従来とはガラリとイメージをかえて登場した新型Aクラス。従来モデルは、1997年にデビューし、将来的にEVや燃料電池車のユニットを搭載するスペース、および独自の衝突安全性を確保するクラッシャブルゾーンとして床を二重にするというユニークなサンドイッチ構造を採用。それはそれで自動車の未来を見越したメルセデス・ベンツらしい思想だったのだが、15年の時を経て情勢が少々変わってきたのだという。
EVや燃料電池車の時代はまだ訪れていないが、技術革新は着実に進んでおり、あの頃ほど大きなスペースを必要としていない。だからわざわざ全面的に床を二重にして、背の高いコンパクトカーを造る必然もないわけだ。
さらに、メルセデス・ベンツはユーザーが高齢化しており、若返りを図りたいという課題もある。現在の自動車市場での保有台数は、世界で年間約7000万台で、2020年には1億台程度になると言われているが、そのなかでもコンパクトカーは大きな伸びが期待されている。メルセデス・ベンツが成長するためには、若い新規ユーザーを獲得するのが最も効率的であり、コンパクトカー戦略はとても重要なのだ。
新型Aクラスのプラットフォームはすでに発売されているBクラス、今後デビューするまったく新しいスタイリッシュなコンパクトFFセダン、ワゴンを含めて4車種展開するために新開発されたものだが、フロアは一般的な構造でありながら、EVや燃料電池を製作するときには後席下部分だけを二重にできるよう設計されているという。実はそこがもっとも大きな革新であり、メルセデス・ベンツの未来的な思想と、洗練されたスタイルを両立する要になっているそうだ。
背高でスペースユーティリティに優れた従来のA/Bクラスに価値を感じている人も少なからずいるが、そのニーズには新型Bクラスが応えることとし、新型Aクラスは全高が低くスポーティなハッチバックという新しい役割を担うことになった。そのコンセプトに至る背景には、市場調査によって得られた声があるという。欧州に北米、アジアなどあらゆる地域で調査したところ、最近の若者の趣味・嗜好は画一的になってきているそうだ。40代、50代では自動車成熟国と新興国では明確な違いがあり、様々な個性が求められたが、インターネットの発達などによって情報の地域差が少なくなった若者世代は違う。
クルマに求められているキーワードは「スポーティ」。
若者はスポーツカーに興味がなくなってきているという現象は世界中で起きているものの、それはレーシングカーライクな機能までは求めていないということで、エモーショナルなデザインや爽快な走りはクールだと捉えられている。また、iPhoneなどスマフォが手放せない存在になっているのは確かで、それらとの親和性にも力を入れていくという。
さらに、上の世代も若者が心惹かれるようなクルマには関心を示すようで、Aクラスをスポーティで若々しいイメージにすれば、あらゆる地域で幅広い層から支持されるという目論見があるのだ。
そんな想いで生み出されたAクラスは、スポーティかつ存在感抜群のデザインが目をひく。ロー&ワイドなフォルムと、CLSにも似た鋭いフロントフェイスや面構成。Cセグメントには強豪がひしめいているが、インパクトの強さでは随一だろう。
ハードウエアはほとんどが新規だ。ガソリン・エンジンは新たな横置き用の直列4気筒・直噴ターボを1.6L、1.8L、2.0L と揃え、DCTも自製で新開発。ただ、それゆえにBクラスを海外で試乗したときは少々粗さがあったものだが、Aクラスでは急速に熟成させてきた感がある。
日本仕様のBクラスは、全車ランフラットタイヤを採用するとともに、全高を立体駐車場OKにするためスポーツサスペンションを組み合わせていることもあって、低速域での乗り心地がやや硬めだが、Aクラスでは随分と改善されてゴツゴツ感が抑えられていた。バネ下の重さを感じるようなこともなく、全般的に乗り味はスッキリとしている。
それでいて速度があがるほど路面に吸い付いて行くようで、スポーティな感覚が強い。高速道路の速度域になれば、しなやかさとフラット感が両立されたメルセデスらしい乗り味になっていく。
今回は飛行場を使用し、ジムカーナコースを設定して全開走行も楽しめたのだが、ハンドリングもかなり高いレベルにあることが確認できた。コーナーへ進入する際、強くフロントに荷重がかかっていても、逆にあまりかかっていない状況でも舵の効きがいい。たっぷりと容量があるゆえスイートスポットが広いといった感覚で、良く曲がってくれるのだ。
この時はA250スポーツというグレードで、質の高いショックアブソーバーとコンチネンタル・スポーツコンタクト5Pの組み合わせだったこともあって特に好印象だった。スタンダードなグレードだと、そこまで強力なグリップ感は獲られないが、程よく軽快だ。
全開走行ではパワートレーンも絶品だった。低回転域からの力強さと高回転域での伸び感、DCTのダイレクト感など文句なし。実はBクラスに初試乗したときは、期待したほどトルク感がないし、DCTもスムーズだけどダイレクト感はないなと感じていたのだが、今回で見方は変わった。
Aクラスも、普通に乗っているとそれほどガツンと力強く感じないのだが、これは高級ブランドたるメルセデス・ベンツだからこそ、スムーズで上品な制御をしているのかもしれない。直噴ターボ+DCTの牽引役といえるVW車は、どちらかというと低回転・大トルクやダイレクト感を強調していて、それに慣れているからA/Bクラスは大人しいと思ってしまっていたのだが、両者には考え方の違いがあるということだろう。普段乗りではスムーズに、いざアクセルを踏みこめば隠していた爪を剥き出しにしてスポーティに豹変するというのがAクラスの持ち味なのだ。
エクステリアに負けず劣らず、インテリアもクールだ。立体的な造形にエアコン・アウトレットなどに見られるキャッチーなディテールは、デザインに敏感な今の若者にもしっくりとくるだろう。さらに、メルセデス・ベンツらしい高い質感を備えているので目の肥えたユーザーでも満足するはずだ。
Aクラスには、従来のメルセデス・ベンツが持っていたどこか保守的なイメージは微塵もない。若々しさを求める新規ユーザーを獲得することになりそうだ。