10月8日、フィットがマイナーチェンジされ、新たにハイブリッドを追加した。今回はビッグマイナーチェンジという位置付けで、エクステリア、内装の手直し、装備の充実化などがはかられ、グレードも刷新している。注目は、新たに設定したハイブリッド、スポーティさを強調した1.5RS、上級者からの乗り換えを意識した1.5Xなどで、ラインアップのポジショニングをより明確化している。
↑フィットハイブリッドとインテリア
現行のフィットは2007年秋の発売で、2010年は3年目にあたる。初代のフィットは2001年から2007年まで6年間販売されたが、おそらく現行モデルは5〜6年程度のモデルライフになると考えられる。つまり今回のマイナーチェンジはちょうどモデルライフの半ばで行われたことになる。
フィットは初代以来、コンセプトは不変で、キャビンスペースとモダンさを両立させた洗練されたモノフォルムデザインである。床下センター燃料タンクを採用することで、リヤシートがフロア面まで折り畳めリヤスペース、ラゲッジスペースの有用性が高いという点が2本柱になっている。つまりデザインと、キャビンスペース&ユーティリティがコンセプトの基本であり、ホンダのMM思想、マンマキシマム・メカミニマムを徹底したモデルといえる。
その一方で、初代は動力性能とサスペンションストロークなどシャシー性能や乗り心地に弱点を抱えていたが、2代目ではこれらの弱点が改善されている。2代目では、最初からグローバルに販売することを前提としていたため、プラットフォームからすべてが新設計されたことは大きな特徴だ。このため、ボディは世界各地で生産されるために、調達が可能な590Mpa級の高張力鋼板を上限としている。
セールス面では、初代からトヨタ・ヴィッツを上まわる勢いで、トヨタに危機感を抱かせるほど成功している。2代目フィットのセールスも好調で、初代以来日本では累計150万台、全世界、115カ国の市場で350万台を超えるヒット作となった。
工場は日本、ブラジル、タイ、中国、インドネシア、台湾、そして2009年からはイギリスとインドでの生産も開始されている。マーケット的には、日本以外では南北アメリカ、ヨーロッパが60万台を超える規模で、アジアは現在70万台規模である。がしかし、さらに飛躍的に市場を拡大すると見られる。フィットはまさにホンダを支えるワールドカーであり、今後は新興国でさらに販売を拡大する役割を担っているのだ。
そのフィットだが、日本では低価格ゾーンの*サブコンパクトカーと位置付けられている。しかしヨーロッパやアジアでは同クラスのBセグメント車よりやや割高な価格設定としており、若干日本でのポジションニングイメージとは違っているようだ。欧州やアジアでのフィットの魅力は、デザインとユーティリティの高さで強い競争力を持っていると考えられる。*全長がおおむね4.3m以下、ホイルベースが2.54m(100インチ)以下の車両で米国での呼称
細部までにいたる燃費チューニング
今回のマイナーチェンジでフィットのベースでありメインになるのは13G/13Lである。デザイン変更以外では、燃費のアップ、使い勝手の向上、オプションとして音声ガイド・自動操舵式パーキングアシストやリヤビューカメラも設定。燃費はエンジン、CVTの改良により10・15モードで24.5km/Lとなっている。
エンジンやCVT本体は従来と変更ないが、細部には変更が行われている。油膜保持により優れたパターンコーティングを採用、ピストンのオイルリングはなんと2ピース構造! とする、また、吸気ポートの形状を改良して低速時のスワール流を強化し、より大量のEGR(排気ガス再循環)を導入して高効率燃焼への改良が加えられている。さらに、CVT車用のシリンダージャケットには、樹脂製のスペーサーを挿入して熱間時のピストンクリアランスを適正保持させる工夫や、クランクオイルシール部にテフロン加工を採用するなど、きわめて細部まで燃費チューニングを行っている。CVTにはフルードウォーマーをもうけ、フリクションロス(摩擦抵抗)への配慮もある。そして油圧センサー追加装備し、あわせてECOモードスイッチを装用している。
↑樹脂製のウオータージャケットや2ピース構造のピストンリングなど細部のチューニングが行われている。
