メルセデス・ベンツAMG C63 Specialist海外試乗 一般道からサーキットまでカバー。AMGの絶妙なクルマ造り レポート:佐藤久実

海外試乗 メルセデスAMGc63 佐藤久実 016ようやく春の足音が聞こえたかと思えば、また冬の寒さに戻る三寒四温の気候、そのくせ花粉は激しく飛び始めるという、やっかいな季節の日本を発ち、一路ヨーロッパに飛んだ。目的地は、ポルトガルのファロ。メルセデス・ベンツAMG C63のテストドライブが目的だ。<レポート:佐藤久実/Kumi Sato>

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試乗前のスナップ。サーキットを含む試乗でAMG C63を堪能した筆者(佐藤久実)

■ポルトガル一般道試乗
今回のプログラムには、サーキットでの試乗も用意されているとのことで胸が高まる。が、その道のりは遠かった。成田-フランクフルト、フランクフルト-リスボン、リスボン-ファロと、3回も飛行機を乗り継ぎ、ホテルに辿り着いたのは、家を出てから実に23時間後だった。翌朝、目覚めると、ホテルの窓からはキレイな朝日が差し込む。青空が広がり、外気に触れるまでもなく気候の良さが感じられる。前日のタフなスケジュールとはうって変わって、試乗スタートはお昼だったため、束の間、プールサイドでのんびりと過ごす。気温は20℃には満たないが、心地良い気候だ。暖かいというだけでテンションが上がってくる。

さて、AMGモデル、そしてサーキット試乗となればそのパフォーマンスが気になるところだが、まずは一般道の試乗からスタートした。実際、C63オーナーは、圧倒的に一般道を走る機会の方が多いだろう。試乗開始ポイントのファロ空港に到着すると、ずらっと並んだAMG C63が出迎えてくれた。スタンダードモデルに対し、ボンネットフードを50㎜延ばしてノーズを尖らせ、フェンダーを17㎜ワイドにすることで、全高は変わらないが、よりワイド&ローなプロポーションとなっている。相変わらずの押し出しの強さは、新型でも健在だ。

海外試乗 メルセデスAMGc63 佐藤久実 006 海外試乗 メルセデスAMGc63 佐藤久実 007さっそく最初の目的地であるアルガルベのサーキットに向けて、110㎞のテストドライブを開始する。ポルトガルの道路の速度制限は市街地が50km/h、郊外は90~100km/hとなっている。タイヤが転がり出すと、「う~ん、さすがだ!」と唸ってしまった。さすがメルセデス、ツボを心得たクルマ作りがお上手です。ドライブモードをコンフォートにすると、「これなら普段使いでも全然苦にならない。いや、むしろ快適」と思える乗り心地だったのである。

ミシュランの「パイロット・スーパースポーツ」というバリバリのスポーツタイヤを装着しているにもかかわらず、嫌な尖り具合がない。しかも、タイヤサイズは18インチと、ムダにインチアップしていないところもわかっている。

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一般道ではコンフォートモードで快適に走れる

ドライブモードをスポーツにすると、多少路面のゴツゴツが気になる。街中でわざわざチョイスする必要性もないが…。しばらく走り、高速道路へと入った。速度制限は120㎞/h。日本のように立派な中央分離帯があるわけでもなく、路面がキレイなわけでもなく、郊外とあまり代わり映えしない路面条件だ。一般道との制限速度の差も少ない。高速における直進安定性やフラットライドな乗り味も快適だった。

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タイヤはミシュラン・パイロットスーパースポーツ
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ボンネットを50mm延長してスタンダードモデルと差別化

 

 

■AMGの進化を実感したサーキット試乗
ところで、今回搭載されるV8型エンジンは、AMG GTに搭載されるものと基本同じ新開発のものだ。Vバンクの中に2個のターボチャージャーを搭載した「ホットインサイドV」と呼ばれ、コンパクト化、レスポンスの向上、そして排ガス低減などのメリットを狙って開発されている。

