メルセデス・ベンツCLSがモデルチェンジを受け、2代目として登場した。
CLSはEクラス(W211)のプラットフォームを採用した4ドア・ハードトップボディを備え、2005年に登場した。セグメント的にはSクラスとオーバーラップするが、Sクラスセダンはフォーマルリムジンの性格が強いため、CLSはエグゼクティブでよりパーソナルなキャラクターが与えられている。したがって、メルセデスではクーペに分類されている。
パッケージはフルサイズ4座席で、前後席ともラグジュアリーなスペースを提供する。6年ぶりのモデルチェンジとなった今回のW218も、基本的にEクラス(W212/207)のプラットフォームを採用している。
新型CLSは、ヨーロッパでも2011年に発売されたばかりで、国内導入は北米よりも先行しており早期に行われている。ヨーロッパでのラインアップは、250CDI/4気筒ディーゼル、350CDI/V6型ディーゼルターボであり、ガソリンエンジンでは350/V6型、63AMG/V8型ツインターボの計4車種があり、日本にはディーゼルを除き、ガソリンの350、63AMGの2車種が投入された。従来ラインアップされていた550/V8型は日欧ともに今秋頃に追加されるようだ。また、メルセデス・ベンツ社は2011年末までに、CLSシューティングブレークも追加するとしている。
↑コンセプトモデルのCLSシューティングブレーク
コンセプトとデザイン
4ドアクーペの基本フォルムは、初代と変わらずコンセプトも保持されている。コンセプトでは、メルセデスの価値感、ドライビングプレジャー、卓越した安全性、ファーストクラスの快適性を兼ね備えた、プレミアム・エグゼクティブな4ドアクーペである。
デザイン面では、新しいメルセデスデザインのトレンドセッターとされ、よりスポーティでダイナミックさを強調し、ボディパネルの面造形の抑揚を強めている。近い将来にはSLKなどにも受け継がれるテイストと考えられる。
基本フォルムはクーペボディと整合させるためにロングノーズ、ロングテールで、ガラス面積を狭めていることは旧型と共通している。このオーバーハングが長いフォルムは退廃的でクラシックなテイストが濃いと言えよう。一方、フロントマスクは新しさや、ダイナミック感を強調したメルセデス・クーペの表情が与えられ、ラジエーターグリルはボンネット一体型ではなく、セパレート式を採用している。ヘッドライトユニットは、世界初のオールLEDで全71個のLEDを採用し、点灯時にはかつてないほど鋭い目付きになる。
サイドボディのエッジ、彫りの深みは従来型より格段にシャープになり、キャラクターラインをくっきり浮き出させている。リヤフェンダーのキックアップするラインは、往年のポントン・メルセデスを思い出させるクラシック感がある。
インテリアはハンドメイドによる豪華で精緻な質感により、豪奢なリビングを表現している。ダッシュボードはドア面までまわり込んだラップラウンド・デザインで、インテリアのパーツはサテンや磨かれた金属を配している。またインテリアカラーは5色。本革のカラーも3種類から選択できるシステムとし、オーナーの個人的好みに仕上げることができるわけだ。
ボディ剛性
CLSのボディは、軽量化と強度のアップが最も重視されている。アッパーボディではアルミ製ボンネット、フロントフェンダー、トランクリッド、リヤパーセルの他に、メルセデスでは初のフレームレス・アルミドアが採用された。骨格は引き抜きアルミ材で、このアルミドアの採用により24kgの軽量化となっているという。またフロントマスク、バンパーサポートはアルミパネルと強化プラスチックのハイブリッド構造だ。さらにクラッシュボックスとして機能するフロンドサイドフレームもアルミ製の一体構造としている。
このように、CLSのボディはアルミ材をかつてないほど多用しており、この技術は他車種にも今後拡大採用されるだろう。そしてボディパネルの72%は高張力鋼板で、超高張力鋼板は8%にものぼり、ルーフサイドフレーム、Bピラーなどに使用されている。これも軽量化と剛性向上を狙っており、鋼板の厚さも全体的に低減されている。したがって、ボディ全体では、前後の衝撃吸収性能が従来モデルより大幅に向上されているという。
