【フォルクスワーゲン】ジウジアーロとワルター・デ・シルヴァが語るVWゴルフとデザイン哲学

雑誌に載らない話vol73

マエストロ・ジウジアーロ氏(左)とVWのデザイン・ブランド統括取締役デ・シルヴァ氏

新型ゴルフ7の発表会では、プレゼテーションをデザイン統括責任者のワルター・デ・シルヴァ氏が行なった。そのプレゼンテーションの終了後、元アウディのデザイナーで、デ・シルヴァ氏の部下でもあった和田智氏が司会者となり、スペシャルゲストであるジョルジェット・ジウジアーロ氏とワルター・デ・シルヴァ氏による夢の対談が行なわれた。

このニュースは日本の自動車メーカーのデザイン部門にもすぐさま伝わり、対談の要旨は部署内で回覧されたといわれる。実際、それだけカーデザインの現在は閉塞感が深く、今回登場した伝説のマエストロ(芸術家の巨匠)の言葉はとてつもない重みがあると言わざるを得ない。

左からジウジアーロ、デ・シルヴァ、元アウディ・デザイナーの和田智氏

ジョルジェット・ジウジアーロ:1938年、イタリア生まれ。若くしてフィアットのダンテ・ジアコーサ技師に見出され、同社デザイン部で働いた後、カロッツェリア・ベルトーネに移籍。その後はギア社を経て1968年にイタルデザイン社を起業する。2010年から同社はVWグループ傘下に加わっている。VW社からの委託を受け、初代ゴルフをデザインしたのもこのジウジアーロ氏である。また同氏はカーデザインだけではなく、交通機関や多くの分野の工業製品デザインでも高い評価を受けている。カーデザインの分野では今では伝説の巨匠とされる。

ワルター・デ・シルヴァ:1951年、イタリア生まれ。フィアット・デザインセンターを経てインテリア製品のデザイン、イデア社で工業デザイン、カーデザインを担当。その後はアルファロメオの主任デザイナー、セアト社のデザインセンター責任者に。セアトを紹介したのはジウジアーロ氏だった。セアトでの仕事がVWの総帥、F.ピエヒ氏の目に留まり、2002年からアウディグループのデザイン責任者に。ペーター・シュライヤー(現キアのデザイン責任者)とデ・シルヴァによるアウディA6(C6型)は世界中のカーデザインに大きな影響を与えた。その後、2007年にVWグループ・デザイン&ブランド統括責任者でありデザイン担当取締役となっている。

歴代ゴルフのアイコン、水平ラインを使用したフロントマスク
歴代ゴルフの逆「く」字型の太いCピラー・デザインの継承

まずデ・シルヴァ氏は、VWゴルフというクルマをデザインすることは極めて大きな重責を持っていると語る。なぜなら40年間で3000万台を超える販売台数を記録する特別なクルマであり、ゴルフは自分たちにとっての出発点であり、品質、性能、デザインの現時点での到達点でなければならないからだ。

ゴルフのデザインの難しさは、ゴルフならではのデザイン言語を守りながら、繰り返しにならないように進化させる必要があるからだという。これこそがゴルフ・デザインの特徴であり本質なのだ。あっと言わせるデザインより、歴代のゴルフからの一貫性を感じさせるデザインが重視される。ゴルフのライバルは常に新しいものを追い求め、変化していく。

しかしVWはそれを求めてはいない。ゴルフは従来からのデザイン言語、アイデンティティを守り、水平基調ののフロントマスク、太いCピラー、完璧ともいえる精度のボディパネル、最高品質のコンポーネンツを持つことがゴルフであり、色褪せることのなく時代を超え、受け継がれるデザインを追求しているというのだ。

新型ゴルフ7の最終レンダリング

つまり言い換えればすべての原点は初代ゴルフにあるともいえる。初代ゴルフのデザインを担当したジウジアーロ氏は、そのコンセプトは量産性を考慮したデザインで、コストと品質をクリアすることのできるデザインとして位置付けたという。そしてゴルフはこの基本を守りつつ長年にわたって維持し続けたことは驚異だという。

