マニアック評価vol601
フォルクスワーゲンのGTIシリーズが6月に発表されたが、従来からラインアップされている「ゴルフGTI」「ポロGTI」以上に注目を浴びたのが、新登場の「up! GTI」だろう。220万円という価格と、全長3625mm、全幅1650mm、全高1485mm、車両重量1000kgというAセグメントのコンパクトなサイズのGTIモデルは、マニア層には相当のインパクトだ。その注目のup! GTIを試乗したのでレポートしよう。<レポート:松本晴比古/Haruhiko Matsumoto>
■最新世代のエンジンを搭載
up! GTIのボディサイズは、初代のゴルフGTIとほとんど同等で、昔のゴルフGTIを知っている中高年のマニアックなドライバーに受けることは言うまでもない。しかし、初代ゴルフGTIをオマージュしたモデルとはいいながらも、中身は最新技術が投入されていることも忘れてはならない。
エンジンはベースのup!と同じ3気筒・999ccだが、エンジン本体は最新世代の設計となり、直噴ターボ化され、6速MTと組み合わされる。この3気筒の直噴エンジンはフォルクスワーゲンのエンジンの中でも最も新しい仕様で、4元触媒+PM対策のDPFフィルターも装備しているのだ。このエンジンはGTI用にハイチューンされているというほどではなく116ps/200Nmの出力で、2000rpmから最大トルクを発生する。ほどほどのパワーと強力な低速トルクを重視した扱いやすい現代的なエンジンだ。
またトランスミッションは6速MTのみの設定で、ヨーロッパでは違和感はないが、国内では今時、珍しいともいえる。またこの6速MTは2速以上はハイギヤードかつクロス・タイプで、高速カーブや高速巡航を意識した設定になっている。こんな小さなモデルだが本籍地はアウトバーンであることが感じられる。
このup! GTIは、2ドア・ボディのみだ。6速MT、2ドア・ボディということで、マニアにターゲットを絞ったクルマなので日本では600台限定販売。だからプレミアが付くモデルになるかもしれない。
■試乗レポート
シートはGTIのオリジナルのファブリックシートで、もちろんチェック柄を採用しており、リヤシートも同様だ。インスツルメントパネルのカラー装飾は濃い赤にクロのメッシュをプリントし、渋い演出だ。シートは豪華なスポーツシートではないが、ややヤップライトな姿勢ながらぴったり体にフィットし、満足すべき仕上がりだ。
走り出すと、1.0Lとは思えない分厚い低速トルクが感じられ、市街地などは高いギヤのままで忙しくギヤシフトする必要もなく、フレキシブルで扱いやすい。その一方で、スポーティなエンジンのようにシャープなレスポンスで吹け上がり、アクセルを離せば瞬時に回転が下がるという感じではなく、むしろもっさりとした印象だ。
これはまだ十分に当たりが付いていないのか、こういう特性なのかは判断できないが、意外な気がした。ただ、トルクを活かした走り、加速性能には不満はない。また3000rpmあたりから、スポーツカーのようなエンジンサウンドが少しだけ強調される仕掛けがあり、加速サウンドは爽快感がある。
公表されている動力性能は最高速196km/h、0-100km/h加速は8.8秒だ。このGTIはハイギヤードの設定もあって、アウトバーンを140〜150km/hで巡航するのが最も快適な走りの場面といえるかもしれない。
これはGTIモデルに限らず、up!は小さなボディにもかかわらず、ステアリングを握ると遥かに大きなクルマに乗っているようなどっしりしたフィーリングだが、このGTIもその延長線上にある。しっかり感があり、リヤのグリップが抜群だ。ステアリングの効きもクイックではなく穏やかだ。
公道試乗とは別に、富士スピードウェイのショートサーキットで試乗することもできた。up! GTIの6速MTは、ギヤ比が欧州仕様のままなので、比較的ハイギヤード。ショートサーキットでは2速と3速しか使わない。しかもストレート以外はすべて2速のまま。途中オーバーレブするところもあるので、シフトアップをしてもいいのだが、すぐにシフトダウンすることになるので、アクセルを緩めてレッドゾーンぎりぎりのことろでガマンしながら走行するという状態だった。
コースの縁石を乗り上げたりした時に特に感じる、ボディ剛性の高さとシャシー剛性のしっかり感は特筆モノだった。
up! GTIは17インチサイズのグッドイヤー・タイヤで、「エフィシェントグリップパフォーマンス」を装着しており、低燃費系の中でもスポーティな性能に振ったタイプのタイヤが装着されていた。しかし乗り心地も凹凸をしっかり減衰し、ゴツゴツ感のない大人びたフィーリングだ。こうした乗り心地、安定感のある走りで、ある意味普遍性の高いモデルといえるが、やはり2ドア・ボディと6速MTという条件が加わるので、up! GTIはクルマがドライバーを選ぶということになるのかもしれない。