エクステリアは単なるデザイン変更だけではなく、空力特性を改善しており、これはヨーロッパ市場を意識したものだ。1.5Lモデルでは、15Xは専用デザイン、専用装備やMクラスセダン並みの静粛性を訴求し、上級車からの乗り換えユーザーに快適性でアピールできるようにした。またスポーティモデルであるRSは、従来の5速MTから6速MTにグレードアップし、サスペンション、電動パワーステアリング、電子スロットルなどへスポーティチューニングを施し、従来モデルよりスポーティさを強調している。
インサイト・CRZと共通のユニット
今回のフィット・ハイブリッドはホンダのハイブリッドモデルとして、インサイト、CR-Zに続く第3弾となる。しかし、先行した2車とパワーユニットは共通で、先行2車は専用デザイン、専用パッケージングであるのに対し、フィット・ハイブリッドは初の既存車種へのハイブリッド搭載となった。
↑ハイブリッドユニットとCVT。右)バッテリーとパワーコントロールユニット
この共通するハイブリッド車のエンジンは、インサイト、CR-Zに搭載されているSOHC、2バルブ、2点火プラグ式で、13G/13LのSOHC、4バルブ、シングル点火プラグとは異なっている。パワーコンポーネントのレイアウトは、バッテリー、PCUをリヤのスペアタイヤのスペースに収納しており、ラゲッジフロアの高さは、リヤシートを折り畳んだ時のシートバック上面と同一の高さとなり、きわめてスペース効率が高い。もちろんこれは、モーターアシスト式、つまりパラレル式ハイブリッド・システムの利点を生かした結果で、バッテリー容積がプリウスなどよりはるかに小さいことのメリットといえる。
燃費は10・15モードで30km/Lとなっていて、インサイトと同じである。しかし、フィットはインサイトより空力面で不利なため、重量差(約70kg)、空気抵抗軽減、タイヤやブレーキキャリパーの改善などにより差を埋めているのだ。このため、フィット・ハイブリッドはエンジンアンダーカバー、フロアアンダーカバーを専用装備している。
またハイブリッド制御は、アイドリングストップをより稼動しやすくし、市街地発進時のモーターアシスト量を増大させ、低速クルーズ時のモーター走行域を拡大するなどの変更を行っている。そのため市街地ベストといえる。その他にハイブリッド車には、吸音材、遮音材を追加し、ベースモデルよりはるかに静粛化を行っているのも特徴である。
ハイブリッド車の価格は159万円、中級装備車で172万円、ナビ+フル装備車で210万円となっている。
今後の展望
フィットは、ホンダにとって最大のワールドカーであり生産台数が多いことや、世界各国の工場で生産されるという制約などを抱え、コスト制約が強く、身動きが遅くなる傾向にあることは否めない。フォルクスワーゲンはポロを開発するにあたって、JAZZ(フィットの海外車名)も参考にしつつ、ダウンサイジング・エンジン、DSGの搭載やボディ構造の軽量・高剛性化など大幅な革新を行った。これに対して、フィットはワールドカー化の推進や、ハイブリッドシステムの搭載に開発を特化したこともあって、ベース部分の革新ではやや後手にまわっている気がする。だからエンジンやトランスミッションの刷新は、2012年以降ではないかと予想できる。
もちろん次世代への革新は、フルモデルチェンジ時に行われると見るのが妥当だが、その間にも技術革新は大幅に起きており、競争が激化しているのだ。実用燃費においても、新エンジンを投入した日産マーチ、VWポロとフィット・ハイブリッドのいずれが優位なのだろうか?
また、ホンダはハイブリッド・システムの販売拡大を最優先とし、システム価格は約20万円とすることを実現した。このためバッテリーは現在でも第1世代ともいえる単1電池型を採用しているが、もちろんこれはスペースユーティリティを考えれば角型モジュールに劣る。とはいえ、開発は進んでおり、ブルーエナジー社が開発する新型リチウムイオン・バッテリーは次期シビック・ハイブリッドから採用される模様だ。
そして、ここ最近は世界的に、サブコンパクトカーのEV化の流れが加速している。これに対応したホンダのEVは、2012年以降とされている。
↑開発責任者の人見氏。
↓おまけ動画:プレス発表会の模様
文:編集部 松本晴比古