もっとも、初代ゴルフが誕生するまでの過程では、それ以前のビートルが余りに偉大な存在であったために、後継モデルの開発は迷走した歴史もある。そんな中ポルシェ社が設計したEA266プロトタイプの量産計画は廃棄され、アウディ社のルートヴィッヒ・クラウス氏が基本構想したFF車案が浮上し、ジウジアーロ氏がデザインしたという経緯があるのだ。

デ・シルヴァ氏は、ゴルフが持つ文化と歴史的な存在、位置付けは、ポルシェ911と並び世界で唯一無二の存在だと考えているという。そして誰にでも乗りやすい、きわめて高品質なクルマを追求し続けており、自動車の民主化、すなわちこれがフォルクスワーゲンの理念そのものだ。

ジウジアーロ氏は、伝統を持つクルマはその家系を理解し、じっくり熟成進化させるもの、つまり文化なのだという。誰もが驚くような奇抜なデザインを求めることはありがちだが、物珍しさはそう長くは続かないと考えている。多くの人に好まれる永続的なデザイン・アーキテクチュアの価値こそ重要なのだという。すぐには理解できなくても時を経れば分かる価値もあると。

その一方で、デザインによって生まれた美は、世界に貢献する唯一のモノだとデ・シルヴァ氏は言う。そして美は倫理でもあり、それらは歴史的な蓄積により育まれ、後世に伝える義務、世界への貢献が求められるとしている。これについてジウジアーロ氏は、デザイナーは美しいものを生み出さないと視覚を汚染するという。そしてまた美は数学的な完璧さの上に成立するという。このあたりは二人そろって工業デザイナーとしての本質をずばりと指摘する。だから「mm」の単位にこだわるべきだというのだ。

ところで、ジウジアーロ氏、デ・シルヴァ氏が最も影響を受けた過去のクルマは「シトロエンDS19 」だと語った。パッケージング、空力、素材、居住スペース、人間工学などをすべて網羅した革新を1955年に実現した気概に感銘を受け、今でも研究の対象にしているという。ジウジアーロ氏もDS19だということに同意し、氏がデザイナーになった年にDS19が登場し、自動車デザインに興味を持つきっかけになったが、その後もDS19だけは真似ることやヒントを引き出すことができない、圧倒的な超えられない存在だと認める。

ちなみにシトロエンDSのデザインは、社員デザイナーであるイタリア人のフラミニオ・ベルトーニが担当した。そのベルトーニ氏はもともとは彫刻家であった。

二人の工業デザイン全般に関しての見識は、デ・シルヴァ氏はデザインは機能性とコストというパッケージの両立だという。ジウジアーロ氏も、デザイナーは美意識をより機能性の優先とすることが多いと同意する。工業製品のデザインは、機能性、信頼性を作り出してこそ市場に出すことができるというのだ。このあたりはヨーロッパにおける徹底した機能主義、機能美の追求という1920年代以来の哲学、理念が深く根付いている気がする。

日本車に関しては、日本の伝統的な美意識が存在しているが、一方でクルマに関してはアメリカ車デザインのダウンサイズ版からスタートし、やがて欧州車に視点を移し、その中で高いレベルのクルマを造っている。がしかし、デザインとしてやり過ぎないように注意しながら日本的な感性を磨くべきだとジウジアーロ氏は言う。一方のデ・シルヴァ氏は、デザインの倫理を守り、流行を追い過ぎなければ、必ず高いレベルのデザインが成し遂げられるだろうという。優れたバランス、正しい面表現といったアーキテクチャーを忘れなければ…。

フォルクスワーゲン ゴルフ 関連記事報
フォルクスワーゲン 関連情報
フォルクスワーゲン 公式サイト

ページのトップに戻る