メルセデスAMGのF1用ハイブリッド・システム 10周年[2/2]

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[1/2]では、KERSやERSの仕組みやレギュレーションの変更などに触れてきた。今回は最新のメルセデスF1 EQ+までに繋がる道程と開発のポイントについてお伝えしよう。

メルセデスAMGのF1用ハイブリッド・システム 10周年

メルセデスAMGのハイブリッド技術開発

F1のハイブリッド時代、つまり最初のKERSを搭載する以前のエネルギー回収システムが開発&テストされたのは2007年までさかのぼる。当時のバッテリーパック重量は107kgで、充放電の効率は39%程度。水冷式パワーエレクトロニクスは、かなりのスペースを占める分厚い箱に格納されていた。

2年後に、KERSが最初にレースで使用されたとき、システムの重量は大幅に減少した。バッテリーパックの重量は25.3kgで、2年前のバッテリーパックよりも75%以上も軽量化されていたのだ。同時に、効率は70%に向上し、パワーエレクトロニクスは、水冷ではなく空冷になり、小さなカーボン製ボックスにパッケージされた。

新パワーユニットの搭載で省燃費、高出力を狙う

次の大きな一歩は、2014年の新パワーユニットの導入だった。この規制で、高性能のハイブリッドシステムを搭載した1.6L・V6ターボエンジンが導入された。MGU-Kを使用してブレーキから運動エネルギーを回収することに加え、MGU-Hを介してエンジンの熱エネルギーを回収することが許可されたからだ。また、バッテリーは規制の下限重量である20kgまで軽量化は到達した。バッテリーセルの電力密度は12倍に増加し、現在(2019年)ではリチウムイオン・バッテリーは96%の効率を達成している。

もう一つの課題であるエンジン出力は、燃料流量とエンジンの効率という2つの要因によって決定されることになった。F1では、燃料流量は1時間あたり最大100kgに制限されているので、チームが実行できる唯一の手段はエンジン効率の向上だ。より燃料消費の少ない効率的なエンジンで、より多くの出力を得る必要がある。そのため、市販乗用車をはるかに上回る希薄燃焼技術が採用されており、超高圧燃料噴射と希薄燃焼でより高出力を引き出すことがポイントになってくる。

もう1つの側面は軽量化だ。規制によりチームは、レースで最大100kgの燃料を使用できるが、燃料の重量はF1車両の規制上、最低重量としてカウントされないため、より燃費のいいエンジンを開発すれば燃料搭載量が少なくなり、より軽い車両でレースができることになる。これは、ラップタイムの短縮に直結することはいうまでもないが、重量が5kg低減できれば、ラップタイムは0.2秒速くなるのだ。

メルセデス・ベンツAMGのF1 W10 EQ Power+の実力とレース適合

ハイブリッド時代のF1の絶対王者ともいえるメルセデスの「F1 W10 EQ Power+」パワーユニットは、現時点で最も高性能といわれ、2018年シーズン用の「F1 M08 EQ Power+」でも、開発段階では既に50%を超える熱効率を達成していた。燃料の燃焼速度を向上させ、希薄燃焼を行ない、同時に機械摩擦損失の低減を究極のレベルにまで到達している。

このパワーユニットは、イギリスのブリックスワースにある「メルセデスAMGハイパフォーマンス・パワートレインズ」が開発の拠点になっている。

ポイントはシミュレーション

ERS、つまりハイブリッドとエンジンの統合制御によりシステムを最大限に機能させるための重要なポイントは、レースの週末ごとのセッティングだ。エネルギーを最適な方法で回収する、あるいは出力するエネルギー制御プログラムを作り上げるのだ。週末のレースの前に、理想的なセットアップとシナリオを計算するコンピュータでシミュレーションが実行される。

あるサーキットのプロファイルを作成するために、「Driver in Loop(DiL)」シミュレーターでテストが行なわれる。そのサーキットに最適なエネルギーを回収量と、駆動力として最適な出力を実現するため、ERSシステムの制御はDiLシミュレーターで煮詰められている。

