、トップへ返り咲いている。
こうした技術を進化させることで、PHEVへの展開、あるいは小型車、大型車への展開に拡大し、そして培われた技術によって、BEV(バッテリーEV)へ展開していく。このような背景から、ホンダはi-MMDシステムを当面の主体技術に位置付け、スモール領域にも対応した。次世代ハイブリッドの基盤としていくことを明確にし、つまり次期フィットにも搭載することを意味しているのだ。
モーター製造領域では、分布巻きモーターから角形巻線の量産化ができ、またパワー半導体であるSiCチップ(シリコンカーバイド)の量産化ができているという。これは標準化の考えを採り入れており、これまでは秘密だったものが、共通化されるため製造企業を増やすことができる。そのため安定的に製造できるようになり、スケールメリットによるコスト削減を目指すとしている。
さらに水素を使ったFCV技術もグローバルで見ても、ホンダはトヨタと並んでリーダー的存在であり、将来的なカーボンフリーを展開していくコア技術に位置付けている。ホンダは、この水素を使った発電技術は、将来重要なパワーユニットの一つになると考えており、GMとの合弁会社で燃料電池の製造を準備している段階だという。そしてFCVはエネルギー密度が大きいという特徴を生かし、BEVでは難しい、大型の車両へ貢献できると考えており、新たな分野での活用を踏まえて開発しているということだ。
モーター、バッテリー、そしてプラットフォーム
電動化において必須となるモーターの調達は、日立オートモーティブとの合弁会社を立ち上げ、中国、日本、米国で提供可能となり、バッテリーはGSユアサとの合弁会社であるブルーエナジーやパナソニックに加えて、北米ではGM、中国ではCATLからの供給を計画している。もちろんスケールメリットによるコスト低減を目指している。
車両の作り方としてはホンダらしく、爽快な走りなどホンダのこだわりを活かしつつ高効率なパッケージづくりを目指すとしている。おもに、リヤドライブで構成し、フォルクスワーゲンがBEV向けのプラットフォームを造ったように、同様のベクトルで開発されていると想像できる。そうしてできたBEV向けプラットフォームでは、SUVやセダンタイプなどにも対応が可能で、BEV向け新プラットフォーム計画が進行しているという。
3つめの事故ゼロ技術で実現したい技術として、Honda sensingの進化だ。現在最も力を入れているのは運転支援技術の拡充だ。また、近年社会問題となっている踏み間違いによる事故に関し、事故を防ぐために、前方後方を含めた誤発進抑制機能を持つホンダ センシングの標準装備化を新型車、フルモデルチェンジに合わせて順次進めていくとしている。さらに、既販車への後付け技術も早急に販売できるように開発しているということだ。
事故ゼロ技術
ホンダは、交通事故ゼロを目指し、ホンダセンシングのさらなる進化をさせ、複雑な交通シーンでの活用を目指す。さらに2020年には高速道自動運転技術を確立し、AIによる自動運転技術の進化に取り組んだ安全運転支援を進化させるとしている。
これまでのぶつからない技術を安全運転支援に積極的に活用し、事故の詳細分析などのデータを蓄積し、高度な予知、予測、判断、認知能力を活用した多岐にわたる複雑な交通状況への対応を図ることを目指していく。
またオランダで開催されたESV2019では、新たな安全コンセプトである、先進衝突安全技術である「統合安全技術とドライバー安全能力の拡張によって、運転の自信を高めるケアリングセーフティ」という新たなコンセプトも発表している。
そして今後の技術の進化においては、認知予測判断操作をシステムが代用していくことや、ハンズオフ機能を織り込んだ自動運転へとつなげていく。そうした機能に伴い、ドライバーへの運転交代要請として、視覚、聴覚、感触で確実に伝達する技術、応じない場合の対応なども織り込んだ開発をしていくとしている。
その開発プロセスは、データの管理システムであるALM Application Lifecycle Managementを構築してデータの一元管理、そしてPDCAを実行していくわけだ。PDCAは、Plan仕様設計→Doはモデルやハードウエアのシミュレーションによる検証を行ない→Checkで不具合レポートからの修正→Action行動、というループで開発されていくとしている。
また、こうした進化の過程でグローバルにおいて、国、地域への対応も迫られるわけで、欧州では、「欧州L3Pilot」に参画、実証実験し、欧州地域の受容性実証 に向けたコンソーシアムに参加している。中国では、Baidu Apolloに参画、実証実験し、中国独自の地図とその応用に関する共同研究を実施している。
国内では、技術確立に向けた実証実験、高速道自動運転の実証実験を日本全土で走行し実施する。そして米国では、先進技術研究、実証実験をし、一般道走行におけるAI技術で公道実証実験を実施するという対応が始まっている。
これらの自動運転の進化には、AIによる予知、予測が複雑な交通シーンにおいても安心、安全を実現する必要があり、熟練ドライバーのような予防安全運転を実現していく。そのため中国のセンスタイム社が共同研究パートナーとなっているという。
ここまで3回にわたり、Honda eMaaSの基盤となる新技術投入、既存要件への対応についてお伝えしてきた。こうした対応をとることでHonda eMaaSが実現に近づいていくわけで、次回はそのゴールであるモビリティ、エネルギー循環型Honda eMaaSの未来についてお伝えしよう。<レポート:高橋明/Akia Takahashi>