【メルセデス・ベンツ】S550ロング試乗記 完全自動運転も可能な最先端技術搭載

マニアック評価vol253
2013年10月から順次国内導入が始まった新型Sクラス(W222型)。モデルはS400ハイブリッド、S550ロング、S63AMGロングが基本ラインアップで、6グレードという構成になっている。試乗したモデルはS550ロングの左ハンドル仕様でマジックボディコントロールが装備されるモデルだ。

S550ロング。4.7Lツインターボにマジックボディコントロール、ディストロニックプラスなど先端技術が満載
S550ロング。4.7Lツインターボにマジックボディコントロール、ディストロニックプラスなど先端技術が満載

◆ポジショニングとポイント
何度も報じられているが、開発テーマは「最善か無か」(Das beste oder nichts)これは企業、ブランドとしてのステートメントで、「世界中のクルマの中で最高の自動車たることを目指す」ものであり、スタイリッシュで安全で、パワーもあり効率も素晴らしい、乗り心地もよくてハンドリングも気持ちいいといった、すべてを持ち合わせたモデル開発というのが新型Sクラスである。

Sクラスのポジショニングはプレステージクラスにカテゴライズされると思うが、BMW7シリーズやアウディA8、そしてベントレー、マセラティなどが存在する位置。マーケットは中国の台頭である意味活性化しているが、欧州ではやや縮小傾向の市場でもある。したがってターゲットは中国はもちろん、アメリカ、日本などが中心で、その結果ロング仕様を重視したラインアップ展開となり、想定ユーザーは会社法人や富裕層というのはいうまでもない。

大きな液晶パネルが特徴的。アンビエントライトもゴージャス
大きな液晶パネルが特徴的。アンビエントライトもゴージャス
S550は左ハンドルと右ハンドルが用意されている
S550は左ハンドルと右ハンドルが用意されている

 

さて、新型Sクラスで注目したのは、高度運転支援技術の搭載とマジックボディコントロールである。メルセデス・ベンツには、ディストロニックプラスという安全装備がすでに装備され、前車に追従するシステムは高速巡航時以外でも追従が可能で、渋滞時などドライバーの負担を軽減することで歓迎されている。もちろん、斜め後方車両の監視やブレーキアシストによる「ぶつからない」ブレーキも装備する。

今回注目した高度安全運転支援技術とは、これらの装備に加え自動運転が可能なシステムを搭載していることだ。これはレーンキープアシストの機能に加え、ステアリングの修正も行なうもので、車線をカメラが認識し逸脱しそうになるとワーニングではなく、ステアリング操作で車線内に戻るというもの。アクセルやブレーキはすでにディストロニックプラスの機能でコントロールできているため、いわば完全自動運転が可能というわけだ。

ABC

 

それと、マジックボディコントロール。これはABC(アクティブボディコントロール)に加え、カメラで路面の凸凹を捉え、乗り上げる前にサスペンションが自動で上下して乗り心地を確保するというシステム。 まさにショーファードリブンの後席優先のための決定打と言えるシステムだ。

◆インプレッション
自動運転は高速道路走行中にディストリニックプラスを稼動させる。いつものようにレバーを手前に引けばセットでき、ステアリングにあるスイッチで車速、車間距離を設定すればOK。すぐにアクセルペダルからは開放され、前車への追従が始まる。と同時に何もセットすることなく完全自動運転が可能になっている。試しに意図的にゆっくり車線を外れようとすると、手を触れることなくわずかにハンドルが切れ車線内にクルマは戻される。

ロングは4人乗り仕様。ショーファードリブンモデル
ロングは4人乗り仕様。ショーファードリブンモデル
後席ヘッドレストはもはやピロー仕様に
後席ヘッドレストはもはやピロー仕様に

この状態のまま、今度は車線変更を試す。すると何事も起こらず普通のクルマと同じように車線変更はできる。当たり前か。では、自動でハンドルが切れているときはどの程度の力が加わっているのか、といえば人の力が加わった瞬間にドライバーの操作が優先される。つまり、その自動操舵はドライバーの意思をハンドルに加わる力加減で認識していることになる。

また、ハンドルに手を添えている状態で車線を逸脱しそうになると、わずかに自動で操舵されていることが分かる程度の力が加わるが、ハンドルをギュッと握っているとおそらく自動操舵は感じられず、知らぬ間に車線内にも戻されていることになるだろう。実はこの場面を想定した安全運転支援技術であるわけだ。

速度計、回転計も液晶になったため、さまざまな情報が表示できる
速度計、回転計も液晶になったため、さまざまな情報が表示できる
大きな液晶のナビ顔面はすっきりしていて見やすいものの、ソフトのレベルは上げてほしい
大きな液晶のナビ顔面はすっきりしていて見やすいものの、ソフトのレベルは上げてほしい

 

一方で、完全に手放し運転が可能であり足元の操作も不要なため、いわゆる完全自動運転が成立していることとなる。ただし、ある一定時間(15秒程度)ハンドルから手が離れているとワーニングランプが点灯し、ハンドル操作を促す。その段階でシステムは解除され自動操舵はされなくなる。

やはりクルマはドライバーが操縦するものであり、制御技術がいくら進歩しても機械が運転するようにはしないというのが自動車メーカーのスタンスだ。もちろん、軍事技術としては無人化が可能な自動車はあるわけでグーグルなどが開発するものはそちらの発想に近い。自動車メーカーとしては無人化が可能な自動車であれば電車やタクシーを利用すれば済むわけで、軍事技術としての自動運転と、その考え方には大きな違いがある。あくまでも高度運転支援技術ということだ。

S550ロング真横

マジックボディコントロールは、路面の凸凹の明暗をカメラが捕らえ、その情報をもとにエアサスペンションが稼動し、フラットに感じるようにストロークするものだ。一般道での試乗では、このシステムが働いていると感じる場面は少なく、もともと、乗り心地は高いレベルにあり、その乗り心地がマジックボディコントロールのおかげなのか?というはドライバーには分かりにくかった。ただ、駐車場ビルのスロープではフラットな場所からスロープに切り替わる場面では、そのショックがなく「これかぁ」と感じることができる場面もあった。

一方、ハンドリングでは、ステアリングに伝わるインフォメーションが少なく、またハンドルの操舵感も軽いためやはり後席のためのモデルであると感じる。コーナーでステアしていくとき、ドライバーはロール感やヨーを感じながらスロットルワークやブレーキングをしていくが、そのリニア感、手応えというのはない。高度に制御されたモデルであると感じ、フラットな乗り心地と静粛性を兼ね備え高級車らしい乗り味を堪能することになる。

S550ロングに搭載するエンジンは、V8型4.7L+直噴ツインターボ(M278型)で、かつての5.5Lエンジン(M273型)のダウンサイジングである。トランスミッションは7速ATと組み合わされている。出力は455ps/700Nmというスペックで、1800rpmから最大トルクが発揮され、JC08モード10.1km/L。しかし実際の走行では10.5km/Lのメーター表示もあり、実燃費も8.0㎞/Lから10.0km/L付近ではないかと想像できる。

車重は2.2tあるが、これだけのスペックだけに軽々とボディを引っ張る。アクセルを床まで踏み込まなくとも強烈な加速があり、申し分のない走りを披露する。さらにパワーを求めるなら5.5L(M157型)V8型ツインターボを搭載するAMGモデルもあり、そちらは585ps/900Nmというモンスターパワーになっている。ちなみに400ハイブリッドのJC08モード燃費は15.4km/Lとなっている。

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