2014年から2018年まで連続チャンピオンを保持するメルセデス・ベンツAMGの歴代パワーユニット
2014年から2018年まで連続チャンピオンを保持するメルセデス・ベンツAMGの歴代パワーユニット

DiLで作成されたサーキット用のプロファイルは、シャシーダイナモで検証される。そこで、実際のハードウェア、つまりエンジンとERSシステムが稼働し、ハードウェアの出力が検証できる。このシャシーダイナモでの検証作業が完了すると、次はサーキットの現場でテスト走行が繰り返される。

各サーキットのERSシステムのチューニングは、1ラップに要するフルスロットル時間を計算することが基本になるが、それは車両のブレーキ性能とコーナリング性能に依存する。つまりコーナリング性能やブレーキ性能が良ければそれだけフルスロットルの時間が長くなるのだ。限られた時間でのこうしたテスト走行の繰り返しにより、MGU-Kの稼働に必要な時間、バッテリーからエネルギーを取り出すタイミングや時間が決定される。もちろんターボ直結のMGU-Hが発電する時間とバッテリーに送られる電気エネルギー量の決定も必要になる。

レースウイークの金曜日のテスト走行で制御プログラムの学習、検証が行なわれ、一晩をかけてプログラムの作成が行なわれる、土曜日に予選が行なわれ、そこでバッテリーの電力が完全に使い果たされる。そして決勝レース中のバッテリーは一定レベルの充電状態が維持される。これはバッテリーを満タンにして電力を消費する電気自動車とは異なり、ERSのシステムが最適に稼働し、回生エネルギーを短時間だけ貯蔵し、最適なタイミングで常に出力することを繰り返すためだ。

F1ハイブリッド技術と電動乗用車技術の関係

今まで使用しているKERS、ERS、MGU-H、MGU-Kという略語は、F1技術で多用される頭字語でF1の世界ではこうした頭文字が大好きだ。当然ながらこれらの用語はF1の世界以外では使用されない。

ただし、これらの頭字語の後ろに隠れているテクノロジーは市販乗用車にとっても非常に重要なのだ。市販乗用車の世界では、KERSやMGU-Kなどのシステムは、回生ブレーキ・システムとして知られている。ブレーキをかけると自動車は運動エネルギーの一部を回収し、それを使用してバッテリーを充電する。バッテリーに蓄えられた電力はその後、自動車を再び加速する時に駆動アシストとして使用できる。

一方、MGU-Hの技術は、最近では電動ブーストターボコンプレッサー、eブースターとして採用されている。

市販乗用車の世界とF1で共通するもうひとつの分野は、高電圧システムの導入だ。電気駆動システムでは、エネルギー損失は熱の発生として消失してしまうので、これは乗用車では望ましくない。電気エネルギーの損失を減らすには電流(アンペア)を低下させる必要があるが、電力を同じに保ちながら電流(アンペア)を減らすには、電圧を上げる必要がある。

F1では、ERSのバッテリーは1000V近くになっているが、現代の電気自動車の通常は、最高400Vのシステムとなっている。しかし電圧は次第に高められ、現在のF1で使用されている電圧に近くなると予想されている。

F1と市販乗用車の開発の方向性はよく似ているが、1つの違いがある。F1では、これらのテクノロジーをマシンの速度をより高めるために使用するが、市販乗用車の世界では、同じエネルギー量でより航続距離を伸ばすことが最重視されていることだ。

メルセデスAMG F1パワーユニット概要
メルセデスAMG F1パワーユニット概要
メルセデスAMG F1パワーユニットのERSシステム諸元
メルセデスAMG F1パワーユニットのERSシステム諸元
メルセデスAMG F1パワーユニットのV6ターボエンジン諸元
メルセデスAMG F1パワーユニットのV6ターボエンジン諸元

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