【プジョー】208 GTi試乗記 常識を破る上質さと高性能を両立させたコンパクトGT レポート:松本晴比古

マニアック評価vol212

プジョー208は2012年9月からヨーロッパで発売され、一躍Bセグメントのハッチバック車のトップセラーとなった。208はこれまでのBセグメントからポジションをシフトし、プレミアムな質感、スポーティでエモーショナルな走りをアピールし、それが受け入れられたといえる。

モータースポーツでのプロモーションも積極的で、ニュルブルクリンク24時間レースはSP2Tクラスでプジョーワークスチームが開発した208GTiが1~3位を独占。6月末のパイクスピーク・ヒルクライムでは208 T16が無制限クラスで圧勝し、さらにFIAの市販ベースラリー車、グループR5規則に適合させた208T16も送り出している。

プジョー208 GTi R5 「T16」レプリカ。各地の販売店で巡回展示される予定

多数のバリエーションが存在する208シリーズの中で、ブランドイメージのフラッグシップの役割が与えられているのはピュアスポーツモデルと位置付けられる208GTiだ。この「GTi」という名称は、1991年に生産が終了した名車、プジョー205GTiを引き継いでいる。このためにヨーロッパでは「GTi is Back」というフレーズが使用されている。もっとも208GTi登場までに30年の年月が流れているわけだから、GTiという名称と基本コンセプトは引き継いでもクルマとして目指すところは別次元だと思う。

LEDライトとオレンジ色の LEDウインカーライト
専用のフロントグリルとレタリング

 

 

シャドゥシルバーに赤を加えたGTi専用マーク
クロームメッキの異形エキゾーストパイプ

 

 

3ドアボディの208GTiはデザインも専用で、エクステリアも赤をあしらったGTiバッジ、専用のグリル、クロームメッキされたドアミラーカバー、専用ヘッドライト/専用LEDウインカーライト、ルーフスポイラー、オーバーフェンダー風の前後フェンダーエクステンションなどを装備しているが、スポーツモデルにもかかわらず過剰なアグレッシブを抑え、それでいてマニアのハートを刺激するセンスの良さを見せている。

 ブラックを基調に、多数の赤を使用した専用インテリア

インテリアは、ブラック基調に赤のアクセントを多用し、プレミアム感と高揚感を融合させている。特にスポーツシートの仕上げ、風合い、ホールド感は圧巻だ。350mm径のステアリングもGTi専用で、やや太めだがしっとりした本革の質感、軽い操作感、赤のセンターマーキングなどがGTiというキャラクターとマッチしている。しかし、さすがに3ペダルのレイアウトは右ハンドル仕様では苦しい。各ペダルの間隔が狭く、左足の置き場所もぎりぎりという感じなのは止むを得ないところだ。このペダルレイアウトに対応するためには、ドライバーの意識としてわずかに中央方向に身体をずらして座るのがよいだろう。

インテリアでは、センターディスプレイにナビが搭載、というか正確にはインストールされている。ベースモデルの208発売時にはナビが間に合っていなかったが、2013年の春頃からナビデータのSDカードが完備し、このデータをインストールする。プジョーが設計したインフォテイメントシステムにナビを組み合わせることで、フルバージョンになる。これも先進性の表れだ。また、インテリアでもLEDを使用した間接照明を使用するなど、ディテールにこだわるデザイン・センスも感じられる。

ツインスクロールターボを装備し200ps/275Nmを発生する1.6Lエンジン

208GTiは、4気筒1.6Lの1.6THP200エンジンを搭載する。エンジン名称はターボ・ハイプレッシャー、200psを意味する。同じ1.6THPでも156ps仕様もあり、これは従来はGTモデル、今後は「XY」に搭載される仕様だ。GTiが搭載する1.6L/200psエンジンはリッター当たり125psというツインスクロールターボ装備のハイチューン・エンジンだが、特性そのものはダウンサイジングコンセプト+大トルク型で、1750rpmで最大トルクを発生する。レッドゾーンは6500rpmに設定されているが実用上はそんなに回す場面はなく、4000rpmあたりまでで十分に速い。208GTiの車重は1200kgと軽いのでもちろん全力加速では0-100km/hは7秒を切る実力を持つ。

驚かされるのはサウンドのレベルだ。常用域では驚くほど室内は静かで、エンジンサウンドが室内に侵入する気配がないのだ。4000rpmを越えるあたりからGTiサウンドが聞こえてくるのだが、それも後方から、かなりの距離感が感じられるサウンドなのだ。最新の技術トレンドでは、このBセグメント・スポーツモデルでもこれほどの静粛性が求められていることが実感させられた。

このエンジンに組み合わされるのは6速MT。踏力が軽く、繋がる時のフィーリングがしっかりしたクラッチと組み合わされており、ギヤチェンジも軽く滑らかに操作でき、適度なストロークがあるギヤシフトは気持ちよい。これも地味だが評価すべきところだと思う。

ルーフサイドは継ぎ目なし。GTi専用リヤスポイラーも装備
驚くほど左右幅が太いサイドシル

 

 

208GTiの走りの特徴はなんといっても絶妙な、大人の味わいがあるフラットな乗り心地、接地感だ。専用のスポーツサスペンションを備えているが、路面に対する接地感が秀逸で、路面の凹凸に対して滑らかでしなやかだ。コーナーではじんわりロールしながら前後のタイヤが路面を捉えて離さないというフィーリングだ。そして入力が大きくなるにつれスポーツサスペンションならではのオーバーダンピング感が感じられるようになる。このロジカルで、プログレッシブなフィーリングのサスペンションのセッティングはBセグメントの常識をはるかに超えていると思う。スポーツモデルらしからぬしっとりとした乗り心地は、スプリング、ダンパー、スタビライザー、バンプラバーなどのセッティングだけではなく、ボディやサブフレームの剛性の高さ、減衰特性の良さといった基本骨格の素材、素性のよさがもたらすものだと思う。

慣性マスが小さい小径のステアリングは剛性感がとても高く、中立の締まりと正確さ、路面からの気持ちよいフィードバックなど、電動パワーステアリングとして一級の操舵フィーリングだ。軽快そのものという感じのベースモデルの208と比べGTiは少し操舵力が重めになっているが、ステアリングホイールを握る楽しさ、気持ちよさは208シリーズ全体の持ち味だといえる。少ない操舵量で、意のままにクルマが反応する爽快なコーナリングは、GTiの醍醐味で、アンダーステアの気配さえ見せない。FRでなければ真のスポーツモデルとはいえないなどという古びた固定概念はもはや都市伝説に過ぎないと実感させられる。

208GTiのようなB-Cセグメントのスポーツモデルを多くの人は「ホットハッチ」といった軽い言葉で表現することが多いが、実際のところ208GTiはセグメントを超えた大人っぽさや熟成された味が感じられ、ステアリングを握ったフィーリングはもっと大きなクラスのクルマだと錯覚してしまうほどだ。このどしっとしたフィーリングと、目を覚まさせる動力性能、リニアに軽快に応答するコーナリングの身のこなしバランス感が208GTiの持ち味であり魅力だと思う。また、208GTiの持つエンジンパワー、走りの質、クオリティ感の高いきめ細かな仕上げや装備などを考えると、300万円を切る価格のコストパフォーマンスはきわめて高いと言える。

プジョー208GTi諸元表

 

プジョージャポン公式サイト

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