【VW】新型ゴルフ7 試乗記 原点を見つめ直し、新たなゴルフの世界が見えてくる レポート:松本晴比古

マニアック評価vol198

4年というゴルフとしては短い間隔でモデルチェンジを行った新型ゴルフは、エクステリアを一見すると多くの人にとっては、これまでのモデル、ゴルフ6と大きな違いは見つけられないかもしれない。細部を眺めれば違いはもちろん見つけられるし、ゴルフはゴルフで、代わり映えしないのが当たり前という見解もなくはない。だがVWのゴルフというクルマの本質、核心は何かということを少し考える必要があるのだと思う。


考えてみると、ゴルフ、VW社のクルマ作りは、すべての人にとって高性能で良質なクルマを提供するという基本的な哲学が貫かれている。これは1937年に新興メーカーとして設立された当時から現在まで一貫しており、他社とはかなり異なるところだ。それどころか、ポルシェ一族によるVW社の経営支配権が確立された現在では、創業当時のフェルディナント・ポルシェの理念が一層強調されるようになった気もする。7代目のゴルフが登場し、そうした理念や哲学が改めて強調されているのもそのせいなのか。

しかしどうやら理念が再確認されている理由は7代目ゴルフは歴代のゴルフと比べても異例の存在だからといえる。ゴルフのクルマ作りのコンセプトはもちろん初代から現在までブレることはありえないが、7代目のゴルフのデザインは、改めてゴルフの、VWのDNAの再確認が行われている。結果的に、形を変えるのではなく洗練、精緻化させることや機能主義に徹することになった。

そういう意味で、新型ゴルフ7のデザインは、エモーショナルでもなければあっと驚くような要素も全く感じられない。

ビジネスライクだが高質感は常識を超えるといえるほど高い

新型ゴルフ7が特異な点は、エンジンも、ボディ骨格も、その他の多くのパーツもまったく白紙から設計されていることで、唯一先代から受け継いだのは7速DSGくらいだろう。このような新規開発は初代ゴルフの開発時以来のことで、こうした大規模な開発に携わるに当たって開発チームは初代ゴルフの理念を改めて噛み締める必要があったのだろう。

新型ゴルフがほぼすべてを一新した理由はMQB(モジュラートランスバースマトリックス:横置きエンジン車モジュラー化)戦略を採り入れるためだ。他社のフレキシブル、あるいは汎用プラットフォーム戦略とはまったく次元が異なるMQB戦略を実現するためには膨大な投資と、新設計が求められたのだ。もちろんMQBの目的は開発・生産の合理化であり、大幅なコストダウンである。コストダウンを追求すれば性能も質も低下しやすいことは世の常だが、その一方でVWの理念に従って従来モデルより性能や質を高めるといういわば矛盾、背反する目的を達成する必要があったわけだ。

結果的には、製造工程の大幅な革新や、他のメーカーでは考えられないレベルの大量の部品の共通採用化によるコストダウン効果を生かすことで、性能や質的な向上を図り、クラスの常識を破るというより、はるかに上級のプレミアムクラスのクルマを凌駕するようなレベルにまでゴルフを持ち上げることになったといえる。

鋭利なプレスラインが際立って見える
ルーフサイドはレーザー溶接で継ぎ目なし

新型ゴルフ7の外観をよく見ると、驚くほど精緻で、硬質な印象を受ける。それはボディパネル間の隙間の狭さや、単調なキャラクターラインにもかかわらずそのラインのプレスの深さ、シャープさなどがそう感じさせるのだ。ライトを点灯すると、ヘッドライトもテールランプもL字型デザインの光源が新しいゴルフの個性を主張している。

ドアハンドルの操作フィーリングは、「バターをナイフで切る感触」が求められたというが、実際にその操作感は実感でき、こういう点ではプレミアムクラスのクルマを上回っている。しっかりとしたシートの座り心地は、これまでのゴルフと変わらないが、インスツルメントパネル周りは新鮮な印象だ。1.2 TSIモデルはサテンシルバーの、1.4 TSIハイラインはピアノブラックのパネルで艶を与えている。それに対してメーターパネルは、始動時にVWマークが浮かび上がるなど演出は加えられているものの、デザインはいたってシンプルで機能に徹しており斬新さはない。メーターの間にあるマルチファンクションディスプレイは日本語表示になっていることが目新しいが、本国で設定したフォントがイマイチなのは愛嬌といえる。

1.4 TSIハイラインのピアノブラック調センターコンソールと「コンポジションメディア」
機能一点張りのメーターパネル

アクセルとブレーキのペダル配置は、MQB用のプラットフォームになったおかげでより広く適正な位置になり、もはや国産車に勝るレベルのレイアウトといえる。インテリアでは、運転席・助手席のバニティミラーが照明付き、ダッシュボード上面はソフトウレタン樹脂製、グローブボックス内部は植毛付き、そして室内照明は前後、左右ともLED式読書灯、さらには1.4 TSIハイラインではアンビエント間接照明なども装備され、装備・仕様はまさに限りなくプレミアムクラスに達している。

