メルセデス・ベンツ新型Cクラス ハンドリングを考察してみた レポート:桂伸一

雑誌に載らない話vol101
メルセデスベンツCクラス 桂伸一 雑誌に載らない話 001メルセデス・ベンツCクラスの前回のレポートでは、サーキット試乗における限界特性を試し、新型Cクラスへの評価は高い、という報告をしている。

しかし、これがCクラスの操縦安定性のすべて、か? いや、もっと深いところを考察してみた。

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富士スピードウェイでCクラスを試乗中の筆者(右)。津々見氏(左)、P.ライオン氏とともに

◆自動操舵を加味した直進領域のつくり方

新型Cクラスで特に感じたことは、例えばメルセデスといえば直進性に確固たる直進領域があり、旋回はその直進の”高くない壁”を乗り越えてから始まるステアフィールがあったが、新型には、それがない。W204時代はBMWのような俊敏さを感じさせることもあったが、今度のW205ではアジリティを強調しながらもその印象はむしろ滑らかな方向である。

これはどういうことか? と考えていた最中の過日、車線が明確に引かれたクローズドコースで、クルーズコントロールを入れる場面があった。カメラやレーダーが前方のレーンを読み、150km/hで前車との設定距離を最適に保持しながら、コーナーではそのアールに沿うように車速を自動調整し車線の中央をトレースする。

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つまりステアリングを自動で操舵する制御が働いている! ステアリングを握っていると気がつかないのだが、握る手の力を抜くと、数秒で「ステアリングを握れ」のウォーニングが出る。制御そのものはあくまでもドライバー優先、そういうことである。

なるほど、クルマ側が自動操舵するにあたり、メルセデス特有の直進性も、BMWのクイックさも、そうした特性はクルマ側が自動操舵するにはかえって足かせになる。つまり、直進の座りの良さは、自動操舵では邪魔になり、クルマ側が自動操舵する能力を持つということは、操舵における特長や癖がなくなるということかも知れない。

メルセデスの考え、次元はさらに先を見据えている。安全制御はクルマ側が人に変わって先を進む。「人間はミスを犯す」。常にそうした考えの基にクルマ開発を進めるメルセデス・ベンツだからこそ、新生Cクラスの操縦性はこうなったわけだ。

◆簡単に曲がるという意味は

先のSクラスクーペのRWDモデルには「カーブ・チルティング機能」なる新たなボディコントロール技術が加わった。コーナーで通常は外側が沈み込むロールの動きに対し、ABC(アクティブ・ボディ・コントロール)の機能を使い、サスペンションのトップマウントを上下させることで、積極的にボディを内側にロールさせるのだ。

メルセデスのコメントは、乗員の快適性向上と言うが、実際はイン側タイヤの接地荷重が増えたか!? のように4輪の接地性が均一化、つまり旋回中にアクセルを踏み込んで加速しても、従来よりもはるかに路面を捉えている感覚が強い。結果として呆気ないほど簡単に曲がるため、より旋回速度を上げることが可能になる。

人が気づかないうちに、難しいコーナリングをカンタンに終えることが良いか悪いかは別として、人が犯すミスを極力なくす、というクルマ造りは、クルマの操縦を楽しむ、とはまた別の次元で評価できる。

といううがった自論かも知れないが、そういう目で見ながらCクラスを試してもらうと、「そうかも知れない」と思うことが多々あることがわかるだろう。

◆ランフラットタイヤは必要なのか

もうひとつ新型Cクラスで気になったことがある。多くの関係者が指摘するランフラットタイヤの硬さだ。これはフラットで良路のサーキット舗装では、当然ながら何も気にならないし、問題ない。しかしなぜ日本向けはランフラットタイヤを装着したのか、させられたのか、いずれにしてもその必要はないといえる。

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こんな話がある。今年(2014年)の春、新型Sクラスクーペの国際試乗会に参加したときの話だ。さすが、Sクラスと唸らされたのだ。分厚い絨毯の上を進むような上質で心地いい乗り味に感銘さえ受けた。この時、メルセデスは今後、BMWと同じくランフラットを採用するのだろう、と思い込んでいた。だから、Sクーペのあの乗り心地は「エアサス」か「ABC」か? ともかくランフラットと実に見事なマッチングをさせたな! と思ったのだ。がしかし、タイヤ銘柄を確認すると、ランフラットではない標準タイヤだったのだ!?

何故かをエンジニアに問うと「スペアタイヤが降ろせて、重量とスペースと資源と環境性を考えると今後は間違いなくランフラットだが、コンフォート性能を考えると、まだまだ標準タイヤだ」と、至極当然のことをサラリと言う。ことタイヤに関して本国のメルセデス・ベンツのサスペンションを担当する開発者ですら、現状はこうなのだ。

日本においてCクラスにランフラットタイヤを選択する理由は? 果たしてそのクルマの生涯でスペアタイヤを使うこと、交換することが何度あるだろうか? と考えると、走行することが職業の筆者ですら、路面の異物を拾ったパンク(事故や縁石に引っ掛けたバーストは別な話)でタイヤ交換をしたのは20年、いや30年になるか? 遠い記憶の彼方でしかない。

その程度の頻度のために「履きこなしている」とはお世辞にも言えないメルセデス・ベンツにランフラットの必要性はまったく考えられない。確かに速度無制限のアウトバーンや数十キロもガソリンスタンドのない北米でのパンクやバーストは生命の危険にさらされる。しかし、ここは日本だ。はたしてランフラットが必要なのか?という疑問だ。

ただし、タイヤメーカーの名誉のために言うと、タイヤそのもののコンフォート性能は、いまや標準タイヤレベルまで引き上げられているし、単体重量も標準に近づいて、決して「重く硬い」ものがランフラットタイヤではないのだ。

好例はBMWで、それは開発当初こそ「硬い、荒い」と筆者も思ったが、市場から何と言われようと、「これでクルマ開発を続けるのだ」と、まい進する気持ちがあれば、結局モノにしてしまう底力。そこがドイツの、というか欧州メーカーの技術力の底力かもしれない。常に市場、お客の反応を気にする「日本メーカー」との最大の違いはここだ。

最後に、Cクラス=ランフラットタイヤに対する個人的見解だが、気になるのは駐車場などの流路にある縁石の乗り越え時の硬い衝撃で、通常走行は“慣れる”。硬いの何のと言っても、結局人間は慣れるのである。だから別にいいではないか、と思う程度だ。どうしても「ランフラットがイヤだ」という方は経年や摩耗したタイヤの交換時期が来たら、メルセデス・ベンツ承認のMOマーク入り純正標準タイヤに交換すれば、本国と同じ乗り味が得られるのは間違いないのだから。

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メルセデス・ベンツ公式サイト

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