マニアック評価vol169
2013年1月16日、新型Aクラスは7年ぶりにフルモデルチェンジを行い、国内販売を始めた。新型AクラスはBクラスと共通のプラットフォームを使用し、従来のAクラスとは異なるセグメントに位置することになる。名前以外すべてが変わったというその新型Aクラスに試乗するチャンスがあり、早速レポートをお送りしよう。
プレミアムコンパクトのセグメントでは、アウディA3やBMW1シリーズと競合するモデルであり、メルセデス・ベンツとしてはこれまで、この土俵で戦うモデルがなかったが、新型Aクラスによって直接対決するモデルとなる。
そのため、導入モデルには戦略的価格が設定されA180ブルーエフィシェンシーは284万円からとなっている。競合A3の最廉価モデルが308万円、BMW116iも同じく308万円となっている。しかし装備面での違いがあり、Aクラスではオプションを+37万円で推奨しているため、Bクラスの時と同じように戦術的な面を持った価格設定と言える。
ただし、装着されるタイヤサイズではアウディ、BMWともに205/55R16であるのに対して、Aクラスは225/45R17で見た目の違いは大きいく、インチアップを図ればAクラスのオプション装着モデルより、かなり高くなるわけで、悩ましいところだろう。ちなみに、フォルクスワーゲン・ゴルフではコンフォートラインが279万円で16インチ、ハイラインが17インチで329万円というプライスになっている。
新型Aクラスには1.6Lターボ+7速DCTというパワーユニットを搭載するモデルが国内導入された。欧州ではこのユニットのほかに可変バルブタイミング&リフト機構を持つカムトロニックと呼ばれる新タイプのガソリンエンジンや2.2L+ターボのディーゼルエンジンなどもラインアップされている。
カムトロニックは現在マニュアルミッションとの組み合わせのみの設定なので、国内導入は見送られ、一方ディーゼルは今のところユーロ5対応のため、ポスト新長期規制には対応していないために導入できない。また、まもなく認証が取れ次第上級のA250シュポルトが導入される。A250シュポルトは2.0Lターボ(270M20型)で210ps/350Nmというパフォーマンスを持つモデルで、価格も420万円に決まっている。
↑↑ メルセデス ・ベンツA250シュポルト ↑↑
試乗したモデルはA180ブルーエフィシェンシーとA180ブルーエフィシェンシースポーツ。搭載しているエンジンは1.6Lターボ(M270型)で直噴4気筒ガソリンエンジン。出力は両モデルとも122ps/200Nmという仕様。トランスミッションは7速DCTである。
さて、AクラスのAは「aggressive」のAと説明。2012年のジュネーブショーでワールドプレミアした時は「attack」のAと説明している。いずれにせよ、上品、穏やか、上質といった醸し出す雰囲気を持ちながら、前面には行動的で若々しく、これまでのメルセデス・ベンツとは一味違った登場の仕方をしている。それもプレミアムCセグメント、スポーツコンパクト市場での新しいベンチマークとなるモデルであることを強く意識した結果だろう。
エクステリアはSLS AMGをデザインしたマーク・フェザーストーン氏が手掛け、ワイド&ローのフォルムで、先代より全長で40cm長く、全高で14cm低くなっている。全長4290mm×全幅1780mm×全高1435mmとなっている。
ライバルとなるアウディA3とは全長がまったく同じ、全幅でややAクラスが大きく、BMW1シリーズとは全長で45mm短い。またCセグメントでは絶対的なベンチマークとされるフォルクスワーゲン・ゴルフとは全長で80mm大きく幅では10mm狭いという、いずれも似たようなサイズ感だ。
エクステリアデザインでは、フロントマスクを獰猛で艶かしい野生動物を思い起こされるデザインとフェザーストーン氏は言う。そして何よりもブランドアイコンとなるスリーポインテッドスターがグリルセンターに配され、存在感を高めている。メルセデス・ベンツであることをひと目で分からせるアイコンであり、ルームミラーに写る姿ですら、そのブランドを相手に認識させるに十分なアピールとなっている。
バンパー左右の大きな開口部やまゆげのようなLEDを使ったポジショニングライトとウインカーも特長的(180にはオプション)だ。また、ボディサイドの2本のキャラクターラインも印象的で、躍動感あるデザインをしている。また、Cd値もコンパクトクラスではトップレベルの0.27で、高いエアロダイナミクス性能を持っている。
インテリアデザインでは、ヘッドレスト一体型のシートが前後に配され目を惹く。レザーやメタルの使い方はさすがメルセデスであり、インテリアの上質感はクラストップだろう。後席は2:1の分割可倒式シートが全モデルに標準とし、最大積載容量341Lから1157Lの多彩なシートアレンジを実現している。
さて、搭載するエンジンM270型はメルセデスが開発した新規のエンジンで、オールアルミの第3世代となる高精度マルチ噴射のピエゾインジェクターを備える直噴エンジンである。また、幅広い汎用性を持ち、今後、メルセデス・ベンツの他のラインアップにも拡散され、横置き、縦置きに対応し、マニュアルミッション、トルコンAT、DCTに対応、生産コスト削減に繋がるエンジンでもある。
