ボルボに新世代2.0Lディーゼルエンジン搭載モデルがラインアップすることになった。ボルボが自力で開発した新世代ガソリンエンジン「Drive-E」(エンジン呼称:T5)が2015年モデルから順次搭載されているが、実はこのガソリン版Drive-Eと同時開発されていたのがこの新世代ディーゼル・エンジンだ。<レポート:松本 晴比古/Haruhiko Matsumoto>
もともとDrive-Eはガソリンエンジンとディーゼルエンジンという2本柱を目指し、モジュラーエンジンとして開発がスタートしている。つまり統一したアーキテクチャーの下で開発され、ガソリンとディーゼルでは25%が共通部品、25%は別部品、50%は類似部品という構成になっている。
そしてヨーロッパでは2014年からディーゼルが市場投入されているが、ようやく日本にも2016年モデルとして導入されることになった。タイミング的には通常より早めの2016年モデル導入だ。
導入されるのはV40、V40クロスカントリー、S60、V60、XC60の5車種で、いずれもD4と呼ばれる2.0L・直列4気筒シーケンシャル・ツインターボだ。ヨーロッパ市場ではD2と呼ばれる同シリーズのシングルターボ仕様(120ps)も設定されているが、D4はハイパワー版で出力は190ps/400Nm。ボルボのガソリンエンジンではT6と呼ばれる3.0L・直6型ターボエンジン(440Nm)に迫るトルクだ。
同クラスで比べると、BMWの2.0Lディーゼルが184ps/380Nm、メルセデス・ベンツEクラスの2.2Lディーゼルが177ps/400Nmだから、ボルボのD4の出力はトップに躍り出たことになる。さらに燃費(JC08モード)でも、BMW 320dが19.4㎞/L、メルセデス・ベンツE220ブルーテックが18.6㎞/Lに対して、ボルボS60は20.9㎞/Lとトップレベルにある。
このD4エンジンは、低摩擦化のためのボールベアリング支持式カムシャフト、高出力化を狙ったボルグワーナー製の2ステージ・ターボ、電動ウォーターポンプ、リーンNOx触媒とDPFを組み合わせたコンパクトな触媒、カストロールと共同加配した専用オイル(0W-20)の採用など、最新の技術を網羅している。
しかし、最も注目すべきは乗用車用ディーゼルで初採用となる、デンソーとボルボが共同開発した「i-ART」の採用だろう。コモンレール直噴は最高2500barと高圧で、ソレノイド式の8ホール直噴インジェクターに燃圧と燃焼温度センサーを組み込んでいるのだ。このセンサーを一体化させたインジェクターとそのフィードバック制御がi-ARTと呼ばれている。
各気筒ごとに正確に噴射圧力、燃焼温度をモニターすることができ、10万分の1秒という噴射タイミングのずれを検知してフィードバック制御することで、気筒ごとの噴射のばらつき、マルチ噴射の個別の噴射毎のばらつきを抑え、理想的な燃料噴射量を実現し、出力、燃費、排気ガスの性能向上を果たしている。
噴射は燃焼行程で最大9回可能だが通常時は3~4回の噴射だ。このi-ART技術に合わせ、エンジン制御ECUは気筒ごとの精密な空燃比制御を行ない、排気ガスレベルを抑えている。
このエンジンと組み合わされるのはアイシンAW製の8速ATで、D4との組み合わせで、Dモード、Sモード、ECOプラスモードを備えている。ECOプラスモードでは減速時7㎞/h以下でアイドルストップし、エアコンの制御、コースト機能、そしてスロットル特性の変更、AT変速ポイントの変更が行なわれる。これにより燃費は5%向上するという。なおガソリン車とは異なり、D4エンジン搭載車はアイドリングストップのカットスイッチはなく、オフにしたいときはSモードにすると解除される。<次ページへ>
2016年モデルとして用意された試乗車はV40 D4 SE、V60 D4 SEの2台だった。いずれもエンジンをかけた状態で車外に出ると、明らかにディーゼルエンジン特有のアイドリング音が響き、ディーゼル車であることがはっきりわかる。しかしドアを閉め、ドライバーシートに座り、走り始めると別世界になる。エンジンの回転が滑らかで、吹け上がる音も静かなため同乗者がディーゼルエンジン車だと気付くことはまずないだろう。車内での静かさとエンジンの滑らなフィーリングは秀逸だ。
エンジンは400Nmのトルクを1750rpm~2500rpmで発生するので、アクセル開度も小さく、低回転でどんどんシフトアップさせて走ることができる。V40もV60も100㎞/h巡航でエンジン回転は1500rpm程度だから、高速巡航の余裕はもたっぷりで、フル乗車、フル積載で山道を登るといった場面でも少しだけアクセルを踏み込めば十分。とにかく大トルクを生かした走りができる。
ただ、あまりにも低速トルクが大きいためか、低速走行時にアクセルを軽く踏み込んだ時に、低回転ゾーンでスロットル応答が鈍い瞬間が感じられた。このあたりは大トルクのディーゼルとATとのマッチングの考え方なのだろう。また、Sモードでパドルシフトを使用してワインディングを走ると、やはりエンジン・レスポンスはガソリンエンジンと比べるとややマイルドだ。スポーティな走り味がアピールポイントのV40では特にそんな感じがした。
逆にV60は、室内の静粛さはV40と比べてワンランク上であり、トルクのゆとりを感じながら走るという意味でクルマのキャラクターにぴったりだった。乗り心地は、V40は初期型よりはかなりマイルドな乗り心地になっているが、クルマの性格からいってややスポーティ傾向。一方のV60はラグジュアリー感が実感できる乗り心地で、しかもフラットライドと両立しており、プレミアムクラスらしい気持ち良い乗り心地だ。
D4エンジンは同じ骨格を持つガソリンターボのT5エンジンより30㎏ほど重いがハンドリングへの影響も感じられない。路面インフォメーションがしっかりとしており、軽快、正確なステアリング・フィーリングは現在のボルボ共通の優れた点だ。D4エンジンの強力なトルクを生かした走りはガソリンエンジンとは違ったドライビングの気持ちよさを味わうことができる。
ボルボ車は同クラスの競合車に比べ標準装備が充実しているのがアドバンテージだが、さらにボルボ全車が2016年モデルからインフォテイメントに、コネクティビティ・アプリが使用できるようになっている。スマートフォンのテザリングを使用することで、ドライブ中の多彩な実用検索情報、グローバルラジオなどを利用できるようになっている。もちろんD4ディーゼル搭載モデルも同様だ。
価格面では従来のガソリンエンジン車とD4搭載モデルとの価格差は約25万円とされ、年間1万㎞走行するドライバーなら燃料代の差額で3年と少しで元を取ることができる。もちろん走行距離の多いユーザーならもっと早く元が取れるわけで、走りのパフォーマンスだけではなく燃費・経済性も新たな魅力で、もしかしてD4エンジン搭載モデルがこれからの主役になるという予感がする。
■価格
ボルボV40 D4:349万円
ボルボV40 D4 SE:399万円
ボルボV40クロスカントリー D4:364万円
ボルボV40クロスカントリー D4 SE:414万円
ボルボS60 D4 SE:454万円
ボルボS60 D4 R-Design:529万円
ボルボV60 D4 SE:474万円
ボルボV60 D4 R-Design:549万円
ボルボXC60 D4:539万円
ボルボXC60 D4 SE:599万円
ボルボXC60 D4 R-Design:675万円