振動騒音対策としてサスペンション・クロスメンバーとボディの結合部は特に強化され、振動を吸収することと剛性の向上が両立されている。またキャビンのフロアパネルも、レーザー溶接された差厚鋼板を採用して剛性を高めている。センタートンネルはバックボーンとして機能するため、0.7mm、1.1mm、1.55mm、2mmという4種類のパネルを一体化して高い剛性を与えているのも注目される。これらの変更により、ボディ剛性は従来型に対して、曲げで28%、ねじりで6%アップしている。また、エアロダイナミクスはCd=0.26と、トップレベルである。
シャシー&サスペンション
開発の狙いは、長距離ドライブでの圧倒的な乗り心地、快適性とスポーティなドライビング性能の両立である。ベースになっているのは定評のあるEクラスのシャシーであるが、新たにこの最上級セグメント初の電動アシスト&可変ギヤ式=電動メカ式のパワーステアリングを採用した点に注目したい。
パワーステアリングのモーターが作動するのは、操舵時のみとなり燃費向上に貢献している。ステアリングギヤとパワーステアリングユニットは、フロントアクスル位置にある、軽量で強固なスチール製メンバーに固定され、ギヤの設定もアジリティ(俊敏性)を重視したダイレクト感の高いシステムとしている。このステアフィーリングのチューニングには多くの労力が費やされており、今後は他車種にも拡大採用されていくはずだ。
また、この新パワーステアリングは車速感応制御であることはもちろん、スタート&ストップ、パークアシスタンスにも適合するほか、左右の路面が異なるμ(ミュー)でブレーキをかけた時のハンドルの“取られ”を修正する、自動アシスト機能も持っている。なお63AMGは14:1のクイックステアリングを装備する。
フロントサスペンションは、Eクラスと同じ3リンク式ストラットだ。2本のロアリンクとステアリングロッドによる3リンクにより仮想キングピン軸を生成し、ホイールセンター軸と仮想キングピン軸のオフセット量を大幅に低減することで、ダイレクトかつフィードバックに優れた操舵フィーリングを得ている。つまり、ストラットがより垂直に近く、そしてタイヤの真上にくるように、理論上のキングピン軸を形成しているということだ。
新型CLSは各リンクの取り付け位置を改良し、Eクラスよりロールセンターを90mm高め、ロール剛性アップと旋回外輪のネガティブキャンバー化を行っている。リヤサスペンションもEクラスと同じアルミ材を多用した、軽量なマルチリンク式だ。従来型CLSのリヤサスペンションと比較し、乗り心地、運動性能のいずれもアップグレードされている。標準仕様のダンパーは、セレクティブ(可変)ダンピングシステムを装備し、 エアサスペンション装備モデルは、クルマの運転情報をパラメーターとする4輪独立の電子制御連続可変ダンパーを装備する。またこのエアサスペンションは、車高制御も行うことができるようになっている。
一方、63AMGはエアライドコントロール・サスペンションが標準で、スポーツサスペンションも選択できる。このエアライドコントロール・サスペンションは、フロントがコイルスプリング、リヤがエアサス式で、11個のセンサーを持つ電子制御可変ダンパーとの組み合わせになる。リヤのエアサスペンションは積載荷重に自動対応するためでもある。またAMGは、よりワイドトレッドで、専用ハブキャリアを採用しており、4輪がネガティブキャンバーになっている。
ブレーキはアダプティブシステムを採用。停止時には平坦路でも坂道でも自動的にブレーキホールドを行っている。また、雨天時には自動的にはパッドを押し付けることで、ディスクを乾燥させるようにブレーキ圧が作動するスタンバイ制御機能も持っている。
CLSのブレーキキャリパーは前後ともアルミ製で、従来モデルよりディスク径はフロントが360mm、リヤが320mmに拡大され、アルミ製導風板も装備している。63AMGのディスク径は前後360mmのドリルドディスクとなっている。AMGはキャリパーもフロントが対向6ピストン、リヤが4ピストンと強力で、またオプションでカーボンセラミックディスクも選択できるようになっている。
アクティブセーフティでは、アクティブLEDヘッドライト、レーンキープアシスト、アテンションアシストなどを新装備した。LEDヘッドライトは郊外モード、高速モード、フォグモード、コーナリングライト、アダプティブハイビームアシストなどに自動対応している。アテンションアシストはドライバーのふらつき運転を検知して警報するシステムである。
エンジン&トランスミッション
