メルセデス・ベンツ 300万台のディーゼル車を自主改修 デイーゼルエンジンはどうなる!?

雑誌に載らない話vol193
2017年7月18日、ダイムラー社は「メルセデス・ベンツ」ブランドのディーゼル車300万台余りをヨーロッパでサービスキャンペーン(自主的な無料の改修)を行なうと発表した。これはメルセデス・ベンツのディーゼルエンジンに排ガス制御の疑惑がかけられ、ドイツの検察当局が動いていることにいち早く対応した措置だ。

■300万台をサービスキャンペーン

まず最初にサービスキャンペーンの意味は、自動車メーカーが法的に決められているリコール制度にまでは至らないレベルの不具合を、自主的に改修するための手段とされ、海外でも日本でもリコール、サービスキャンペーンという2種類の不具合対策法が決められている。

メルセデス・ベンツ 2.2Lディーゼルターボエンジン OM651型
4気筒2.2LのOM651型ディーゼル

ダイムラー社の最高取締役会会長CEOのディエター・ツェッチェ氏は、「当社のディーゼルエンジンに関する議論で不安が生まれており、技術に対する顧客の信頼を高めるため、この措置を決めた」と語った。そして「ディーゼルエンジンは依然としてCO2排出量が少ないというメリットを持ち、当社の多様なパワートレーン展開の中の一角として位置づけています」と付け加えた。

ダイムラー社は2017年3月にコンパクトモデルに搭載のディーゼルエンジン1機種とVクラスを対象とするNOx排出削減に関するサービスキャンペーンを実施し、約25万台がサービスキャンペーンの対象としていた。がしかし、7月18日にドイツの関係官庁の要請に従い2011年以降に販売されたユーロ5、ユーロ6仕様のディーゼルエンジンの大半の300万台がサービスキャンペーンの対象にされたのだ。

このサービスキャンペーンにより約2億2000万ユーロ(約285億円)の費用を見込むとしているので、この金額から見てサービスキャンペーンの内容はエンジン制御ECUの上書き更新と思われる。

そしてダイムラー社は、このサービスキャンペーンと同時に、最新世代の4気筒ディーゼル「OM654」の市場投入を早めるという。

今回、ダイムラー社がサービスキャンペーンを発表した背景には、モード計測では規制をクリアしているものの、実走行(RWE・リアルワールド・エミッション)でのNOx排出量が多いという点にドイツの連邦自動車庁(KBA:日本の国交省に相当)、ドイツ検察庁が疑惑を持ち、特に検察庁が捜査を開始しているからだ。

このサービスキャンペーンという行動が評価されれば、今後の罰金などの制裁は逃れることができる可能性があり、KBAの指示に従ったとも噂されている。

一方で、メルセデス・ベンツ日本は7月20日に、「日本に導入されているディーゼルモデルは欧州仕様とはソフトあるいはハード、またはその両方が異なり、欧州と日本では規制に差異があるため現時点では対象外」と発表した。

しかし、7月21日には一転して「ダイムラー社から、今後、日本でも欧州と同様の対応を行なっていくとの連絡を受けた」と発表。具体的なサービスキャンペーンの実施方などについては今後明らかにするとしている。

メルセデス・ベンツ日本は、ディーゼル車を14車種展開しており2016年の販売総数6万7000台のうち約2割がディーゼル・モデルだ。

■メルセデス・ベンツの疑惑の背景

今回の事件の背景は2つある。ひとつは以前から注目されている新ヨーロッパ・ドライビングサイクル(NEDC)、つまりヨーロッパでの計測モードでは排ガス基準はクリアされていても、実際の走行環境(RWE:リアルワールド・エミッション)では大幅なNOxを排出しているのではないという議論があり、各種機関で繰り返し実験が行なわれている。

メルセデス・ベンツ ブルーテック ロゴマーク エンブレム

メルセデス・ベンツ 給油口 経由 尿素 ディーゼル アドブルー

メルセデス・ベンツは、ディーゼル用の排ガスのNOx対策としてSCR(尿素還元触媒)方式のブルーテックを採用しているが、その制御プログラムが問題となるわけだ。実走行で、急加速をしたり高負荷の運転ではそれだけ大量の尿素(アドブルー)を噴射する必要があるが、その噴射量が少ないのだと・・・

メルセデス・ベンツ ブルーテック アドブルー SCR(尿素還元触媒)システム図

もうひとつは、もっと次元の異なる話だ。ドイツの有力週刊誌のシュピーゲル誌がフォルクスワーゲン、アウディ、ポルシェ、BMW、ダイムラーという自動車5社が、サプライヤーからの購買価格や購買量など部品調達について、1990年代からカルテル(日本流にいえば談合)を行っていたと報じた。

メルセデス・ベンツ ブルーテック アドブルー SCR(尿素還元触媒)作動イメージ

カルテルの対象は部品メーカーの選定や購入価格のほか、ディーゼル車の排気ガス対策のための尿素水タンクの容量についても協議し、結果的に価格を抑えるために容量の小さいタンクを採用することで各社が合意し、これが排ガス不正の一因になったとしている。

5社は1990年代から60分野以上のワーキンググループを作り、調整を繰り返していたとみられ、シュピーゲル誌はドイツ史上最大のカルテル事件に発展する可能性があると伝えている。

そして2016年にドイツのカルテル庁が談合容疑でフォルクスワーゲンを調査したが、その2週間後にフォルクスワーゲンがカルテルであることを自己申告し、続いてダイムラーも同様の申告をカルテル庁に提出したといわれている。

この一連の問題の中で、ディーゼル車の排ガスに関わるのは、尿素水タンク容量が小さい場合、尿素水の噴射を抑制しなければユーザーは頻繁な補給が必要になる。これを解決するために、実走行では尿素水の噴射量を抑え、結果的にNOx量が多くなっているというのが疑惑の根源というわけだ。

ということはメルセデス・ベンツ、BMW、ポルシェ、アウディ、フォルクスワーゲンのディーゼルエンジンのすべてに嫌疑がかかることを意味し、もはやディーゼルエンジンの存続に関わる大問題になる可能性があり、今後の続報を待ちたい。

シュピーゲル 公式サイト
メルセデス・ベンツ アーカイブ
メルセデス・ベンツ日本 公式サイト

ページのトップに戻る