メルセデス・ベンツ初の100%電気自動車「EQC」が2019年7月に発表され、オンライン予約を始めている。そのEQCはGLCと同じプラットフォームを使ったEVで、早速試乗してきたのでお伝えしよう。
メルセデスらしいEV
エクステリアデザインもインテリアデザインも、これまでにない新しいデザインで「新型車」であることを感じさせるが、BMWの「i」シリーズや初代リーフのように、明らかにガソリン車とは違って、電気自動車だぞという主張は感じない。あくまでもメルセデス・ベンツに新しいラインアップとして加わったというのが第一印象だ。
運転席に座り、各部を見渡すと、従来のメルセデスのインテリアとは異なり、新しいもので溢れているが、メルセデスのデザインとして処理されており、メルセデスの新車であることを意識する。パワートレーンはエンジンからモーターに変わったわけで、エンジンスタートもシステム起動という言い方に代わり、ボタンを押す。
音もなく起動しインパネにさまざまな表示がでてくるので、スタンバイ状態であることが理解できる。発進は他のメルセデスと同様に、右側ステアリングコラムに取り付けられたレバーで「D」を選択すれば動き出す。
つまり、パワートレーンは変われどメルセデス・ベンツであることには変わりはなく、それが新型車として登場したわけだ。だからステアフィールやブレーキのタッチ、乗り心地などすべてメルセデスらしい味が担保されていて、どこから見ても、どこを触ってみても「ベンツ」なのである。だからクルマに詳しくなければ100%電気自動車とは分からず、「静かに走るベンツ」としか分からないだろう。
2モーターのAWD
さて、そのEV走行では2モーターシステムで前後に150kWの出力を持つモーターを2基搭載し、最高出力300kW(408ps)、最大トルク765Nmの力強さを持ったパワートレーンである。そして減速には回生ブレーキが装備され、4段階の減速が可能だ。
デフォルトは「D」のままだと、一般的なガソリン車に似た減速Gで、正確には0.6m/S2の減速力になる。パドルシフトの左側をワンクリックすると「D-」となり、1.7m/S2の中間の減速力になり、フィーリング的には2速飛びギヤしてのエンジンブレーキといった感じだ。さらに左のパドルシフトをクリックすると「D–」になり、最大2.5m/S2の減速力になる。これはワンペダル走行のイメージに近いが、ただし停止まではせず、止まるときはフットブレーキを使う。
電気自動車のブレーキはこうした回生ブレーキと通常の油圧ブレーキがあり、その協調制御が噛み合わないとフィリーングに違和感が出るものだが、流石にそのあたりはまったく感じることなく普通のブレーキフィールで運転できる。
そして搭載の2基のモーターはZF製の15ED35AでPCUを内蔵するタイプのモーターを前後に配置している。低負荷、中負荷時はフロントのモーターだけで走行し、高負荷時になるとリヤモーターも稼働するという役割分担を持たせた制御を行なっている。
ちなみに0-100km/h加速が5.1秒と俊足。高い車高とDセグメントサイズのボディでのこの加速はスペック以上の速さを感じるのだ。試乗コースは首都高速と市街地だったが、ハイパフォーマンスのモデルに乗っている気分は味わえる。もちろん、エンジン音はなく、逆に空気を引き裂くイメージの中で加速感を感じ取れる。これは新しい加速フィールだ。
EQCが持つ魅力として、ダイナミック性能とブランドについては文句なくメルセデスの魅力を持っている。だが、エンジンの魅力(AMGなど)に対しては、EVの新しい加速フィールが提案されていると考えてみた。それは空気を引き裂く加速で、エンジン車の時代はそのフィールをエンジン音で消えていた。だが、EVはそこを感じ取ることができ、「新しい」と感じるわけだ。
かつてWECのレースでアウディやプジョーがディーゼルエンジンで挑戦していた時代に、レーシングカーでありながらエンジン音が聞こえず、空気を引き裂きながら直線を走る迫力を思い出した。それがEVになるとさらに静粛であるため、市街地であってもその加速が魅力であると感じられるのだ。
生産工場
さて、こうしたパワートレーンが変わったEQCは、冒頭書いたようにGLCのプラットフォームを使っている。したがって生産工場もGLCと同じで、ラインも同じでありブレーメンにあるメルセデスの工場で組み立てられている。ちなみにバッテリーは2014年に完全子会社化したザクセン州カメンツにあるドイチェ・アキュモーティブ社で生産されている。リヤアクスル、フロント駆動モジュールの生産は、メルセデスのパワートレーン生産を行なうハンブルク工場で行なっている。
メンテナンス保証も十分
EQCはメルセデス初のEV車でもあり、新しい保証制度やメンテナンスにおいても新しい取り組みをしている。MBジャパンでは残価設定型ローン、残価保証型クローズエンドリースなどで販売される。また、充電サービスでは提携の充電ステーションにおいて月額基本料が1年間無料のサービスも付いている。
そして保証面では一般保証、メンテナンス保証はもちろん、登録から5年間ないし走行距離10万kmが保証され、バッテリーも8年間ないし16万kmの保証が適用されているのだ。通常の使い方であれば全く問題のないレベルの安心保証だ。電気自動車に懐疑的な人も多いが、こうした保証があれば安心だ。
長距離移動などガソリン車と全く同じ使い方ができるか?というとまだ、不便なことがあると思うが、モーターという新しいパワートレーンはじつに魅力的であり、大排気量のエンジン車と同様、豊かさにプラスして先進性を感じることも間違いないのだ。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>
【価格】
EQC Edition 1886
- ステアリング:右
- パワートレーン:非同期モーター2基(asynchronous motor)
- 価格(10%消費税込み):1080万円
EQC 400 4MATIC
- ステアリング:右
- パワートレーン:非同期モーター2基(asynchronous motor)
- 価格(10%消費税込み):1200万円
【諸元】
- ボディサイズ:全長4761mm、全幅1884mm、全高1623mm、ホイールベース2873mm
- 航続距離:400km(WLTPモード)
- 充電時間:普通充電約13時間、急速充電約80分
- 最高出力:300kW(408ps)
- 最大トルク:765Nm
- 最高速度:180km/h
- 0-100km/h加速:5.1秒
- バッテリー容量:80kWh(リチウムイオン電池)
- ラゲッジスペース:500L
- 車両重量:2495kg