マニアック評価vol239
こういうのを「運転がしやすい」というのだろう。というのが今回試乗した新型フィエスタのファーストインプレッションだった。低速での車庫入れ、交差点を曲がるときハンドルが軽く、アクセルを少し踏めば少し動く。速度が上がればハンドルはしっかりと安定し、直進性の強さを感じる。当たり前のことが正確にできているというのを感じさせるモデルなのだ。
◆ポジショニング
新型フィエスタは、フォードジャパンとしては久しぶりの小型コンパクトクラスの再導入ということになる。フィエスタブランドは1976年にデビューし、全世界では累計1500万台以上販売実績のある量産人気モデルである。今回のモデルは6代目で、ビッグマイナーチェンジを期に国内導入されることになった。
フィエスタは欧州のBセグメントに属し、2012年の1年間で72万3130台という台数を販売し、セグメントトップのヒットを記録している。すべてのセグメントの中でも車名別販売台数は6位で、どこの国へ行っても見かけるモデルだ。ちなみに、車名別販売台数のトップは同じくフォードのフォーカスだった。
Bセグメントといえばフォルクスワーゲンのポロ、プジョー208、シトロエンC3、DS3、ルノールーテシアが本来のライバルとなるが、プジョーやシトロエン、ルノーのモデルはプレミアムクラスに一歩近づいたレベルまで、レベルアップされているため、直接のライバルとは言いにくいだろう。
フィエスタは今回の6代目からグローバルモデルとして開発され、フォードの「One Ford」戦略のもと、国内でも販売が再開されることになった。この6代目は2008年に誕生しているが、このビッグマイナーチェンジで、デザインとパワートレーンが一新されている。以前までのフィエスタは欧州専用モデルとして開発販売されていたため、欧州の走りの基本性能は、磨かれ続けていたことが今回の試乗でも感じることができた。
また、今回の6代目も開発の拠点はドイツのケルン。そして生産拠点は全世界で6箇所あり、主に北米向けがメキシコ工場、中南米向けがブラジル、そして新たにインド、中国、タイが加わっている。ちなみに日本に導入されるモデルはドイツ・ケルンで生産されたモデルが輸入されるということだ。
ボディサイズは全長3995mm×全幅1720mm×全高1475mm、ホイールベース2490mmとBセグメントど真ん中のサイズ。用意されるボディカラーは6色で、インテリアはブラックの1色。シートもクロス仕様のみのモノグレード設定となっている。価格は229万円(5%消費税込み)、メタリックカラーは+6万円となっている。販売開始は2014年2月1日からとなっている。
新型フィエスタの特長をまとめると、グローバル・デザイン、エコブースト3気筒1.0Lガソリンエンジン搭載、欧州仕込みのドライビングパフォーマンス、そしてクラストップレベルの安全性と先進技術の搭載、という4つのポイントにまとめることができる。
◆デザイン
そのデザインはフォードのデザイン言語である「キネティック・デザイン」をベースに、これまでフォーカス、クーガと販売され、キネティック・デザイン採用の3モデル目なのだが、フィエスタはさらに進化させたデザインとしている。2011年のフランクフルトショーで「EVOSコンセプト」として発表し、従来の躍動感溢れるデザインに、力強さを加えたデザインとしているのがポイントになる。
Bセグメントでは「かわいい」「おしゃれ」などと形容されるデザインが多いが、「力強さ」をこのセグメントにも投入しているのは珍しい。台形をモチーフにしたフロントグリルは、位置が従来よりも高いのが特徴で、隆起したボンネットもパワードームと呼んでいる。そしてシャープで切れ長なヘッドライトデザインなど、力強さの方向であることが分かる。アウトビヤンキなどで代表される80年代に流行したチビッコギャング的な印象だ。
日本仕様ではフロント、サイド、リヤにボディ同色のボディキットを標準装備とし、大型のルーフスポイラーも同様に標準装備としているあたりでも、スポーティさの強調につながる。さらに、16インチのアルミ195/45-16サイズのタイヤも標準としている。
インテリアも同様にスポーティでキネティックな要素を持っている。センタースタックのデザインが台形をモチーフにダイナミックにデザインされ、質感や先進装備により新しい価値観を追及している。ステアリングはレザー巻きで質感も高い。やや大径にも感じる大きさだが、長距離・高速運転をイメージすると、かえって疲れにくいサイズとも感じる。
シートはファブリックだが、シートポジションが抜群にいい。特に座面の後傾角がバッチリ決まり、ワインディングでも高速ロングドライブでも疲れず、しっかりホールドされるシートはさすが欧州仕込みのシートだと感じた。メーターは、スタンダードに2眼式で、マスト情報はアナログで瞬時に理解でき、プラスの情報はデジタルでメーターセンターに表示される。
オーディオシステムがダッシュボードセンター部位置するが、そこは細かいスイッチが並び、オーナーにならなければ瞬時に使いこなすのが難しい。が、ピアノブラックのパネルが高級感を作り、カーオーディオよりホームオーディオよりの仕上がりで、高品質を訴えている。
◆エコブーストのパワートレーン
搭載するユニットはフォードのドイツにある専用工場で生産されるエコブーストで、3気筒1.0L+ターボガソリンを搭載。100ps/170Nmというスペックだ。フォードエコブーストとはダウンサイジングコンセプトに基づき、自然吸気に対して大幅に排気量をダウンさせてもパフォーマンスと燃費、走りの性能も犠牲にしない目的で開発された、最新のパワーユニットになる。