AMG GTはハイパフォーマンスのトップモデルだからAMG C63はデチューンされているのかと思ったら、C63の方がパワーが出ている。車重が重い分、パワーを増したという。単に数値スペックでヒエラルキーを作るのではなく、クルマに見合ったパワーバランスとしているのだ。

さて、サーキットに到着すると、そこに用意されていたモデルは、「AMG C63S」だった。このモデルはAMG C63よりプラス34ps/50Nmのパワー&トルクアッブが図られている。さらに、C63の機械式デファレンシャルロックに対し、電子制御のデファレンシャルロックを装備する。これは少し意外だった。というのも私の経験では、電子制御デフロックの方が効きが弱く、レースなどでは機械式に変えたりしていたからだ。もちろん、電子制御を使っているのは、よりトラクション性能が優れるためなのだが、本当に最近の電子制御技術の進化は著しい。

海外試乗 メルセデスAMGc63 佐藤久実 017サーキット試乗は、AMGワークスドライバー先導のもと、最初の2周はウォームアップ、次の2周はアタックラップ、そして最後の1周はクールダウンと計5ラップの走行だった。先導付き走行とはいえ、きっちり付いていくとどんどんペースを上げてくれ、ほぼ全開走行ができた。

最近では珍しくなくなったが、そもそも、AMGがサーキットで試乗会をやること自体、クルマが画期的進化を遂げた証だ。ちょっとコトバは悪いが、以前のAMGは直線番長でハンドリングはひたすらアンダーステアだったのだから。このアルガルベのサーキットは、アップダウンに富み、ブラインドコーナーも多い。

むしろ先導車がいて良かった。ストレートでは、375kW(510ps)/700Nmのパワーが炸裂する。実はとっても速いのだが、フラットトルクとドロドロしたサウンドのせいで、回転の上昇とともにトルクやサウンドが盛り上がる!!という臨場感がない。スピード感も感じにくいからか、アドレナリンの分泌も少なかった。

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パドルシフトが装備されるが、アップもダウンも勝手にやってくれる。そしてそのタイミングもまたドライバーの意に沿ったもので、クルマ任せが一番楽で速い。シフトスピードも申し分ない。ブレーキは、ペダルタッチこそソフトだが、踏めばしっかり効くし、コントロール性にも優れている。コーナーでステアリングを切り込むと、ごく素直に向きが変わる。そして立ち上がりでアクセルを踏み込むと、凄まじい勢いで路面を蹴飛ばす。この時、舵角が残ったままアクセルを先行させてしまうと、次の瞬間、リヤがスライドする。が、さらに次の瞬間、ESPが介入し、何事もなかったかのように加速していく。ターンインのときは電子制御の介入がまったく見られなかったが、立ち上がりではかなり早いタイミングで存在感を表す。

S63Sにのみ装備されるドライブモードの「RACE」を選択していてもそうだ。もう少しドライバー任せでもいいのでは、と走行中には思ったが、冷静になるとこれも狙ったセッティングなのだろうと思えた。何しろ、700Nmもの巨大なトルク、普通のドライバーが簡単にコントロールできるものではない。そして、ほとんどのドライバーは、その多くの時間を一般道に費やすのだから。スポーティにも走れるが、あくまでサルーンカー。これがちょうど良い落としどころなのかもしれない。

■サブブランドのAMG
ところですでにお気づきの方もいるだろうが、従来のC63 AMGから、AMG C63と車名の呼び方が変わった。というのもメルセデスは「AMG」と「マイバッハ」という2 つのサブブランドを作り、それぞれのブランドを明確にしていくという狙いがあるのだ。

さらに車種でいうと、今回AMGスポーツモデルの「C450 AMG 4MATIC」も投入された。従来からあるAMGラインが、スタンダードモデルにAMGの外装が施されているのに対し、AMGスポーツモデルは、シャシー、エンジンともにAMGが手がけ、その開発、テスト等もAMGモデルのエンジニアやスタッフが行なっている。

今回試乗したAMG C63の日本導入は年央の予定。価格は、現行モデルより若干の値上がり、とのことだ。

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