2011年11月30日の東京モーターショーのプレスデーに、ホンダは次世代の革新的なエンジン、トランスミッションの新シリーズ「EARTH DREAMS TECHNOLOGY(アース・ドリームス・テクノロジー)」の概要を発表した。「アース・ドリームス・テクノロジー」というシリーズ名称は、内燃機関、トランスミッションの効率向上とモーターなどの電動化技術の各分野にわたって環境性能を高め、同時に運転する楽しさを追求。走りと燃費を高次元で両立させる次世代技術の総称としている。
この新技術の第1弾は同日に発表された新型軽自動車のN BOXに採用されているが、今後、新たに発売する各カテゴリーのクルマに展開し、3年以内に各カテゴリーで燃費No.1を目指すとともに、2020年までに全世界で販売する製品のCO2排出量を2000年比で30%低減することを目指すとしている。
アース・ドリーム・テクノロジーとは、以下のような内容だ。
・走りと燃費性能で世界トップレベルを実現したガソリンエンジン
・世界最軽量で、クラストップの加速性能と燃費性能を実現した小型ディーゼルエンジン
・操る楽しさと燃費性能を両立したCVT
・世界最高効率を実現した2モーターハイブリッドシステム
・走りと燃費性能を両立した高効率・高出力のハイブリッドシステム「電動SH-AWD」
・EV用小型高効率電動パワートレイン
このように、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、CVT、2モーターハイブリッド、エンジンとリヤ2モーター駆動によるSH-AWD、EVパワートレイン…と幅広い内容を含んでおり、それらをここ3年程度で一気に展開するというので注目したい。
まずガソリンエンジンについては、VTECを、つまり可変バルブタイミング&リフト機構を進化させ、同時にモジュール化を前提としたベースエンジンとすることで、熱効率の向上とフリクションの低減を追求。高出力と低燃費を両立させるという。排気量のラインアップは、660ccクラスから、1.3Lクラス、1.5Lクラス、1.8Lクラス、2.0Lクラス、2.4Lクラス、3.5Lクラスと全クラスをカバーする。
第1弾としてN BOXに搭載されたのが、660ccクラスの新エンジンだ。DOHCやVTC(連続可変バルブタイミングコントロール機構)を採用したことで吸気効率が向上。またコンパクトな燃焼室により、高い熱効率を実現している。現行エンジンに対してボアピッチを短縮してコンパクト化させたほか、シリンダーブロックやカムシャフトなどを薄肉化したことにより、エンジン単体で15%以上の軽量化と10%の燃費向上を達成している。
このS07A型3気筒エンジンは動弁機構をスイングアーム式ローラーロッカーアームとし、軽自動車としては異例の油圧ラッシュアジャスター(HLA)も採用している。HLAの採用はシリンダーヘッド部の自動組み立ての幅をさらに拡大したためと思われる。ボア×ストロークは64.0×68.2mmとややロングストロークで、圧縮比は11.2と高い。燃焼室まわりの冷却性能の向上、ロング吸気マニホールドの採用などで、低中速域でのトルク向上と耐ノック性能の向上を図っている。
フリクションの低減では内部部品の軽量化、ピストンリングの薄肉化、低フリクション・オイルシールの採用から、ローラー式スイングアーム・バルブ駆動、2段リリーフ式オイルポンプの採用など、現時点では最も先進的な軽自動車エンジンとなっている。
性能的には自然吸気エンジンで最大トルクは3500rpm、ターボ仕様で2600rpmと、最新の性能トレンドである低回転での最大トルク発生という性能を軽自動車で実現し、より低い回転数で走行できる点も画期的と言える。このためエンジンとCVTは総合トルク制御ロジックを使用し、低負荷域ではより低い回転数で走行するようになっている。この点でもN BOXは軽自動車でトップに踊り出たと言え、ドリーム・アース・テクノロジーシリーズの第1弾にふさわしい内容と言えるだろう。
以下の各エンジンについて、公表された内容は次の通りだ。
1.3L〜1.5Lクラスエンジン
DOHC、VTEC技術をベースに、VTC、直噴技術およびアトキンソンサイクルを採用。徹底的な低フリクション化を実現(写真下左/いずれも開発中のもの。以下同)。
1.8〜2.0Lクラスエンジン
DOHC、VTEC技術をベースに、直噴技術およびアトキンソンサイクルを採用。また吸気側、排気側の両方へのVTC配置と大量EGRの導入により、徹底的な低フリクション化を図る。2.0Lクラスハイブリッド車用エンジンは電動ウォーターポンプの採用、補機のベルトレス化により低フリクション化。VTCの採用と合わせ、低燃費運転領域の拡大を図る(写真上右)。