出力は122ps/200Nmで1250rpmから4000rpmまで幅広いトルクバンドを持っている。0-100km/h加速はDCTで9.1秒、JC08モード燃費は15.9km/Lとなっている。また、ECOスタートストップ機構を標準装備し、従来モデル比で34%の燃費向上を果たしている。
国内導入されるモデルはすべて7速DCTでパドルシフト付きになっている。変速比幅が7.99と広く、これまでAクラスに搭載していたCVTより9%燃費がよい。構造的には3軸構造で、デュアルクラッチを持ったDCTである。
エンジンをスタートさせ、アクセルをゆっくり踏み込むと、少し反応の鈍さを感じる。アクセルの早開きをするモデルがあるなか、逆のパターンとなるAクラスは、ECOモード制御が影響していると思われる。
ドライブモードとしてはM(マニュアル)、S(スポーツ)、ECOの3段階の切り替えがあり、どのモードを選択してもアクセルを少し開けたときのレスポンスはもう少しあってもいいと感じた。もっとも制御領域なので、マーケットでの反応を見てアップデートという方法もあるのが現実だ。エンジントルクは低速から盛り上がるのだが、このアクセルのフィーリングによってトルク感は少ない。
もちろん、Sはシフトのピックアップタイミングが高回転側へと変化し、Mと合わせてスポーツドライブを楽しめるアグレッシブな設定となっている。ECOモードはスロットルの開度が調整され燃費によい設定になるが、アクセルを開けるスピードを早め、アクセル開度を大きくとれば、絞っているパワーは開放され十分な加速は得られる。
DCTのフィールはメルセデスの発展型ATの7G-トロニックに似たフィールで、DCTを強烈に印象付けるようなセッティングではない。BクラスでもDCTを設定しているが、こちらは一般的なATと同じようなフィールに制御されていたので、どうも、DCTであることを積極的にアピールするようにはしていないのかも知れない。
とはいえ、新型AクラスのDCTはスポーツモードやマニュアルモードを選択するとブリッピングを行い、マニュアルのヒール&トゥのようにダウンシフトし、楽しませるコツは抑えている。また、エコモード、Sモードでパドルシフトを操作したとき、12秒以上非アクティブな状態になると、自動でDモードに戻る設定になっている。
乗り心地の点では今回、18インチを試乗したがやや硬い印象。メルセデスブランドだけにもうすこし、入力の穏やかなものをイメージしていたが意外だった。しかし、17インチに試乗できていないので、「硬い」というインプレッションは大雑把な話でもある。装着されるタイヤはランフラットタイヤで、これもブランドによって乗り心地に違いがあるという「都市伝説」もあり、評価の難しいところだ。
ピニオンアシスト式の電動パワーステアリングは軽い。ドイツ車は比較的重めに設定されている印象だが、Aクラスでは軽い印象だった。さらに、直進状態での座りもそれほど強くなく、他のメルセデスとは味付けが異なる印象だ。個人的には直進の座りの良さよりも軽めの操舵感が好みなので、Aクラスの操舵フィールは好ましかった。
もちろん、アウトバーンの国、長距離や超高速での安定性、ブレーキ性能はメルセデスクオリティを持っていることは言うまでもない。
安全面では、レーダー型衝突警告システム「CPA」を全車標準装備。30km/h以上で前走車との距離が近すぎる場合に警告灯が点灯し、2.6秒以内に衝突する可能性がある場合には警告灯と警告音で注意を促し、ブレーキ踏力が不足の場合にはアダプティブブレーキアシストにより、必要な制動力をアシストする。
またオプションとして、先行車との車間距離を維持し、先行車が停止した場合は減速して停止する渋滞追従機能を備えた「ディストロニックプラス」、ドアミラーの死角をレーダーによってモニターし危険性を警告する「ブラインドスポットアシスト」、急ハンドル、急ブレーキの操作をした場合、事故に備えて安全装備の効果を最大限に高める「PRE SAFE」から構成される「セーフティパッケージ」を全モデルに設定してる。
さらに、A180スポーツ、A250シュポルトには標準装備されるアクティブパーキングアシストも設定している。縦列駐車時に最適な駐車スペースを自動で検出し、自動ステアリング機能でシフトとブレーキ/アクセル操作だけで駐車できる。
新型Aクラスは名前以外すべてが新しいニューカマーだが、プロダクトの持つ意味はセグメントでのトップを走り、新たなベンチマークとなることを目指す満を持したモデルだ。ユーザー目線では、メルセデスブランドを誰もが手にできるスタイリッシュでかっこいいクルマが出てきたと喜ばしい。そしてメルセデス・ベンツ社の狙いをそんたくすれば、ユーザーの若返りが大命題であり、そのためには魅力的なクルマが必要で、その使命を背負っているのがAクラスということになるのだろう。さらに、環境性能を考えた必須のパワーユニットを新しく誕生させたことも大きな意義を持ち、セグメントを超えたモデルにも搭載していくその第一歩を踏み出したということだろう。
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