マニアック評価vol77
2000年代に入ってから急速に増殖したプレミアムSUV。環境意識の高まりや景気後退により社会的にはダウンサイジング志向が加速しているにもかかわらず、未だ勢いが衰えていないということは、一過性のブームではなく本格的にポスト・セダンといえるポテンシャルを持っているということだろう。今回3世代目へとフルモデルチェンジしたMクラスは、初代が1997年発売とライバル達に対して古く、先見の明があるモデルだった。ジュラシックパークに登場した姿はクロカン4WDにはないスタイリッシュな出で立ちで、都会派のプレミアムカー・ユーザーの心を鷲づかみにしたのだった。
当初はクロカン4WDと同じくラダーフレーム構造だったため、セダン並の快適性を持つには至らなかったが、2世代目はモノコック構造へ変更してオンロード性能を格段に高めてきた。今回のフルモデルチェンジでは、初代から2世代目の時のような劇的な変化はなく、ボディサイズもホイールベースもほぼ同寸。存在感の高さと洗練された雰囲気を両立したデザインに仕立てるとともに、大きく重たいSUVにとって課題である環境性能を高めてきたことがトピックスとなる。
新世代のガソリン、ディーゼルの3.5L・V6型をラインアップ
用意されるのはガソリン・エンジンのML350 4MATICブルーエフィシェンシーとディーゼルのML350ブルーテック4MATICの2種類。ガソリン・エンジンは従来と同じくV6型3.5Lだが、スプレーガイデッド燃焼と200barのピエゾインジェクター、マルチスパークイグニッション、リーンバーンを採用するとともに、圧縮比を10.7から12まで高め、最高出力を272PSから306PSへ、最大トルクを350Nmから370Nmへと向上させるほど、パフォーマンスは向上している。さらに、燃費は欧州モードで25%改善となる8.5/100km(約11.8km/L)と燃費性能も特筆できる。
このエンジンはすでにCLSやSLKなどで採用されているが、そのハイテクぶり、効率の高さでは世界トップの一角を占めていると言える。余談だが、SLK200の1.8L直噴ターボブルーエフィシェンシーは10・15モード燃費が11.8km/Lなのに対して、このV6型を搭載するSLK350ブルーエフィシェンシーは13.2km/Lなのだ(アイドリングストップ機能の有無の違いはあるにせよ)。
ディーゼル・エンジンも広範な改良が施されたようで、従来の211ps、540Nmから258ps、620Nmへとパフォーマンスアップしながら欧州モード燃費は6.8L/100km(約14.7km/L)と24%改善。従来と同じくユーロ6対応なので日本のポスト新長期規制にも対応しやすく、引き続き日本でラインアップされる予定だ。
エンジンの違いによる走りの差はこれまでと同様に明確。ディーゼルは圧倒的な低回転域のトルク、レスポンスの良さで、大柄なMクラスをグイグイと加速させる。ペースの速い欧州の高速道路でも、その気になれば追い越し車線で後から迫られるようなことはほとんどない。また、快適性もガソリン車以上だ。最近のディーゼルは音や振動が抑えられていて快適、というのは常識化しているが、Mクラスは郡を抜いている。
そもそもメルセデスのディーゼルは世界一静かだが、セダン系よりもエンジンが遠くにあることでより有利といえる。アイドリングにはディーゼル特有のカラカラ音があるが、それも外に出てボンネット付近に耳を近づけなければ感知できないほどだし、アイドリングストップ機能が付いているので基本的に気になる場面はないだろう。
ガソリン・エンジンも単体で乗っている限りはパフォーマンスも快適性も十分ではあるし、高回転まで引っ張ったときの気持ち良さは持っている。このガソリン・エンジンは本来はコスト的にも有利なはずだが、日本では戦略的にディーゼルの価格は抑えられているので、補助金が続くとすればもしかしてディーゼルが主流になるという逆転もありうる。
メルセデスらしい穏やかで快適な乗り味
シャシーに関しては、最近のCクラスやEクラスがスポーティ方向に振っているので、Mクラスも変化したかと興味をもってチェックしてみたが、従来通りに快適志向だった。これは好みが分かれるところかもしれないが、個人的には穏やかな乗り心地にホッとした。底知れぬ操縦安定性を誇りながらも、ユッタリとした気分で高速巡航をこなすのがもっともメルセデスらしい価値だと思っているのだが、Mクラスにはそれが残っている。
従来モデルでは快適性と引き替えに、ハンドリングのキレなどはやや鈍かったし、超高速域ではわずかにユラリとすることもあったが、新型は大きく進化している。試乗車がアダプティブ・ダンピング・システム付きAIRマティックサスペンション、ON&OFFROADパッケージを装着していたということもあるが、穏やかな乗り心地でありながら超高速域でのビシッとした感触や軽快なハンドリングが実現されているのだ。
興味深いのは前後のスタビライザーを可変式としていること。言うまでもなくロール剛性をコントロールしているのだが、ストロークの大きなSUVではエアサスなどよりも効果を発揮させやすいという。たしかにコーナーではロールが少なく軽快。まるでボディサイズが小さくなったかと思うぐらいに扱いやすかった。スポーティを強調しているわけではないが、その気になればライバルに負けない走りを披露するというその奥ゆかしさがまたメルセデスらしくていい。
今回は雪道でも試乗した。Mクラスの4MATICは前後駆動配分が50:50の固定式で、同時に乗り比べたEクラスの30:70〜70:30の可変式のほうが走りを楽しめるということだったが、コース状況によるものか、Mクラスのほうが安心して突き進んで行けるしトラクションのかかりも強力だった。より重く、ホイールベースも長いMクラスは轍に足元をすくわれることが少なく、荒れた雪面へタイヤを押しつける能力も高いからだろう。
雪上試乗はちょっとしたアトラクション的に捉えていたが、Mクラスのオールラウンダーぶりにはやはり魅力があるのを再認識。操縦安定性と快適性の両立も本当にセダンと肩を並べるところまできている。あとは燃費が気になるところだが、ディーゼルならば同等パフォーマンスのガソリンのセダンにヒケをとらない。こんなモデルが増えてしまっては、プレミアムSUVが本気でセダンの座を奪ってしまいかねないと心配になるぐらいだ。