2013年6月、フランスを中心に取材に行く機会があり、そこでの移動の足としてプジョー208ディーゼルに乗った。208ディーゼルは国内には未導入。コンパクトボディに搭載されたディーゼルエンジン、その乗り味をレポートしてみよう。
輸入車には、国内未導入となるモデルが数多く存在するのはご存じのことと思う。なぜ国内導入をしないのか?その理由は様々あるが、一番大きな理由は「売れるか?」ということであり、「欧州や北米では人気でも日本では売れない」ということが起こるからだ。
プジョー208は世界中でヒットを続けている人気のBセグメントモデルで、国内でも話題を集めているモデルだ。日本に導入されているモデルはいずれもガソリンエンジンで3気筒の1.2L、4気筒・自然吸気の1.6L、そしてつい最近1.6L+ハイパワーターボのGTiもラインアップに加わり、国内の需要には十分応えているラインアップと言える。
今回、プジョー・シトロエン・ジャポンにお願いして、フランスでの取材旅行の足として「プジョーモデルの国内未導入モデルを貸していただけないか」と相談したところ、208のディーゼルモデルを貸し出してもらえることになった。国内導入モデルはすべて試乗させてもらっているが、欧州ではこのディーゼルが一番人気のモデルになっている。欧州スタンダードはディーゼル+マニュアルの組み合わせであり、コンパクトクラスになるとその傾向は顕著になる。したがってこのチョイスは願ってもないことであり、ディーゼル&MTを存分に味わうまたとないチャンスである。
ディーゼルがヨーロッパで人気の理由としては、長距離移動をする際、ガソリンよりも燃費がいい、低速トルクがあるので運転が楽などの判断が働く。それは、フランスの最高速度は郊外が130km/hであり、都市近郊は110km/h、90km/hの場所が多い。エンジンは必然的に高回転域での使用が中心になる。
ディーゼルはその特徴から、高回転まで回さずとも最大トルクを発揮できるエンジンであるため、高速巡航を低回転で行なうことができる。試乗したプジョー208の1.6Lディーゼルターボ(1.6HDi)は、最高出力は115ps。130km/hでエンジン回転数は2100rpm程度であった。110km/hでは1750rpmとかなり低め。高速巡航をより低回転でできたほうが、ドライバーのストレスは少なく、連続高速高回転は疲労にもつながるのは想像しやすいだろう。もちろん高回転でエンジンを回せばガソリンでもディーゼルでも燃費は悪くなる。さらに、プジョー208には5速、6速オーバードライブのハイギヤも持ち、より低回転での走行も可能だ。
近年、ディーゼル技術も革新の進歩がみられ、ディーゼル特有のネガな部分が改善されつつある。たとえば、排気ガスの問題。排出されるCO2はもともとガソリン車よりも少ないため、環境意識の高い欧州ではディーゼルが好まれている。また排気ガスに含まれるNOx(窒素酸化物)やPM(すす)もプジョー208は欧州基準のユーロ5をクリアしており、ディーゼル=黒煙という認識はもはや過去のものであり、早く技術の進歩に気づき意識を改めなければならない。
また、ガソリン車と比較してディーゼル独特のエンジン音もネガな部分と言えるが、最新のディーゼルでは、ガソリン車なみのエンジン音にまで抑えられている。208に搭載している1.6HDiディーゼルも聞き比べなければディーゼルとは分かりにくい。信号で止まった場合などはアイドリングストップ機能が働き、アイドリングはしない。加速をすれば4000rpm以上伸びるので、ディーゼルと感じる部分は少ない。
おそらくレッドゾーンは5500rpm付近。逆に低回転から力強いトルクが立ち上がるので、ガソリン車よりも加速感は強く、パワーがあると感じることができるのだ。しかも吹け上がりも滑らかで、ガソリン車との差はないレベルにまでになっている。
欧州では根強い人気となるマニュアルトランスミッションは、試乗した208は6速を搭載している。5速、6速がオーバードライブのため、高速巡航時には回転を低く抑えることができている。シフトフィールは滑らかで上質感がある。クラッチペダルも軽く、それほど踏力を必要としない。
ここで私見だが、欧州のマニュアル人気について、フランスやイタリア、スペインなどラテン系の国では特にMT人気が高く、ドイツなどのゲルマン系ではATが増え始めている。これは運転の仕方というか、国民性というのか、渋滞時でも一台ずつ交互に入れるのがゲルマン流で、日本人と同じ感性で馴染みやすい。一方、隙間があればどんどん鼻先を入れてくるのがラテン流という違いを感じる。
鼻先を相手の前に入れようと少し動かしてすぐ止まるという動きをしたとき、MTはクラッチのON/OFFだけで操作ができるが、ATのクリープでは動作がゆっくりだし、かといってアクセルを踏めば、止めるためにブレーキを踏まなければならない。そのことが逆に煩わしいと感じているのかもしれない。あくまでも個人的な感想だ。
それと、もともとクルマの運転を楽しむという土壌があるようにも感じる。これは民族関係なく欧州全体で。イタリアやイギリスのワインディングではあっさり追い越しをされるし、抜いていくドライバーが初老の女性だったりもかつて経験した。イタリア人のおばあちゃんは「怖くてATなんて運転できない」という話を聞いたこともある。クルマは自ら操作するのが基本であるという、根本的なことが日本とは異なっているように感じる。
さて、今回のディーゼルを搭載したプジョー208はパリの市街地と高速道路を使い、延べ2000km走行してきた。特筆は高速での上質感と直進性の高さ、車内の静かさがある。つまり、疲れないのだ。いずれもクラスを超えたレベルにあり、人気の理由がよくわかる。もちろん、130km/hで巡航しているときもディーゼルエンジンは唸らず、スムーズに回っている。乗り心地は非常に上質で、コンパクトプレミアムクラスと言うに相応しい。
高速での合流車線を2速から加速させ、エンジン音を聞きながらタコメーターを気にせずほど良いところでシフトアップ。それを3速、4速、5速とシフトすると大抵130km/h付近に車速が乗っている。あとは6速に入れ回転を落とし静かにクルージングに入る。というように実にフランスの交通規則にマッチしているなぁと感心する。生まれ故郷では、イキイキと走れるのか…。
直進性もセンターでの座りがよく、直進をハッキリと感じ取れるようにセッティングされているため、安心感が高い。長距離を130km/hの高速スピードで長時間巡航するには必須の能力であり、高いレベルで達成されていると感じる。小径のステアリングが特徴の208だが、小径ゆえにレスポンスを過敏と錯覚するかもしれない。クルマの反応自体はリニアに反応しており、そのドライバーの意思通りの感覚は一般的なサイズのステアリング径に慣れている人ほど錯覚を起こす。その要因のひとつにコンパクトカーサイズ、ショートホイールベースなどの要素も加わるためだ。
余談だが、この小径ハンドルは真円ではなく楕円なのだ。ひと目で楕円とわかるほど目立っているが、操作していて違和感がない。普通楕円であればイナーシャはあって当たり前だが、感じられない不思議がある。
市街地では軽いクラッチペダルを自在に操り、パリの渋滞も、凱旋門のランナバウトも苦にならない。瞬間的な加速ではディーゼルの太い低速トルクを活かし、周りのクルマとのつばぜり合いにも参戦できる。箱根のようなワインディングは残念ながら走らなかったが、ディーゼルであってもスポーツドライブが楽しめるのは間違いない。
現在、マツダのスカイアクティブディーゼルが発売されて以来、日本人のディーゼルへの認識が大きく変化している。国内では軽油とガソリンの価格差もあり、ディーゼルメリットを考えるタイミングにあると思う。