マニアック評価vol22
メルセデス・ベンツ日本はメルセデス・ベンツの最高級ラグジュアリークーペの頂点を極める「CLクラス」の外観デザインを変更するとともに、環境適合性を大幅に高めた、ダウンサイズコンセプトの新開発エンジンを搭載して2010年11月8日から発売を開始した。
↑CL63AMG
Sクラスと共通のプラットフォームをもつCLクラスの現行モデルは、2006年11月に発売開始され、累計台数2000台を販売し、このセグメントのトップセラーモデルでもある。しかしながら、世界的に環境性能が強く求められる昨今、CLクラスにも大幅な改良を行ってきた。そしてCL550モデルでは「ブルーエフィシェンシー」を名乗るモデルとしている。
ダウンサイジングエンジン搭載
その中心となるエンジンでは、ダウンサイズ化が図られCL550では従来の5.5LV型8気筒NAから4.7LV型8気筒直噴ツインターボに変更している。第3世代となる燃料噴射システムにも変更がおこなわれ、90度バンクのV型8気筒は直噴化された。その燃料噴射システムはボッシュ製のピエゾインジェクターを採用し180barという高圧のスプレーガイデッド式になっている。狙いはホモジニアス(均質燃焼)のストイキ燃焼(理想空燃比燃焼)であり、完全燃焼を追及したエンジンである。
そして1mm/secの短時間に最大4回スパークするマルチスパーク・イグニッションを採用し、ひとつの工程でシリンダー内ではマルチスパーク&マルチ噴射が行われ、完全燃焼を目指している。その結果、従来モデルと比較して大幅なパワーアップと燃費向上を果たすことに成功している。
最高出力320Kw(430PS)、700Nmと圧倒的な性能を得、出力で12%、トルクで32%ものアップとなっている。さらに燃費では約30%もの向上がみられ、これによりCO2の排出量も従来モデルの288g/kmから224g/kmにまで削減できている。
↑右)7Gトロニック
ミッションには制御の変更が行われるにとどまり、従来の7速AT「7G-トロニック」のキャリーオーバーとなっている。
他にもエンジンに負荷をかけないテクノロジーが投入されている。そのひとつに、省エネタイプのオルタネーターがある。バッテリー容量の充電率80%を目安にオルタネーターの作動を休止し、エンジンへの負荷を低減している。さらに減速時に熱として捨てられていたエネルギーを、電力として回収するエネルギー回収システムを新たに搭載している。燃費向上に役立っているわけだ。
燃料制御では、運転状況に応じて供給量を調整する燃料ポンプを採用し、速度やアクセル開度に合わせて制御している。当然の制御なのだが、これまでよりも、より精密な制御になったということだろう。そしてCO2の排出量や低燃費への貢献をしているということだ。
パワーステアリングにも改良が加えられ、やはり運転状況をモニタリングし、長時間の直線走行時など、ステアリングポンプのアシストが不要なときには、その作動を制御してエンジンにかかる負担を低減している。
↑新型CL550はLEDランプが加わりより、精悍な顔に
AMGもダウンサイジング
ハイパフォーマンスモデルのCL63AMGだが、従来の6.2LV型8気筒NAから、やはりダウンサイジングされ5.5LV型8気筒直噴ツインターボとなってる。エンジンはCL550と同様にスプレーガイデッドのピエゾインジェクターにマルチスパーク・イグニッションが採用され、最高出力は400Kw(544PS)、最大トルク800Nmと従来比+14Kw(+19PS)、+100Nmと向上している。
また、CL63AMGでは、ミッションが変更され、あらたにスタートストップ機能(アイドルストップ)が追加されている。そして、トルクコンバーターを廃し湿式多板クラッチを使った新型のトランスミッション「AMGスピードシフトMCT」を搭載している。ギヤ数は従来の7Gトロニックと同じだが、この電子制御式の7速トランスミッションはトルクコンバーターによるロスをすることなく、ダイレクトにシフトされることから従来モデルに比べ、50%以上の燃費改善がみられるという。CO2排出量は244g/kmでセグメント内でもすぐれた数値を実現している。この新型トランスミッションの登場は、トルクコンバーターのないATが日産フーガに搭載されたように、トランスミッションにも革新の波が押し寄せてきていることを物語っている。