言い換えると、コストダウンの影響はまったく感じさせず、逆に大幅に質感を高めていると感じられる。

内面植毛付きのグローブボックス
最適配置のペダル、フットレスト

新型ゴルフ7のエンジンは、1.4 TSI、1.2 TSIともに旧型用を流用したわけではなくMQBボディに合わせて新開発されたエンジンで、いずれも7速DSGとの組み合わせになる。

まずは1.4 TSIハイラインから。これまでのハイラインは1.4L直噴スーパーチャージャー+ターボで出力は160psだったが、今回からはシリンダー休止システム付きの直噴ターボで140psとパワーは低くなっている。その一方でトルクは従来型が240Nm、新型が250Nmとアップしているのだ。

1.4 TSI。バッテリーは完全に遮熱カバーで覆われる
新設計のセレクター。左上のモードスイッチは操作しにくい。右上のプッシュ・スタートボタンは日本向けの正式導入車には採用されない

アクセルを踏んでみると、新型の方が力強く感じるのはやはりトルクの大きさの効果だろう。もちろんそれに加えて40kgほど軽量化された車両重量の恩恵もあ る。しかしそれより驚くのは、エンジンの振動感のない滑らかさ、スムーズさ、そして遠く後方から聞こえてくる穏やかな排気サウンドの心地よさだった。踏み 込めば即座に反応し、必要な加速を生み出すという特性はターボであることが実感できず、一方で滑らかでしっとりとした回転フィーリングは上級クラスのクル マと錯覚させるほどのフィーリングだ。

もちろんエンジン回転がストレスを全く感じさせないのは、室内がとてつもなく静かだということでもある。静粛性でカテゴリーの常識を破ったゴルフ6をさらに上回る水準にあり、はるかに上級なクルマに勝るとも劣らないと思う。このあたりはカテゴリー内での競争ではなく、全カテゴリーの中で傑出した性能を求めるという思想を実感させられる。

こうした静かさとゴルフ伝統の圧倒的ともいえる直進安定性のため、高速道路でのスピード感のなさは注意が必要なほどだ。100km/hがまるで市街地での50km/hの巡航と感覚的には変わらないのである。アウトバーンなら160km/hで巡航しても全く緊張感のない平穏で気持ちよいドライブではないか。

ドライブモード選択(ドライビングプロファイル機能)でエコモードを選択すると、アクセル開度が少ないと頻繁に2気筒走行になり、アクセルを少し踏むと瞬時に4気筒に切り替わるが、これはディスプレイを見ない限り全く体感できない。またアクセルオフにすると「フリーホイール」状態になりエンジンはアイドリングのまま慣性で無動力走行を続ける。こうした機能をうまく使えばカタログ燃費を上回る実用燃費を記録するのは簡単だろうと思う。

この試乗車はオプションのDCC(連続可変ダンピングシステム)を装備していたので、ドライブモード選択は、エコ、コンフォート、ノーマル、スポーツ、個別という5項目が選択できる。乗り心地としては、コンフォートが柔らかめ、スポーツが少し締まった感じだが、ノーマルで十分に秀逸な乗り心地だ。だからDCCなしでも乗り心地は文句なし、というより他車の規範となりうるレベルだ。さすがに重厚感はないのだが、ボディの軽さ感とストロークのある適度なダンピングがバランスし、荒れた路面でもピッチングではなくバウンシングの動きに変換され、心地よい乗り心地だ。この新型ゴルフは乗り心地の快適さも従来以上に重視していることが感じられる。
シャシーの方向性としてはあくまで乗り心地重視で、スポーツモードでも過剰なスポーツ性は主張しない。

唯一気になったのはドライビングプロファイル(モード切り替え)のスイッチがセレクターレバーの向こう側にあり、ドライバーが操作しにくい点だ。左ハンドルなら問題ないのだが、右ハンドルでは視認、操作がやりにくい。

ハイラインに装備される外部足元照明
ガラスとピラーの段差により雨滴を上方に流す

ステアリングは第2世代の2ピニオン式電動パワーステアで、フィーリング的にはさらに改善され、小舵角では穏やかで、切り込むほどリニアに反応し、幅広い速度域で路面のインフォメーションもしっかりと伝わる。これらの要素が1ランクアップし、どんなステージでも気持ちよい操舵フィーリングが感じられる。もちろんステアリングホイール自体の軽さも良い印象を与えてくれる。
乗り心地と操舵フィーリングともに誰が乗っても納得し、安心、快適で心地よさが感じられるのはさすがというレベルで、過剰なスポーツ感もない。気持ちよい、安心感があり、爽快感のあるドライビングプレジャーというのがまさにゴルフの真骨頂だろう。