現在フォードでは1.0Lから3.5Lまでがエコブーストとしてラインアップしており、今回搭載するSFJ型3気筒1.0Lエンジンはラインアップ上、最もコンパクトなエンジンになる。エコブーストの中心的技術はターボ、Ti-VCTという吸排気独立の可変バルブタイミングのシステムを持つもので、1.0Lターボの燃費はJC08モードで17.7km/Lとなっている。実際には高速巡行などでの実燃費はこのモード燃費を上回るものと思われる。
組み合わされるミッションはゲトラグ製の6速DCTで、パワーシフトと呼ばれている。シフトレバー横にはサムシフトというマニュアル操作が可能なスイッチも装備される。
◆ボディ&シャシー
ハイライトは軽量化と高剛性ボディだ。A、Bピラーに熱間成形されたボロンスチール材(超高張力鋼板)を採用するなど、全体でハイテン材が55%を占め、軽量化と高剛性という特徴を持つ。サスペンションはフロントがストラットで、リヤはツイストビームのトレーリングアームというオーソドックスなレイアウトだ。
制御系ではEPAS(電動パワーステアリング)が車速感応のコラムアシストタイプ。操舵フィールには相当な拘りを持ってチューニングしたという説明だった。また、レーザーレーダーを使ったアクティブシティストップを標準装備し、30km/h以下での衝突回避、被害軽減の自動ブレーキを装備している。またアドバンストラックというトラクションコントロール、ABS、ESC(EPS)の統合制御による車両安定装置も標準で装備している。DCTであるためヒルスタートアシストも標準装備される。
また、パッシブセーフティではニーエアバッグを含め7つのエアバッグを装備し、前述の高剛性ボディにより2012年のユーロNCAPで5スターを獲得する安全性も備えている。
◆インプレッション
今回の試乗コースは箱根のワインディング。12月の下旬で路肩には降り積もった雪があり、晴れていても雪解け水で路面コンディションはウエットな状況だ。そこを1.0Lターボ+DCTはどのように走るのだろうか。
走りだしてすぐに感じたのは、ハンドルの操舵感の軽さだ。軽いのにしっかりしている。不安はない。電動アシストだけに軽くすることは容易で、非常に軽いモデルも他社にはある。しかし総じて軽さイコール、手応えがない、不安、安っぽい、という印象になる。がフィエスタの軽さは手応えのある軽さなので、安心した軽さ、という言い方になるのだろうか。
ワインディングを元気に走ると、その正確なハンドリングに高い満足感を得る。車速の上昇に伴い、軽かったハンドルが次第にしっかりしてくる。それも自然と重くなっているので、気づかない。コーナーでGがかかり、踏ん張る状況でしっかりステアリングインフォメーションを拾っていることに気づき、「重さがかわっているんだ」と気づく。速度に応じてしっかりとした手応えと安定感があり、しかも直進のすわりの良さも気に入る。
重さを感じさせるセッティングの裏側にある、セルフアライニングトルクも素晴らしい。つまり、切ったハンドルが自然と戻ろうという動きが、油圧制御の時代と同じように手応えがあるからだ。電動アシストにはこのSATの味付けが難しく、切り足す方向はいいが、切り戻すときに違和感を感じるモデルが多い。そうした中、実にナチュラルだと感じるように味付けされているのだ。
エンジンパワーでは100psというスペックで十分楽しめる。ハンドリングがいいから、パワーを必要としないというのは言いすぎかもしれないが、ライトウエイトスポーツ車の域にある気がした。自分の腕次第でどんどん旋回速度があげられ、コーナーを早く立ち上がれるわけだ。リヤタイヤの追従性、接地性を感じ、強いヨーモーメントを感じられるため、安心してコーナーを攻める走りが楽しめるのだ。
ただし、スポーツカーではなく大衆量販カテゴリーであるため、エンジン音などの演出はされていない。また、DCTもエコ重視のためか、レスポンスとしてはイマイチ。変速の速度はさすがにスパッと切り替わるが、ダウンシフトのときに、エンジン保護のためか、なかなかダウンしない。3500rpmあたりまで回転が下がらないとシフトダウンされないのだ。これは「S」と「D」とあるシフトポジションのどちらでも同じだった。したがって、高い回転域からブレーキを残しつつ、ダウンシフトするといった走り方はできない。あくまでも量産カテゴリーなので、エンジンの耐久性も含め、そのつもりでなければならない。積極的なエンジンブレーキは使いにくいという印象だった。
乗り心地では、スポーティな印象をもった。195/45-16というタイヤサイズのためだろ、市街地ではゴツゴツ感が少しあり、アシの締まりを感じさせる乗り心地だ。フィエスタというモデルの本当は15インチあたりが開発サイズかもしれないが、それでは見た目の問題があり、日本のマーケット用、ユーザー志向を考えて16インチでアルミホイールを標準装備とし、さらに偏平タイヤのセットというフォードジャパンが用意した粋な計らいという理解でいい。
スペースユーティリティではリヤの荷室が使いやすそうだった。荷室のフロアは2重構造になっていて、トレイを上げるとかなり深いスペースが現れる。後席のシートバックは6:4の分割式でワンタッチなので、かなりのカーゴスペースとして利用できるだろう。
もうひとつ気に入った装備が、「イージー・フューエルシステム」と呼ばれている給油口だ。これはインナーキャップがなく、給油口をあけノズルを差し込めば自動でシールドが開き給油できるもの。セルフ給油が増えてきているだけに便利な装備だ。
新型フィエスタは、世界で最も売れたサブコンパクトモデルで、今回は日本仕様にしたモデルを導入し、かつてのフィエスタユーザーやダウンサイジングユーザーを新たに取り込もうというモデルである。欧州で鍛え続けられたクルマとしての基本性能、曲がる、止まる、走る、のレベルが高く、改めてフォードのクルマ造りを体験できたような気がした。
価格:229万円(5%消費税込)