究極の超低燃費カー、XL1の全貌

2011年1月26日〜29日にドーハで開催されたカタール・モーターショーにおいて、フォルクスワーゲンは第3世代の1リッターカー、XL1のワールドプレミアを行った。1リッターカーの意味は、100kmの距離を1L以下の燃料で走る、つまり100km/Lという驚異的な燃費を実現することである。

第1世代:1リッターカー・コンセプト

フォルクスワーゲンのXL1は言うまでもなくエクスペリメンタルカー(技術実験車)であるが、VWはこのテーマのもとで2002年以来着実に開発を行っているのだ。

今回のXL1の説明の前に、VW社の1Lカーへの挑戦に触れなくてはならない。

最初のプロジェクトは2002年に実現している。当時のF.ピエヒ会長が自ら、新開発された1Lカーのステアリングを握り、ウォルフスブルグからハンブルグの株主総会の会場まで230kmを自走して1Lカーの技術をアピールしたのだ。そして、この実験車は「1L(リッター)カー」と呼ばれ、VWの目指す方向、技術開発の力を示す役割を果たしたとともに、今後もこの技術を継続的に開発することを決定した出来事だったのだ。

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↑F.ピエヒ会長

その1Lカーは、ジェット戦闘機のようなキャノピーを備えた細いボディを持ち、座席は前後にタンデム配置していた。ボディサイズは全長3646mm×全幅1248mm×全高1110mmで、カーボン、マグネシウム、強化プラスチックなどの素材を多用し、車両重量はわずか290kgに納められていた。そして、ボディの構成はマグネシウム合金の骨格にカーボン製アウターパネルを使用し、サスペンションやホイール、ブレーキなどはマグネシウム、チタン、カーボン製品類を使用しており、軽量化の発想はジェット戦闘機などと同様といえるものだった。

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ボディ形状は葉巻型で、空気抵抗係数Cd=0.159。搭載エンジンは0.3Lの自然吸気1気筒DOHCディーゼル(スタート&ストップ付き)で、出力は8.5ps/4000rpm、1.9kgm/2000rpm。これをミッドシップマウントし、6速AMTと組み合わせていた。なお公開走行のデータは、230kmを平均時速75km/hで走り、要した燃料は2.1Lだった。ちなみに燃料タンクは6.5Lで、航続距離は600kmを上まわることになる。

第2世代:L1

最初の実験車の登場から7年後の2009年、フランクフルトショーでVW社は第2世代の1リッターコンセプトカー「L1」を出展した。第1世代の1Lカーはプロトタイプそのものだったが、第2世代のL1は初代のコンセプトを引き継ぎながら、量産車技術を包括したコンセプトカーとして発表されたことに注目すべきだ。

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その技術的な特徴は、量産展開しているTDIエンジンと、モーターを組み合わせたハイブリッドカーということであった。車両重量は380kgで、初代実験車より重くなっているが、クルマとしての機能は大幅に高められている。車重の内訳はドライブトレーンが122kg、シャシーが79kg、内装が35kg、電装が20kgでカーボン(CFRP)製のボディ&フレームは124kgである。

L1の最高速は160km/h、0→100km/hは14.3秒、燃費は1.38L/100km、CO2排出量は36g/kmであった。なお、初代実験車の開発段階から、F.ピエヒ会長は次のステップではオールカーボン・ボディにすることと、実用的な1Lカーを2013年頃に実現するというテーマを指示していたという。

L1のボディは全長3813mm、全幅1200mm、全高1143mm。全高はほぼランボルギーニ・ムルシェラゴと同等だ。その開発コンセプトは、革新的な超低燃費車の模索であり、そのために軽量化とエアロダイナミクスと衝突安全性を徹底的に追求することが求められていた。

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その結果として、幅の狭い2座席のフルカーボンボディが採用され、座席配置とルーフ開閉方式を片側開き式としたのは、グライダーのコクピットにヒントを得てのデザインだ。また、カーボンモノコック&ボディはF1と航空機技術を流用して造られている。さらに、L1のエクステリアはVWのブランドデザインを取り入れていることも注目された。 L1のCd=0.195、前面投影面積は1.02m2で、驚くことに前面面積が一般乗用車の半分であることがわかる。

