マニアック評価vol141
2012年9月28日より発売されているCR-Zは、よりスポーティなドライブが楽しめるハイブリットカーとしてマイナーチェンジを受けている。エクステリア、インテリアの変更のほか、走行性能のアップを目指した変更もあり、気になるところだ。
マイナーチェンジのポイントとなるのは、出力の向上が挙げられる。これまで搭載していたニッケル水素バッテリーをリチウムイオンバッテリーに変更し、電圧をアップさせモーターで6psの出力アップ。さらに吸気バルブの制御変更に伴いエンジンも6psアップし合計12psの出力アップがある。さらに17インチのタイヤ装着設定をするために、サスペンションのチューニング、ボディ剛性のアップなどもあり、地味ながらバージョンアップされているのだ。
エクステリアでは、フロントポジションランプに8個のLEDランプを用い、存在感を強く見せる。プレミアムブランドでは流行の手法だ。また、ワイド感を強調する大開口のフロントグリル、新デザインバンパーなどの意匠変更が行われている。そして17インチのアルミ軽量ホイールが設定され、外見的にもスポーティに変化している。
走行性能では、パワーユニットの出力アップに伴い、MT車のクラッチサイズがワンサイズ大きくなり、CVTでは油温、油圧センサーなど3つのセンサーを追加して、よりリニアな制御へと変更されている。サスペンションでは17インチを装着するために設定が見直しされ、前後ダンパーの減衰力が変更されている。
さらに、フロントではダンパーハウジングまわりにスポット増しを行い、ボディ剛性もあげている。そのうえスタビライザーも18φから19φへとサイズアップし、全体的に見直しされているのだ。従ってこれまでと同じ16インチ装着モデルもMC前よりボディ剛性がアップしたことになる。そして、このチューニングが行われたことで、これまで以上のキビキビとしたハンドリングが楽しめるモデルとなっている。
↑↑ マスターレーベルのインテリア。コンビカラーの内装で、ステアリングは赤のステッチで装飾 ↑↑
これらの変更が行われた今回のマイナーチェンジで、新たにモデルラインアップに加わったのが、17インチ装着の新グレード「α マスターレーベル」だ。ツートンのインテリアで上質さを増し、アルカンターラとのコンビシートも装備されて、4万円のアップというお買い得感の高いモデルだ。
もう少し詳細に変更点を見てみると、まず、バッテリーではこれまでの円筒型のニッケル水素の84セルで、1.2V/セルから角型リチウムイオンの40セル、3.6V/セルへ変更されている。これにより電圧が100Vから144Vへアップし、モーター出力も13kwから18.8kwへ向上している。一方体積は39.7Lから38.6Lへ小さくなり、質量は20.2kgのまま変更ナシとなっている。エネルギー容量としては2.2倍となっている。
リチウムイオンバッテリーの特長として、ニッケル水素より発熱がしにくく、45℃でパワーセーブモードが働いてモーターアシストを抑えていたものが、セーブモードに入ることがなくアシストが可能になる。従ってホンダ社内データでは、0-80km/h加速テストで、ニッケル水素では4回アシストが可能だったものがリチウムでは9回まで可能になったという。
さらに、「+S」ボタンを追加したことで、よりスポーティにドライビングが楽しめるアイテムが増えている。これは、瞬間的な加速Gをつくり出す機能で、バッテリー残量があるときに、ボタンを押すとエンジンのスロットルが全開になり、モーターアシストもフルアシスト状態になる。ミッションはCVTでは、ローギヤードへシフトし、MTでも3000rpm以上でその加速Gを体感することができるボタンで、社内では「秘密のボタン」と呼ばれている。社内データでは0-100km/h加速が6MTで8.8秒。燃費も良くなって、走行性能もアップできたわけだ。
エンジン本体の改良では、バルブタイミングの変更があった。MC前のモデルは低速回転時の吸気バルブは4バルブのうち、2本が吸気用だが、そのうちの1本を作動させず、回転が上がったときに作動する制御だった。それを今回、低回転時でも4本のバルブを作動させ、吸気量はバルブのリフト量で制御する方法に変更さている。なお、レッドゾーンは6500rpmから7000rpmへと変更している。
実際の試乗で、早速+Sボタンを試してみた。試乗車はCVTモデルで17インチを装着したαモデル。マスターレーベルではないが、オプションのレザーインテリア仕様なので、高級感のあるインテリアだ。FFでありながらペダル配置が自然な位置にあり、実に気持ちの良いポジションが取れることを再確認した。走りにこだわるメーカーらしさだと思う。
CVTは制御が変更になり、よりリニアに反応するようにしたというように、CVTであることを意識させられることが少ない。アクセルを急に戻したり、アクセルの踏みなおしなどをしても回転がキチンと付いてくるのでギクシャクするようなこともない。そして30km/h以上のときに+Sボタンを押すと、ドッカーンと加速して楽しい。V6型3.0Lクラス並みの加速力とホンダでは表現している。
この+Sボタンは、ECOモード、ノーマル、スポーツどのモードのときでも作動するので、瞬間的に加速が欲しいような場合にとても有効なボタンだと思う。高速での合流や追い越しなど、ECOモードで走行中にもドッカン加速があるので、楽に合流することもできる。そしてスロットルを戻せばすぐにもとの設定しているモードに戻るので、無駄な燃料消費はしなくて済む。
6MTの16インチに試乗したが、こちらもキビキビとしたハンドリングでスポーティさの高いモデルと感じた。CR-Zはもともと16インチで専用タイヤを開発しているため、そのマッチングは素晴らしく、車両特性を十分に引き出すセッティングとなっている。そのため、この6MT+16インチ仕様の完成度は高いと感じる。また、16インチ装着モデルでもボディ剛性がアップしたため、ハンドリングや乗り心地などMC前のモデルと乗り比べるとおそらく違いがあると思われる。
一方CVT+17インチのハンドリングもCR-Zらしい気持ちよさがある。タイヤ自体は専用設計ではなく市販タイヤを装着する。だが、十数種類にもおよぶマッチングテストを重ねたということで、ミシュランのパイロットスポーツ3が選択されている。雨や雪、乗り心地、耐磨耗性などの総合性能でミシュランに決定した経緯があるという。
コーナーではどんどんイン側へと回頭し、切り増しをしてもその回頭性の高さは変わらない。ロールとヨーモーメントのバランスがいいのだろう、安心してコーナーに飛び込め、そしてアクセルも積極的に開けることができる。ステアリング舵角を変えずにコーナーリングしているようなケースでも、アクセルをもっと開けたくなる衝動が沸き起こる。それも車両の安定感、安心感がもたらすものなのだろう。
ハイブリッドというと、エコ、省燃費という流れが主流の国内において、スポーツを標榜するCR-Zは他と一線を画す存在で、運転することの楽しさがあるモデルだった。さらに、今回+Sボタンという遊び心も付け加えて、より一層楽しくドライブできる。個人的にはマニュアル・ミッション崇拝者ではないが、このモデルではCVTより格段に6MTが楽しくドライブできた。操作する楽しみを味わいたいユーザーにはまさにうってつけの1台になるだろう。
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