2013年1月22日、PSA(プジョー・シトロエン)グループとボッシュが、コンパクトカー向けとして画期的な油圧・空気式ハイブリッドシステムを開発中であることを発表した。このハイブリッドシステムは、既存のガソリンエンジンと、油圧・空気圧による蓄圧器(アキュムレーター)を組み合わせ、バッテリーや電動モーターをまったく使用しないシンプルなシステムとしてまとめることができるのが最大のメリットだ。
新ハイブリッドシステム登場の背景には、2020年から2025年に向け、世界(EU、アメリカ、中国)のCAFE(企業平均燃費=km当たりのCO2排出量)を30%以上低減する必要があることだ。特にフランス、イタリア車はA、Bセグメントのコンパクトカーが主流のため、エンジンのダウンサイジングだけで燃費目標を達成するにはハードルが高すぎる。したがって大幅に燃費を低減するためにはハイブリッドシステムの導入は不可避としている。
しかしその一方で燃費(CO2 排出量)とコストのバランスを考えると、既存のフルハイブリッドシステムはコストが高すぎ、コンパクトカークラスには到底受け入れる状況にはないことも事実だ。フルハイブリッドシステムは、大容量のニッケル水素電池またはリチウムイオン電池を搭載する必要があり、モーター、インバーター/パワー制御システムも必要になるからだ。
こうした課題をブレークスルーする技術として、この油圧・空気圧式ハイブリッドシステムが登場したのだ。この技術のベースはボッシュ・グループの「ボッシュ・レックスロス社」が展開している産業用の油圧・空気圧システムであるのは興味深い。言い換えればすでに確立されている既存のテクノロジーの自動車への転用といえる。
ボッシュとPSAグループの関係は、2012年初頭からヨーロッパで販売されているプジョー3008ディーゼル・ハイブリッド4WD(電気式アクスルスプリット・ハイブリッド)で共同開発を行った実績がある。この世界初のディーゼル・ハイブリッドは、リヤアクスルはモーター駆動のみで電気式アクスルスプリット4WDとしている点も大きな特徴だ。この2社の次のステップのコラボレーションとして、よりコストが安く、小型車用量産向けシステムとしてこの油圧・空気圧式ハイブリッドシステムに着目したわけだ。
このフルハイブリッド・システムは、燃費、CO2 排出量を削減できる上に、コストパフォーマンスが優れたたシステムと位置付けられ、油圧ユニットと2つの蓄圧器(キャビン・センタートンネル部の高圧タンクとリヤ床下の低圧タンク)からなり、既存のガソリンエンジン/オートマチック・トランスミッション(詳細は明らかではないがCVTと推測される)と組み合わされる。
そして、ハイブリッドシステムの走行モードは、エンジン走行モード、油圧モーターによる走行モード、エンジンの動力と油圧モーター両方によりハイブリッドモードで、低負荷の走行ではエンジンはもっとも燃費効率がよいゾーンで作動させることができる。もちろん、アクセルオフ、ブレーキ時には減速エネルギーは油圧ポンプにより油圧エネルギーに変換され、油圧が空気を圧縮して気体蓄圧器に蓄積される仕組みだ。つまり、既存のハイブリッドシステムにおける電気モーターの役割を油圧モーターが受け持ち、バッテリーの役目を空気蓄圧器が担当する。
発進は圧縮空気で加圧された油圧エネルギーのみで行い、短距離では油圧のみの走行が可能で、NEDC(新欧州複合燃費)で-30%、市街地では45%のCO2が削減できるとしている。
またこのシステムは、既存の各種のエンジンと自由に組み合わせることができるのも特徴で、当初はA、Bセグメントのコンパクトカーから展開されるが、その延長線上には小型トラックやCセグメントのクルマへの展開も構想されている。また機構的に低コストというだけではなく、シンプルでロバスト(外部環境に対する堅牢)性が高く、インフラの整備も不要なため、世界の地域を選ばず展開できることもメリットとされる。
PSAグループは、このシステムをiOn(iMiEVのOEM車)をベースにしたプロトタイプを製作しており、システム名は「ハイブリッド・エア」と名付けている。そして2020年に向けて3.0L以下/100kmという燃費目標を達成するためのキーテクノロジーと位置付けているのだ。
具体的には、現在のプジョー208、シトロエンC3の1.2 VTi82(3気筒)エンジンとの組み合わせで2.9L/100km(約34.5km/L)、CO2排出量で69g/kmを達成できる見込みだという。
またこのシステムは、搭載性にも優れコンパクトカーに搭載してもキャビンスペースに影響を及ぼさないことや、油圧駆動によるレスポンスのよさも大きなメリットだとしている。
PSAグループはこのシステムを搭載したBセグメントのクルマを2016年に市場導入すると発表している。