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エンジンは2気筒のコモンレール式直噴とターボを組み合わせたTDIで、排気量は800cc。エンジンのスタート&ストップも装備する。このエンジンは2つの運転モードを備え、ECOモードでは27ps/4000rpm、Sモードで39ps/4000rpm、トルクは100Nm/1900rpmというスペックを持っていた。最高出力14psのモーターとクラッチは7速DSGのハウジングに内蔵されている。また、この7速DSGは燃費を向上させるためにギヤ比は特製としていた。

エンジン、トランスミッションの搭載はミッドマウントであるが、リチウムイオン電池やパワーコントロールユニットはフロントに搭載され、使用される電圧は130Vだ。また、ハイブリッドはパラレル式で、エンジンを停止しエンジンとモーター間のクラッチを切断することでEV走行もできるようになっている。

0.8LのTDIエンジンは市販されている1.6LのTDI技術をそのまま使用し、ボアピッチ88mm、ボア×ストロークは79.5×80.5mmである。EGR、多段噴射、酸化触媒、DPFなども採用することで、ユーロ5規制をクリアしている。エンジン本体は、低フリクション化が徹底され、補器類に2段ウォーターポンプ、低圧オイルポンプなどを装備している。燃料タンク容量はわずか10Lだ。

シャシーは市販モデル同様にESP(横滑り防止装置)、ABSなども装備されている。また、L1のタイヤはミシュラン・エナジーセーブ「グリーンX」で、サイズはフロントが95/80-R16、リヤが115/70-R16という特注サイズである。

第3世代:XL1

今年1月のカタールモーターショーで世界初公開されたプロトタイプ、XL1はVW社のこれまでの1Lカー開発、つまりクルマは、どこまで燃費を向上させられるかというテーマに対する現時点での到達点であり、同時に量産化に向けての技術的な確信を得たことを示している。2000年にF.ピエヒ会長が掲げた1Lカーの実用化と、市場への投入という厳しいゴールにようやく手が届くところまで来たといえる。

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第3世代のXL1は、プリグイン・ハイブリッドシステムを新たに採用するとともに、オール・カーボンファイバーの超軽量ボディ、これまでで最小の空気抵抗係数(Cd=0.186)を実現している。達成された性能は0.9L/100kmという空前の燃費と、CO2排出量24g/kmである。

リチウムイオン電池を搭載し、35km以上を電池/モーターのみで走行でき、電池は家庭用電源で充電できるプラグインシステムとしている。またXL1の走行抵抗は史上空前といえるレベルまで低減され、例えば100km/h巡航での必要馬力は6.2 kW(8.4ps)。市販のVWゴルフ1.6TDIが13.2 kW(17.9ps)なのだ。EVモードでのエネルギー消費は0.1kWh/km(0.8Wh/km)以下だ。一方で動力性能は、0→100km/hは11.9秒、最高速160km/h(リミッター付き)となっている。

エンジン、トランスミッション、モーターはリヤアクスル上に配置されるミッドシップ・レイアウトは従来どおり。搭載されるエンジンは量産技術を流用した2気筒の0.8TDIで、最高48psを発生する。7速DSGトランスミッションケースの内部にクラッチとモーターが内蔵されており、クラッチで切り離すことによりEV走行が可能なのは従来どおりである。ちなみに、モーターの作動電圧は220Vである。このTDIエンジンの排出ガスは第2世代のL1よりさらにクリーンになり、ユーロ6に適合する実力である(L1の時点ではユーロ5)。

トルクはエンジンが120Nm、モーターが100Nmを発生し、エンジンとモーターブーストによる総合トルクは140Nmである。システムは1モーターのパラレルハイブリッド方式で、このモーターはエンジンのスターターとブレーキ回生時の発電機の役割を果たしている。また走行時は、最適効率となるようにエンジンの出力とモーターアシストが制御され、同時に7速DSGのギヤも最適なポジションが選択されるように自動制御される。

