2008年のリーマンショック以来自動車産業は大きな打撃を受け、とりわけアメリカの自動車メーカーはその影響を最も強く受けていたかも知れない。フォードにもその影響はあり、これまでの経営・製造・生産方式を大きく見直しを余儀されたのは言うまでもない。
現在、フォードはONE FORD戦略を打ち出している。ワンフォードとはアラン・ラリー氏CEO就任の2008年からスタートした戦略で、「ONE Plan」「ONE Team 」「One Goal」という3つの要素で構成。世界各地の組織を一体化し、開発と生産の効率を高める、グローバルな商品開発の加速、経営を見直し企業価値を向上させることを目標としたものだ。その柱となるのはQuality、Green、Smart、Safetyで高い商品力と強い競争力を持つクルマを開発することにある。
そのONE FORDを具現化した最初のモデルが3代目となる新型フォーカスだ。国内導入としては6年ぶりの再登場である。フォーカスはエスコートの後継モデルとして1998年に誕生し欧州、北米でカー・オブ・ザ・イヤーを獲得。続く2代目はWRCに参戦し2006年、2007年と連続でメーカータイトルを獲得している。そのため、欧州でのフォーカスへのイメージはスポーティで走りの性能の高いモデルという捉え方をされている。国内でのCセグメントに対するイメージでは、フォルクスワーゲンのゴルフが圧倒的な存在として位置付けられているが、欧州では大衆モデルのゴルフに対し、スポーツモデルのフォーカス。販売台数でもフォーカスが勝るという状況となっている。
3代目フォーカスは2011年のフランクフルトでワールドプレミアされ、翌12年から欧州で販売されている。さて、その新型フォーカスはONE FORD戦略に基づき、ヨーロッパ・フォードが開発のリーダーとなり世界5ヵ所に生産拠点を設け効率よく販売されている。120ヶ国で販売されるフォーカスは2012年の販売開始から9ヶ月間で74万台のセールスを記録し、おそらく1年間で100万台を売る記録を作っていることが予想される。単一車種販売ではもちろん世界一となっているが、日本では2013年2月に発表され、4月13日に販売店の店頭に並ぶ予定だ。
その国内導入モデルはタイにある生産工場から輸入される。2012年5月に生産工場が完成し6月から製造が始まったタイ工場は、フォード・タイランド・マニファクチャラーズ=FTMと呼ばれ、タイ本国、オーストラリア、ニュージーランド、フィリピン、インドネシア、ベトナムなどに輸出される。他の生産拠点では、北米マーケットにはミシガン州で、欧州では旧来からのドイツ・ザイール工場、ロシアのサンクトペテルベルグ工場、そして中国マーケット向けに重慶工場の5ヶ所ある。
さて、フォードジャパンとしての狙いだが、国内のCセグメント市場は大きなマーケットであり、ビジネスチャンスはある。しかし成熟した市場だけに、商品力の弱いものでは受け入れられない。こう判断してモデルラインアップ中で最上級の「フォーカス・スポーツ」を導入したとは、マーケティング部のコメントだ。販売価格は293万円で、価格だけを横比較するとライバルに対してのアドバンテージが少なく見えてしまうが、「装備比較もして欲しい」ということだ。
実際、スポーツというグレードはフル装備でレザーシートや衝突回避のために自動でブレーキをかける「アクティブ・シティ・ストップ」などの安全装備も標準となっている。これらをオプションとするライバルと比較すれば、結果的に購入時での金額は有利になるという。ただし、ナビは装備されていない。
エクステリア&インテリア
新生フォードのプロダクトにはキネティックデザインというキーワードがある。活動的な、運動(学)的にといった意味だが、外観からもアクティブでスポーティな印象のデザインを積極的に取り入れているわけだ。ボディサイズは全長4370mm×全幅1810mm×全高1480mm、ホイールベースは2650mmだ。
フロントマスクは台形デザインのグリルからボンネットへ続くキャラクターラインがあり、ダイナミックで力強さが表現されている。サイドビューでは後方に向かってせりあがるクロームのベルトラインや、全体的に車高の低さを感じるプロポーションでスポーティな印象を受ける。リヤビューも大きく回りこんだテールレンズや、どっしりとしたワイド感あるスタイルになっている。給油口もそのデザインに溶け込むようにレイアウトされセンスの良さをうかがわせる。そして国内導入のスポーツにはフロント、サイド、リヤに大型のスポイラーを装備。17インチアルミも専用装着され、満足度は高い。
インテリアは、航空機のコックピットをオマージュとしたような雰囲気があり、ワクワク感がある。メーターは2眼で左がエンジンスピード、右が速度計。センターに小さく燃料計と水温計が並び分かりやすい。また液晶パネルも2眼の間に配され、ステアリングに備わるスイッチを操作することで、外気温、燃費、走行距離などのデータを見ることができる。また、アナログメーターの針がブルーなのも斬新だ。
ダッシュボードやドアトリムなどにソフトタッチの素材を採用し、見た目も含め上質さ、高級感がある。シートやステアリング、シフトノブにはレザーが使用され、ファブリックとのコンビ、シルバーの加飾もあわせてプレミアム感がある。また後席は6:4の分割シートで荷室も5人乗り状態で316L、フルフラットで1101Lの容量を備えている。
ボディ&サスペンション