なお、この電動パワーステアは車線を無意識にはずれたり、左右の路面状況が異なり微修正が必要な時にはそれとなく操舵トルクは変化し、修正舵を促してくれる。控えめながら注意を喚起してくれるしぐさも好感が持てた。

1.2 TSIエンジン搭載モデルは、コンフォートラインのステアリングを握った。新設計の1.2Lエンジンも、フィーリング的には1.4 TSIエンジンと大差ない。がさつき感や騒々しさは皆無で、ベースエンジンにかかわらず滑らかで静粛だ。トルク感、加速感こそ1.4 TSIと比べれば控えめだが巡航車速に乗ってしまえば例え4人乗車でもストレスのない走りができる。つまりこのベースエンジンでも、走りの質の高さや気持ちよさはほとんど欠けるところがないといえる。最高速も190km/hを超え、ヨーロッパにおいても引けを取らずに走ることができる性能を備えているのだ。

1.4 TSIハイラインと最も大きく異なる点は、リヤサスペンションが「モジュラー・ライトウエイトサスペンション」と呼ばれるトーションビーム+トレーリングアームであることだ。ゴルフは初代モデル以来、長い間トーションビーム式リヤ・サスペンションを使用し、世界でも最もこの形式を熟成してきたメーカーだが、今回は徹底して軽量、シンプル構造の新型サスペンションとなっている。
リヤ席に乗ると、このサスペンションは意外にハードなストロークが制限されたようなフィーリングで、過去のゴルフのトーションビーム式よりも硬めに感じられた。この形式のサスペンションは、操縦安定性を重視するとどうしても硬めのフィーリングになりやすいが、この新型もそういう傾向なのだろう。ただし、フロントシートでステアリング握っている限りは、よほど荒れた路面でないかぎり硬さ、ハードさは感じられない。言い換えればフロントシートとリヤシートではちょっと乗り心地が異なる感じで、前後席ともフラットそのものの1.4 TSIモデルとは異なる。

1.2 TSI、1.4 TSIともに踏力に応じた安心感のあるブレーキの効き、ペダルの剛性感、ブレーキを踏み込んだ時にノーズの沈み込むのではなく車体全体が沈む様子は、理想的なブレーキといえる。

左側の斜め前方視界
右斜め前方の視界

運転席からの視界は、位置の関係から小さな三角窓が備わっているが斜め前方の視界は良好で、Aピラーの室内側の処理がうまくできている。室内のパッケージングではフロントの左右シートの間隔やドライバーの肩周りの広さにも余裕が感じられ、特にリヤ席は足元スペースが広く感じ、リヤ席の乗員は長時間のドライブでも苦痛を感じることはないだろう。室内の質感はパサート級のパーツを多用したりして、アンビエント照明を備えるハイラインに至っては質感の高さはクラスの常識を完全に破っていることは間違いない。ただしセンターコンソールやメーターパネルのデザイン、見栄えは機能に不満はないものの、艶がないのはゴルフだという理由しか思いつかない。

新型ゴルフ7での大きな特徴は、ドライバー支援システムを一気に採用したことだろう。

77GHzのマルチモードレーダー式のシティエマージェンシーブレーキを含むプリクラッシュブレーキシステム(名称はフロントアシスト・プラス)、マルチコリジョンブレーキシステム(2次衝突防止自動ブレーキ)、プロアクティブ・オキュパントプロテクション(プリクラッシュ安全制御)は3機種に標準装備で、トレンドライン以外はレーダー式全車速追従型クルーズコントロール(ACC)、リヤビューカメラを標準装備。トップグレードのハイラインはフロントカメラを装備し、レーンキープアシストも標準装備となる。もちろんオプションのセーフティパッケージを選択するとハイラインと同等のシステムが構築できる。これらのシステムで日常的に使用するシステムはいずれも作動が自然だ。

こうしたシステムを一気に、しかも標準装備、あるいはかなり安価なオプションとして採用したことで、競合車に大きな差をつけることができたわけだ。

新型ゴルフはステアリングを握っていると、クルマがいかにも軽く、クルマのサイズよりはるかに軽快に走り、曲がるという印象と、速度に関係なく室内が静粛でクルマのサイズに不相応なほど落ち着きがあるなどちょっと不思議な感覚が味わえる。しっかりとしたパッケージングや、ハイブリッドカー並の実用燃費といった基本的な性能以外での新型ゴルフの特徴はこんなところにあるのかもしれない。

その一方で新型ゴルフはすべてが一新された上に、ヨーロッパでも販売されてまだ半年であり、今後はモデルイヤーごとに熟成が行われるはずなので、これからのゴルフはどこまで進化し、どれほど熟成されていくのか、もはやCセグメントという枠組みは意味を持たなくなるのでは、といったことを想像してしまう。
VW Golf 諸元表

VW ゴルフ7価格・装備表

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