2013年の東京モーターショーで日本でビューを果たしたプジョー2008はこの2月から発売が開始された。2008という4桁の車名から分かるように、Bセグメントのクロスオーバーカーだ。2008は2012年に北京モーターショー、秋のパリショーにアーバン・クロスオーバーコンセプトとして出展され、市販モデルは2013年3月のジュネーブショーでワールドプレミアを行ない、発売が開始された。
2008は、プジョーにとっては207 SWの後継モデルであり、PF1プラットフォームを採用しているハッチバックの208からの派生モデルとなるが、同時にプジョーとしては初の本格的なグローバルモデルという位置付けにもなっているのが大きな特徴だろう。
グローバルで見ると、大きな成長を遂げているSUVやクロスオーバーだが、これまでのトレンドリーダーはDセグメントのプレミアムクラスの高価格車であり、メインマーケットはアメリカ、中国市場の富裕層であった。その一方、より小型の都市型クロスオーバーとしては、2010年に日産がBセグメントの挑戦的なクロスオーバーとして発売したジュークが、ヨーロッパだけではなくグローバルで成功を収め、このクラスの先駆者となった。この小型クロスオーバーのカテゴリーではVWのクロスポロが先行し、ジュークとほぼ同時のタイミングで2代目(6R型)クロスポロも投入されているが、正直言ってクロスオーバーとしての世界観が日産ジュークに及ばなかったといえる。
アメリカの市場が生み出したSUV(スポーツユーティリティビークル)のベースになったのはクロスカントリー4WD車やダブルキャブの4WDピックアップトラックであり、これらのクルマはフレーム式シャシー、パートタイム式またはフルタイム式4WDシステム、大径タイヤといった組み合わせが「スポーツカー」と認知され、ショッピングからレジャーユースまで多用途に使える使い勝手のよさが若者から主婦層にまで大いに受け、SUVという新しいカテゴリーを生み出すことになった。
SUVはやがて乗用車プラットフォームがベースとして開発されるようになり、進化を遂げたが、同時に付加価値的な位置付けの4WDシステムを必ずしも重視しない、より都市部、オンロードにターゲットを絞った乗用車のバリエーションとしてのクロスオーバーが登場することになった。クロスオーバーのデザイン・アイコンは大径のタイヤ、乗用車より高い最低地上高とされるが、インテリアはステーションワゴン的な使い勝手のよいユーティリティを持っている。
ヨーロッパでは最も大きな市場であるBセグメントに登場したクロスオーバーは、デザインとハッチバックを上回る使い易さ、多用途性によってマーケットに受け入れられたとみてよい。そして、このBセグメントのクロスオーバーはこれからのグローバル戦略車、ヨーロッパや先進国だけではなくBRICsを含む新興国をカバーできる戦略車になるという読みは、各自動車メーカー共通の認識となってる。
当然ながらフランスのメーカーからグローバルメーカーへ脱皮しようとしているプジョーにとっては、2008はグローバル戦略車と位置付けられた。2008は開発コード「A94」と名付けられ、2010年に開発が開始され、2011年にデザインが決定されている。400名の開発チームは、ヨーロッパ出身者が200名、中国人が100名、南米のメンバーが100名からなるグローバル開発体制であり、300億円を超える投資もフランス以外に中国、ブラジル、アルゼンチンの各工場にも行なわれている。2008はまさに世界全域に適合できる商品として開発されているのだ。
2008の開発コンセプトは、SUV的ではなくエレガントなデザイン、プレミアムクラス並の品質、五感を刺激するドライビングプレジャー、わだち路や滑り易い道路でのタフネスさ、日常での使い勝手と多用途性などを実現する多彩なクロスオーバーとされている。
2008は208と共通のプラットフォームだが、アッパーボディは専用開発で、全長4160mm(+200mm)、全幅1740mm(+-0mm)、全高1550mm(+80mm)で、オーバーハングがフロントは+50mm、リヤは+150mm。前後オーバーハングを極端に切り詰めた208に対して2008は特にリヤオーバーハングを延ばしていることが分かるが、このリヤオーバーハングでも普通のクルマのレベルで見れば決して長くないし、デザイン的に見てボディのフォルムのバランスは絶妙だ。なお最低地上高は150mmで、クロスオーバーとしてはかなり低く、乗用車レベルから+20mmといったところで、2008がアーバン・クロスオーバーであることが分かる。ということで4WDの設定はなく、前輪駆動のみだ。