オーナー心をくすぐるものはこの環境性能ばかりでなく、CL63AMG専用のチューニングがあることもあげられる。AMGパフォーマンスパッケージはエクステリアやインテリアに加え、エンジン性能をさらに高めることが可能だ。最高出力420Kw(571PS)、最大トルク900Nmで、出力で+20Kw(+27PS)、トルクで+100Nmにパワーアップできるオプションを用意するあたりがさすがだ。極めつけはAMGドライバーズパッケージで、速度リミッターの設定変更がオプション設定されているのだ。
なお、6.0LV型12気筒の最高峰モデルCL65AMGについてもエンジン制御の見直しなど改良を加え、出力が450Kw(612PS)から463Kw(629PS)にアップしながらユーロ5の排気ガス規制をクリアするモデルを実現している。
トータルでの見直しが随所に
これらのエンジン+ミッションへの改良のほかに、燃費に大きく影響する空気抵抗へも言及している。ボディパネルのすき間を徹底的に小さくし、ドアミラーなど各部のデザインをエアロデザインとし、プレミアム・ラグジュアリークーペとして世界最高峰となるCd値0.26を達成している。
さらに、タイヤにも転がり抵抗を減らしたモデルを採用している。新開発されたタイヤはベルト部に高張力スチールの層をもうけ、剛性をたもちつつトレッド面などのコンパウンドを最適化したという。転がり抵抗で最大17%低減させることに成功しているというから、燃費にも確実に反映されてくるだろう。
もちろん、メルセデス・ベンツはアクティブセーフティにも積極的であり、さまざまな安全装置も採用されている。事故を未然に防ぐことに役立つ、アダプティブ・ハイビームアシストは対向車や先行車を眩惑することなく夜間の視界を確保し、また、ドライバーの眠気を感知し注意を促すアテンションアシストなどが標準装備される。
他にも赤外線カメラを用いたナイトビューアシストには、歩行者検知機能を新たに加えられ、ナイトビューアシストプラスとなる。ドライバーの不注意による車線逸脱にはアクティブブレーンキーピングアシストが働き、ステアリングに振動を加え、ドライバーに注意を促すとともに、逸脱した側と反対側のタイヤにブレーキをかけ車両が自然と元の車線に戻るサポート機能が働く。
ディストロニック・プラスは、従来のディストロニックと同様77GHzのミリ波レーダーを使用して、前方の車両を監視し先行車との車間距離を一定に保つシステムである。このディストロニックに新たな機能として、先行車が停止した場合や渋滞路においては時速0kmまで減速する。つまり停止するのだが、先行車が急停止した場合や障害物などが接近した場合は、警告音とランプでドライバーに急ブレーキを促すとともに、最大限の制動力を発揮きるようにブレーキアシスト・プラスが働くことになる。
↑ディストロニック・プラスの作動イメージ
ステアリングギヤ比が変化するダイレクトステアリングも新たに加わった。操舵角が小さいときはステアリングギヤ比が大きくなり、車庫入れやワインディング走行などステアリングを大きく操作する場合はギヤ比が小さくなる。さらに高速でのコーナリング時などにおいては、それぞれの車輪のブレーキを制御するトルクベクトリングブレーキが働き、安定したコーナリングをもたらす。
高速走行において横風を感知すると、各輪の荷重配分を制御するABC(アクティブ・ボディコントロール)が働き、高速直進性を保持する機能も加わった。
プレミアムグレードには最新の装備が常に投入され、環境への配慮も当然行われる。もちろん、高コストになるが、プレミアムであるほど、そのコストは吸収しやすい。今回のCLクラスマイナーチェンジにおいて、ベストな選択ととしてV8型エンジンは微妙なダウンサイジング+過給器をチョイスしたということだろう。
CL550 ブルーエフィシェンシー 4.7L V8型直噴ツインターボ 1630万円(税込)
CL600 5.5L V12型ツインターボ 2056万円(税込)
CL63AMG 5.5L V8型直噴ツインターボ 2275万円(税込)
CL65AMG 6.0L V12型ツインターボ 3020万円(税込)
文:編集部 高橋明