XL1でもっとも革新的な技術が投入されたのがボディだ。エアロダイナミクスでは空気抵抗係数Cd=0.186と、前面投影面積1.5m2は驚異的な値であり、優れた空力特性を持つ市販車のVWゴルフとの比較では2.5倍も上まわっているのだ。

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XL1のボディサイズは、全長3888mm、全幅1665mm、全高1156mm、ホイールベースが2224mmで、L1より全幅が大幅に拡大されている。全長、全幅はポロに近似し、全高はランボルギーニ・ガヤルドとほぼ同じということでボディサイズがイメージできる。

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シート配列はこれまでと異なり、サイドバイサイドのシート配置にし、乗降性を高めるためウイング式ドアを採用している。ドアのヒンジはAピラー下側とフロントガラスの上の2箇所にあり、前方に跳ね上げることができる。デザイン的にはVWデザインのDNAを守り、かつL1よりワイドでダイナミック感を増している。空力デザイン的にはイルカのようなボディ形状になっているのが特徴だ。

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XL1のモノコック、ボディアウターパネルはすべてカーボンファイバー(CFRP)製で、この製造技術がL1に比べ大幅に進化している。部位の入力方向にあわせてカーボンレイヤーを配置し、エポキシ樹脂をaRAM(advanced Resin Transfer Moulding)工法によりパーツとして成形することが可能になったのだ。

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この素材混合処理システムにより、高い信頼性と超軽量なカーボン複合材部品の製造が実現したといえる。

カーボンファイバー部品は、製造に工数、時間がかかり、高価で量産に不向きであったが、VW社は2009年の初めに新たな自動工法を開発し、量産向けにより低コストでパーツ製造することに成功した。実は、このXL1のフレーム、モノコック作りがその開発プロジェクトのベースになっており、この技術により、従来は1台/日であったレベルを20台/日に引き上げるという画期的なレベルに到達した。

こうして生まれたXL1の車両重量は795kg。その内訳は、エンジン・パワートレーンが227kg、シャシーが153kg、内装が80kg、電気系が105kg。したがって残る230kgが、ガラスやドアも含めたボディ重量である。この中の21.3%、169kgがCFRPの重量となる。また全パーツの中で軽合金は22.5%(179kg)、鉄は23.2%(184kg)、その他はポリマー材(ポリカーボネートなど)、天然繊維、複合金属、電子部品である。

カーボンボディは超軽量であると同時に、F1モノコックに勝る高い強度、安全性を備えているのも特徴だ。F1のようなオープン構造ではなく、カプセル状のクローズド構造になっているからだ。衝突時には、A、Bピラー、ルーフレール、シル部分の全てが衝突エネルギーを減衰させる役割を果たし、サイド、クロスメンバーなどは衝突に対して完璧に対応できる。またモノコック前後にはアルミ製の衝撃吸収チューブフレームも組み合わされているのだ。ボディ構造では、キャビンを守るロールバーを一体化しているのも特徴。

フロントサスペンションはダブルウイッシュボーン、リヤはセミトレーリング式で、カーボンモノコックにダイレクトマウントされている。サスペンション、ブレーキキャリパー、ダンパー、ステアリングギヤケースなどはアルミ材、ディスクはセラミック材、ホイールはマグネシウム材とシャシーの軽量化も徹底している。タイヤはミシュランの新世代低転がり抵抗タイヤで、タイヤサイズはフロント115/80R-15、リヤ145/55R-16を採用。もちろんABS、ESPも装備している。

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【AutoProveのひと言】

2002年の1LカーからXL1までの1Lカーというプロトタイプカーの流れを見ると、VW社の環境技術の開発の方向性が理解しやすい。直噴ディーゼルターボとパラレル式ハイブリッド、プラグイン方式の採用、そしてこれらの技術と必須の組み合わせになるエアロダイナミクスとCFRPによる大幅な軽量化技術は、これからの市販車のキーテクノロジーと考えられる。

文:編集部 松本晴比古

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