エクステリアでは、フロントマスク、ヘッドライト、ライオンの3本爪をモチーフにしたLEDを採用したリヤランプ、リヤルーフスポイラー、リヤ席部分が盛り上がったルーフ形状、ルーフレールなどすべて2008用のデザインで、見方によってはベース車の208よりワンランク上のエクステリアと感じられる。
インテリアは、ダッシュボードまわりは208と共通で、350mmφの小径ステアリングホイールとその上方に配置されたヘッドアップ・メーターパネル、そしてダッシュボード中央上部に配置されたインフォテイメント/ナビ用の7インチ・タッチスクリーンなどはプジョーらしさがある。2008独自なのがサイドブレーキレバーで、デザインは航空機の操縦レーバーのような本革をあしらったサテンクローム光沢のグリップとなっている。
シートはしっかりしており、質感も高い。リヤのラゲッジスペースも、このクラスよりはるかに高いレベルの仕上げで、プレミアムクラスを意識した作りであることがうかがわれる。その象徴がフロア部の荷物スライド用レースやリヤ開口部下側(シルガード)にステンレスを使用していることだ。
リヤシートは、着座位置は前席より少し高めでクッションもしっかりしているが、座面の厚みは薄めで、シートバックを折り畳んだ状態でラゲッジスペースとフラットになるような仕組みだ。ラゲッジ容量は、リヤシートを使用した状態で360L、リヤシートを折り畳むと1172Lとなる。
いずれにしてもインテリア全体の作りはBセグメントのワゴンの常識を超える質感が感じられ、ここのデザインセンスも抜群といえる。これは同じカテゴリーの競合車にとっては脅威となるだろう。
2008はヨーロッパ仕様は、1.4L、1.6Lのディーゼル、ガソリンエンジンは1.2Lが2種類、1.6Lが2種類というバリエーションがあるが、日本に導入されたのは最新スペックの3気筒・1.2L、スタート&ストップ付きのEB2型エンジンに5速AMTのETG5という組み合わせだ。
もともと、フランス車やイタリア車は、大馬力のクルマ、エンジンは中産階級であっても受け入れられず、むしろ小排気量のクルマの方がプライオリティが高い。こういうところが大馬力を追求するドイツ車との違いだ。
そういう意味でいうと、Bセグメントのクロスオーバーに3気筒・1.2Lエンジンの組み合わせは、いかにも現地好みの組み合わせであり、この2008の資質を味わうにはうってつけといえる。もっとも、実際にアクセルを踏み込んで走り出すと、イメージ的にはとても1.2Lと思えないほどトルク感があり、低速域で扱いやすく、回転が上がればエンジンフィーリングはスポーティで気持ちよい。最大トルクが2750rpmという低速型になっているのもこのエンジンの強みだ。
シングルクラッチで2ペダルのETG5は、発進時だけ意図的にゆっくりアクセルを踏み込みことが求められるが、走り出せばD、つまりオートモードでも自在に走ることができる。またパドルシフトを使用したマニュアルモードでは小気味よい走りも。エンジン、トランスミッションのマウントもしっかりしており、駆動系の剛性感も感じられる。
ステアリングホイールは208と同様の小径タイプで、ステアリングフィーリングは滑らかでしっかりしており、上級車レベルの質感といえる仕上げになっている。これは208も同じだが、フィーリング的には208の方が少しスポーティ感があり、2008は軽快さと落ち着きの両立を感じる。フィーリングとしては208以上にボディの剛性感が高く感じられ、俊敏というよりしっとりした、フラットな乗り味で、ほとんどクロスオーバーらしさは感じられない。その一方で走りの力強さは、2008の車重が1150kgときわめて軽量であることも効いている。
2008は、走りの味はもちろんエクステリア、インテリアの仕上がりも含めて所有する満足感があるだろうし、Bセグメントらしいボディのサイズ、1550mmの全高など都市部でも使い易さも大きなアピールポイントだろう。
グレードは、プレミアム、シエロの2グレードで、ESC、クルーズコントロールや任意設定のスピードリミッター、バックソナー、フロント・フォグランプはコーナリング機能付き、雨滴感知オートワイパー、左右独立オートエアコンは全車標準装備・・・と同クラスの日本車と比べても装備の充実も特筆ものだ。グレードの差は内装素材の差と、ガラスサンルーフの有無(ベースのプレミアムはLED天井照明のLEDトラックを装備)といったところだ。ベースとなるプレミアムで246万円という価格はきわめて競争力のある設定といえるだろう。
■プジョー208 アリュール