3代目となった新型フォーカスは2013年2月に国内発表され、店頭には4月13日より並ぶことになっているが、それに先立ち公道での試乗会があり参加してきた。
新型フォーカスは2011年のフランクフルトショーでワールドプレミアされ、2012年初頭から欧州で販売が開始されている。フォーカスの生産拠点はドイツ、アメリカ、タイ、ロシア、中国の5ヶ所で、日本にはタイ工場で生産されたフォーカスが輸入される。なおタイ工場(FTM=フォード・タイランド・マニファクチャラーズ)が完成したのが2012年5月で、操業が6月からということもあり、日本導入は約1年遅れとなった。
グローバルモデルのフォーカスは販売から9ヶ月で74万台の販売実績がすでにあり、国内での販売にも期待が持てる。強力なライバルがひしめくCセグメントでもフォードブランド、フォーカス品質がしっかりと保持され、多くのユーザーが魅力を感じるモデルという証拠でもある。そこで、どんな魅力を持っているのかを探ってみよう。
エクステリアデザインは、フォードのデザイン言語であるキネティックデザインで、アクティブで行動的な印象のあるデザインだ。フロントフェイスの印象も強く、前車のルームミラーに写る“顔”もすぐにフォーカスと分かるルックスをしている。サイドビューはCプラットフォームの改良版でホイールベースが延長されているため、長さを感じる。全長4370mm×全幅1810mm×全高1480mmでホイールベースは2650mmである。
インテリアではレザーとファブリックのコンビシートが標準装備され、ステアリングもインパネも力強さのあるデザインだ。特にアナログメーターの針がブルーなのは斬新だ。また、ダッシュボードやドア内張りなどの見た目の上質感はしっかりあり、触っての質感もソフトで好感が持てる。
フォードジャパン・マーケティングの田中氏によれば、「これまでのフォードユーザーの乗り換え需要はもちろんですが、子育てが終わり国産ミニバンからダウンサイジングするお客様、輸入車のメルセデスベンツCクラスやEクラス、BMW3シリーズからのダウンサイジングなど、上級モデルをよく知っているお客様でも満足のいくクルマだと思います」というように、新型フォーカスはプレミアムコンパクトの要素を十分に満たすモデルという印象だった。
さっそく走りだしてみると、その乗り心地の良さや静粛性はまさにプレミアムクラスと呼ぶに相応しい上質なものだった。
搭載するエンジンは2.0Lのデュラテック自然吸気エンジンに6速DCTが組み合わされている。欧州では1.6L+ターボのエコブーストやディーゼルエンジンもラインアップしているが、国内ではこの2.0LのNAだけである。逆にこの2.0LのNAは欧州では販売されず、北米とアジア用のユニットということだ。
確かにディーゼルや1.6Lターボと比較すれば低速域でのトルク感は弱いが、慣れ親しんできたNAエンジンだけに何も抵抗はない。それどころか高回転まで滑らかに回る心地よさの方が印象に残っている。出力は170ps/6600rpm、202Nm/4450rpmでJC08モードでは12.0km/Lというスペックだ。
組み合わされる6速のDCT「Power Shift」はゲトラグ製の乾式タイプ。乾式の多くは発進時の半クラッチを苦手とする印象があるが、このパワーシフトはトルコンATと変わらない滑らかさがある。そのためか、シフトスピードもDCTというよりAT的な変速の仕方をする。また、シフトレバー横に装備されるサムシフトという、親指を上下に動かすことでマニュアル変速できるスイッチを持っているが、アグレッシブに変速をさせながら走るというイメージなら少し慣れを必要とするだろう。
自然吸気のエンジンとこのミッションの組み合わせは、峠を攻めまくる走りをすることももちろん可能だが、適度な速度で気持ちよく滑らかにワインディングを走る。その方が似合う印象だ。
それはシャシー性能からくる印象でもあるだろう。17インチを標準装備する「スポーツ」グレードだが、見事に履きこなし路面の凸凹をソフトにいなし、固い入力はまったく感じない。コーナリングの初期ロールも穏やかに始まりヨーを感じさせコーナーを抜けていく。タイトコーナーやオーバースピードぎみで進入すると、フロントのトルクベクタリング機能によりコーナリングブレーキがかかり、旋回性能が自動的にあがる。アンダーステアになる瞬間を感じることはないのだ。
プレミアムコンパクトの多くは17インチを装着しているが、最も履きこなしているのがこのフォーカスだと感じた。大抵は16インチがベストマッチで17インチはルックスはいいが乗り心地が……というモデルが多い。フォーカスは静粛性も高く、その脚のしなやかさは見事だ。
そして、特筆はステアリングフィールだ。ティア1企業のTRWと共同で新開発されたEPASという電動パワーステアリングの制御が素晴らしく、ステアリングを切る方向の動きは軽く、切り戻しのほうが重い。セルフアライニングトルクが強いので、ドライバーは直進性を感じ、「クルマがまっすぐ走りたがっている」という印象が持てるのだ。したがって直進時の座りもしっかりあり、安心感が高く疲れにくい。
軽い操舵感とはいえ、切り始めの応答性や正確性も優れており、非常に安心感のあるフィーリングだ。切り増しでも前述のようにヨーを強く感じるので、より高い速度での進入に挑戦したい衝動が起こる。スポーツドライブの真髄というのか、ドライバーへ安心感、信頼、そしてチャレンジングな気持ちにさせるツボをよく知っているなぁ、と感心した。
新型フォーカスは心地良い乗り心地と、滑らかなステアフィール、穏やかな変速とナチュラルな加速をするエンジン。そしてクルマの基本レベルが高いモデルというのが総合的な評価だ。飽きのこないエクステリアデザイン、上質なインテリア、長距離、長時間ドライブでも疲れないシートなど、このところ飛び道具をもつ輸入車Cセグメントが多い中、目立てない存在かもしれないが、この基本のツボを押さえ、懐の深さを感じさせるクルマ造りはユーザーの心に突き刺さるに違いない。
フォード・フォーカスsports 293万円(消費税込)