2.4Lクラスエンジン
DOHC、VTEC技術をベースにVTC、直噴技術を採用するとともに、徹底的な低フリクション化を実施。現行エンジンに対し、エンジン単体で燃費、出力ともに5%、最大トルクは10%向上させる(写真下左)。
3.5Lクラスエンジン
SOHC、VTEC、VCMに新動弁機構と直噴技術を採用することで、エンジン単体で現行エンジンに対し、燃費で10%以上、出力で5%以上の向上を図る(写真上右)。
このように、軽自動車用エンジン以外は直噴化、アトキンソンサイクル運転の採用、大量EGRなどを採用し、ポンピングロスの徹底的な低減を行うことが注目される。
ディーゼルエンジンは欧州の流れに対応してダウンサイズ
ディーゼルエンジンは、1.6Lクラスで世界最軽量とし、加速と燃費でトップレベルを狙うとしている。軽量化の追求のためにアルミ製のオープンデッキ構造のシリンダーブロックを採用している。このディーゼルエンジンは現行の2.2Lエンジンからのダウンサイジング版とされ、各部のメカニカル・フリクションを徹底的に低減することで、現行ガソリンエンジンと同等レベルの低フリクション化を達成したという。冷却システムの改良なども行い、CO2を従来のディーゼルエンジンより15%以上低減している。また、小型高効率ターボチャージャーの採用と往復運動の徹底した軽量化により、レスポンスに優れたエンジンとしている。
CVTは車格に応じた3シリーズをラインアップ予定
CVTは新設計で、軽自動車用/小型用/中型用の3シリーズをラインアップする予定だ。高強度金属ベルトを開発し、従来より変速比幅を拡大。またプーリー作動油圧を走行条件に合わせて最適化し、オイルポンプ駆動損失を減らして燃費を向上している。またアイドリングストップ機構に合わせて、電動オイルポンプも採用されている。
変速、スロットル、油圧制御系、つまりエンジンとトランスミッションの新協調制御「G-Design Shift」を採用し、ドライバーの要求に素早く反応し、高く伸びのある加速Gを維持して、爽快でスポーティなドライブフィールを実現している。
新しいN BOXに搭載された軽自動車用CVTは、前後長を短いレイアウトとし、構成表部品数も減らすことで、軽量・コンパクトさを追求している。また小型・中型クラス用は、軽量・コンパクト化、変速比幅の拡大、伝達効率の向上などにより、燃費は従来のCVTより5%向上、5速AT比では10%の向上としている。
2モーターハイブリッドは2012年にも市販予定だ
ホンダはCO2削減、燃費と走りの性能を一段と向上させた世界最高効率の2モーターハイブリッドを新開発している。リチウムイオン電池を搭載し、プラグインにも対応。モーターは120kWと高出力だ。走行モードはEVモードとシリーズハイブリッド・モードに加えて、高速走行ではエンジンを直結化させたエンジン・モードの3モードとしている。なお2012年にはこのシステムを採用したプラグイン・ハイブリッド車を、2013年には中型車を発売する予定としている。
電動SH-AWDでは後輪の左右を独立して駆動する
大型車用のハイブリッドシステムとして、3モーターの電動SH-AWDも開発中だ。3.5LのV6型エンジンをベースにしたこのシステムは、大型クラスにふさわしいV8型エンジン並みの走りと、直4型エンジン車レベルの燃費を両立させるとしている。トランスミッションは新開発の7速DCTで、30kW級のモーターを内蔵。したがってパラレル・ハイブリッドとして機能する。
また後輪の左右にはそれぞれ20kW級のモーターを配置し、左右は独立駆動が可能な4輪駆動システムだ。このため、リヤの左右輪をトルク、回転数を変更することでオンザレール感覚のハンドリングが実現されるのだ。電池はもちろんリチウムイオン電池を搭載する。
EV用小型・高効率パワートレインは世界最高電費を実現
高効率の同軸モーター、低フリクションのギヤボックス、電動サーボ・ブレーキなどをパッケージすることで、世界最高効率の電費(29kWh/100マイル)を実現。航続距離はJC08モードで210kmとしている。走行モードは、ノーマル/スポーツ/ECONの3モードを持つ。
このようにホンダはリソースを集中し、パワーユニット、パワートレインの全ラインアップを一新するということは、従来のIMAハイブリッド一本槍から大きな方向転換を意味している。またその内容的にもベースエンジンの一新、新ハイブリッドシステム、新トランスミッションなど全方位でのイノベーションを行うという点で、大いに評価・期待できる。
文:編集部 松本晴比古