新型CLSに搭載されるエンジンは、350に新登場のブルーエフィシェンシーV6型3.5L(M276型)、63AMGはV8型5.5Lツインターボの2種類。2011年秋には550グレードにブルーエフィシェンシーV8型4.7L(M278型)も追加される予定だ。いずれのエンジンも、新開発のスタート&ストップシステムを備えている。そのため強化されたスターターとサブバッテリーを搭載している。このM276型3.5LのV6型エンジンは、新開発のブルーエフィシェンシーシリーズの第2弾にあたり、このエンジンは、以下のような特徴を持っている。
・60度V6 バランスシャフトなし
・軽負荷時のリーンバーン燃焼
・マルチスパークイグニッション(複数回点火)
・共鳴過給インテークマニホールド
・ピエゾインジェクターによる直噴
・最適化された冷却水制御(ウォームアップ時間短縮)
・最適化された油圧制御(可変油圧制御)
・出力、トルクの向上
である。直噴エンジンのキーポイントにもなるピエゾインジェクター(4気筒版のインジェクターはソレノイド式)は、第3世代の5段噴射できるスプレーガイデッドタイプで、最高噴射圧は200気圧と高気圧噴射している。また、エンジンの燃焼は希薄燃焼、通常燃焼が負荷によって選ばれるが、希薄燃焼時でも負荷に応じて補助噴射を行い、成層燃焼を生じさせることで安定的に燃焼時間を早めているのが特徴だ。
さらに、マルチスパーク・システムも燃焼中に4回もの点火を行い、希薄燃焼時でも安定した燃焼を促進する役割を果たしている。なお、希薄燃焼は150km/hという高速域まで行われるというから驚きだ。
この新開発のM276型V6エンジンは、運動部品の軽量化などによりフリクションは従来型(M272型)より28%低減されている。吸排気カムシャフトは、クランクシャフトと吸気側カム、吸気カムと排気カムをドライブする2ステージチェーンドライブで、吸排気側ともに最大40度の可変バルブタイミング機構を装備している。
このエンジンは306ps、370Nmを発生し、0→100km/hは6.8秒、燃費は6.8L/100km、CO2排出量は159g/kmと優秀なレベルを実現している。特に燃費は従来エンジンに比べ30%低減している。(10・15モード燃費は未計測)今後はこのブルーエフィシェンシーV6型がメルセデスのメインエンジンとして拡大採用されるはずである。
63AMGのエンジンは、5.5LのV8型直噴ツインターボで、最高出力525ps(パフォーマンスパッケージ仕様は557ps)、最大トルクは700Nm(パフォーマンスパッケージ仕様は800Nm)で、ダウンサイズしながら従来の6.2Lを上まわる出力を発揮し、0→100kmは4.4秒である。
その一方で燃費は9.9L/100km、CO2排出量は231g/kmと従来より32%向上させている。燃費向上のため、燃料タンクは80Lか59Lを選択できるようになっているのはおもしろい。
このV8型ターボのインジェクターもピエゾ式を採用。圧縮比は10.0と高いものの最高過給圧は1気圧(パフォーマンスパッケージは1.3気圧)に達する。なおAMGエンジンは、ライナーレス構造のシリコン含有シリンダーで、204kg(ドライ)ときわめて軽量に仕上げられており、組立は1基ずつハンドメイドされる点は従来どおりだ。
トランスミッションは、V6型ブルーエフィシェンシーは7Gトロニックプラスを搭載する。このATはトルコン、油圧制御回路が改良され、変速レスポンス向上や振動騒音の抑制を実現している。スタート&ストップの採用に合わせ電動油圧ポンプも装備している。そして、ECOモードスイッチを押すと、エンジン回転を抑えるように変速制御が働くようになっており、省燃費に貢献する。また、新ATFの採用によりATFのライフは5万kmから12.5万kmにまで伸ばされた。
63AMGはトルコンの代わりに、電子制御油圧多板クラッチを採用したMCT-7を搭載する。小径の多板クラッチを採用しているためスリップロスを抑え、慣性が小さいためハイレスポンスの変速が可能。構造的には7Gトロニックを使用しながら、変速の高速化でDCTに匹敵するスポーツトランスミッションにしているわけだ。なお、スイッチによりECO+スタート&ストップ、ECO、Sports、Sportsプラス、Mという5モードを選択することができる。
このMCT-7は、ハウジングをマグネシウム製とするなど軽量化も追求し、重量は80kgときわめて軽量に仕上げられているAMG専用トランスミッションである。
文:編集部 松本晴比古
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