2022年10月に国内発表された「メルセデスAMG SL43」に試乗する機会があったのでお伝えしよう。
メルセデスAMG SLは名前のとおりAMG専用モデルで、AMGが開発した全く新しいアーキテクチャーを採用したモデルだ。モデルラインアップは63、55、43とあるが、国内導入は43のみ。パワートレインは4気筒2.0Lに電動ターボとBSG(ベルトドライブ・スタータージェネレータ)を搭載。63にだけ使用していたAMGスピードシフトMCTの9速トランスミッションを組み合わせている。
新しいアーキテクチャーはアルミ製スペースフレームにスチール、マグネシウム、CFRPを使用した複合素材によって軽量かつ高い剛性を実現している。先代比18%のねじり剛性があり、AMG GTロードスター比で50%、前後方向は40%増というスペックなのだ。
実際にステアリングを握ってコーナリングしてみると、ボディ剛性の確かさが感じられ、サスペンションやタイヤの接地感、ピッチングやロール、ヨーモーメントなどがダイレクトに伝わってくる感激がある。
SLはメルセデスのラグジュアリーモデルに位置付けられているが、こうしたレーシーなフィーリングからラグジュアリーだと感じさせるものまで七変化するモデルという言い方もできるだろう。
搭載するパワートレインは、4気筒としては初めてone man one engineで製造したM139型を搭載している。もちろんエンジンカバーには製作者のサインがしっかりと刻まれている。
出力は381ps(280kW)/480Nmで、注目は世界初の電動ターボを搭載していることだ。排気タービンと吸気コンプレッサーに間の同軸上に厚さ4センチのモーターをレイアウト。排気流が少ない時にはモーターでコンプレッサーを回す仕組みで、全領域でブースト圧が得られ、ターボラグのない加速が可能なのだ。このモーターは48Vで最大1分間に17万回転という途方もないスピードを持っている。
電動ターボはアクセルを少し踏み込んだだけで、そのレスポンスの良さを体感する。BEVに乗り慣れてくるとICEのレスポンスの限界を感じ、踏み込んだ瞬間の反応はEVに軍配が上がっていたが、この電動ターボにより、BEVに引けを取らないレスポンスだと驚く。
エンジンを高回転までまわさず、ゆったりとワインディングを流して走行しているときでも、少し多めにアクセルを踏み込んだ瞬時に加速をする。まさにBEVと同等の反応の良さなのだ。
またBSGも第2世代のものを採用しており、アイドルストップからの復帰も静かに再始動する。さらに巡航している時にセーリングモードに切り替わるのだが、そこからの復帰もフルハイブリッドと変わらないほど自然にエンジンが再始動する。もっともこのレーシーさでセーリングすること自体がラグジュアリーの性格を持つ側面でもあるが。
組み合わされるAMGスピードシフトMCTは、トルコンを使わない多板クラッチ式で、ダイレクト感のあるフィール。DCTとの差は感じられないレベルで、かつATレベルで滑らかなつながりを実現している。そしてハイスピードからの急減速では自動でブリッピングし飛びギアシフトまで行なっていた。
サスペンションは可変ダンピングシステムのアルミダンパーで、軽量コイルスプリングを組み合わせている。無段階制御バルブによって減衰調整され、また伸び側と縮み側をそれぞれ独立して制御できる電子制御式を採用している。つまりプレッシャーリリーフバルブをダンパー1本につき2つのバルブを使用し、伸び側、縮み側を独立して減衰力の変更をしているというわけだ。
このサスペンションのおかげもあり、ゆったり走ることからレーシングカーとして走行するまでのあらゆる走行シーン、走行スピード、路面状況に対してレーシーでもあり、ラグジュアリーでもある顔を持つモデルになっている。
それらを切り分けるのがドライブモードだ。「Slipperyスリッパリー」「コンフォート」「スポーツ」「スポーツ+」「レース」「インディヴィデュアル個別設定」の6つのモードがある。ちなみにレースモードはエンジンをレッドゾーンまで回せるため、容易にシフトアップしないため公道では使えないだろう。
そしてAMGダイナミックセレクトがステアリング下部に装備される。これらのドライブモードに割り当てる制御を変更でき、ベーシック、アドバンス、プロ、マスターがあり、各ドライブモードと組み合わせることができる。
このAMGダイナミックセレクトは全輪の制御、ステアリング制御、ESP制御に介入し、ヨーモーメントのコントロールやロール制御を行ない、アジリティ強化という狙いで制御システムが介入する仕組みだ。
そしてこのAMG SL 43のさらなる魅力としてオープンスタイルがあるだろう。先代のヴァリオルーフからソフトトップへと変更され、ルーフが21kg軽量化されている。言うまでもなく低重心化によるドライビングダイナミクスへも貢献している。
その性能とは別に、ソフトルーフでありながら格納時にカバーが不要になり、周囲のデザインに影響なくフラットな格納ができることも秀逸である。オープンカーとしての美しさがさらに磨かれ、セレブレティを引き立ててくれるだろう。ちなみに60km/hまでであれば開閉が可能で15秒を要する。
こうした見た目の美しさと走る性能の高さ、SLらしさなどが磨かれ、とりわけ注目したのは制御技術の使い方の進化だ。
つまり、一般的にドライブモードは各部の動きを変えるものだが、車両の動きに関してはドライバーが技術を使って、それらの動きを利用するという考え方だ。このAMGダイナミックモードはドライバーの走り方に対して最適な制御を介入させるというもので、テクニックがある程度未熟であっても、その時の最大パフォーマンスは引き出せるという車両側がドライバーの意思を反映するシステムになっていることだ。
パーツの性能を電子制御で変更したあと、その性能をドライバーが使いこなすものだったが、パーツごとの性能を統合する制御技術によって、クルマの性能を最大限に引き出すという考え方はF-1をやっていることやBEVの高級車を作っているメーカーだからこその発想と思えてならない。