新型フォーカスはCプラットフォームの改良タイプで、先ごろデビューしたボルボV40と共通のプラットフォームである。また、多くの部分でV40とは共通のパーツが使われている。ボディは、ボディシェル全体の約55%に高張力鋼板を採用し、また、骨格構造の26%以上に超高張力鋼板が使用されている。その結果、平均して先代フォーカスより約47%ボディ強度が上回り、ねじり剛性でも15%上回っている。
とりわけ、側面衝突におけるボディサイドや横転時のルーフクラッシュ、ボディの変形を最小限に抑えるために、Aピラー、Bピラー、ロッカーパネル、ドアビームに超高張力ボロンスチールを採用している。さらに、衝突エネルギーを最大限吸収し、キャビンの構造保安性を維持するために、フロントクラッシュ構造、インナーロッカー・パネル、フロア・クロスメンバーに超高張力複合鋼板(テイラードブランク)を用いている。こうした高強度の鋼板を使うことで軽量化にも寄与し、クラストップレベルの安全性を確保しながら、省燃費、俊敏性などが向上している。
新型フォーカスの注目すべきポイントの一つがシャシー性能だ。フォードのシャシー性能のレベルは非常に高く、国内ではあまり注目されることは少ないが、欧州での評価は極めて高い。開発にあたり、これまで定評のあるシャシー性能をさらにレベルアップを図るために、大きなテーマとしてアジリティとコンフォート性をポイントにしている。
フロントはストラットをベースに軽量化とトレッド拡大を行い、ダンパーには新設計のバルブシステムを採用しリニアな減衰が働き、正確なボディコントロールと高い乗り心地の良さを両立している。フロントのサブフレームも新設計し剛性を高めている点でもボディ剛性とあわせてしっかり感を作っている。
リヤサスペンションもトレッドを拡大したマルチリンクで、スプリング、ダンパー、ブッシュを綿密にチューニングし、そして取り付け位置、フロントエンド構造なども見直してNVH(ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス)を高い次元でバランスさせている。
ハンドリングに影響する部分として剛性がキーになるが、フロントサスペンションのトップマウントはシートメタルのタワーブレースで左右を連結し、さらにバルクヘッドと一体化させている。このことで局部剛性が50%も高められているという。さらにリヤのトップマウントの剛性を45%あげることで、ボディ変形の軽減や後席におけるノイズ軽減、乗り心地の確保がされている。
これらのサスペンションに加え、アジリティの向上のポイントとなるのが電動パワーステアリングとコーナリングブレーキだ。新開発された電動パワーステアリングはEPASと呼ばれ(エレクトリック・パワー・アシスト・ステアリング)、ティア1企業であるTRWとの共同開発のパーツだ。これは、BMWに採用しているボッシュ/ZF製EPS-apaと同じような構造を持つもので、ラックにベルトを掛けてモーター駆動させるタイプだ。また、ギヤ比も16:1から14.7:1へとクイックにすることでアジリティ性能を上げている。
そしてコーナリング性能を高めるのがコーナリングブレーキで、「トルクベクタリング・コントロール」も標準搭載されている。これは左右のブレーキをコントロールすることで旋回性を高め、アンダーステアを軽減するものだ。エンジントルクは常に監視され、コーナリング時にイン側のスリップを検知したときにドライバーには感じられないレベルのブレーキがイン側だけにかかり、アウト側へはエンジントルクが配分され、トラクションと旋回性が高くなるというものだ。
エンジン
新型フォーカスに搭載されるエンジンは、デュラテックとよばれる2.0L直噴の自然吸気エンジンだ。欧州では1.6Lターボのエコブースト搭載モデルやディーゼルも当然あるが、国内には現状このデュラテックのみのラインアップである。
エンジン本体はシリンダーヘッド、ブロック、オイルパンともにアルミ鋳造で、ピストンもアルミ鋳造となっている。ピストンスカートには低フリクションコーティングが施され、燃費向上を狙っている。最高出力170ps/202Nmで吸排気可変バルブタイミング機構をもち、新設計の減速時燃料遮断機構(ADFSO=Aggressive Deceleration Fuel Shut-Off)とあわせて燃費改善に貢献しながら、レスポンス向上が図られている。JC08モードは12.0km/Lとなっている。
組み合わされるトランスミッションはPower Shiftと呼ばれる6速DCTである。ゲトラグ社との共同開発で、フリクションの少ない乾式のツインクラッチ構造を持っている。また、シフトレバー横に装備されるサム・スイッチによりマニュアルモードドライブが可能で、よりスポーティな走りを楽しむことができる。
安全装備で注目なのは「アクティブ・シティ・ストップ」。これは渋滞時および市街地での低速走行時に前方車輌への追突を回避するため、自動的にブレーキをかけてドライバーを補助する機能。標準装備されているのもポイントだ。アクティブ・シティ・ストップはレーザーセンサーにより前方約6mの範囲を監視し、車輌間の相対速度差が15km/h未満の場合は追突を回避。15〜30km/hでは衝突のダメージを軽減する。
また、車輌安定装置として「アドバンストラック」を搭載している。これはトラクションコントロール、ABS、およびESC(横滑り防止)を統合制御するもので、車輌の挙動をモニターしセンサーが感知したヨーレート、舵角、横Gなどの情報にあわせて、スロットル開度と4輪のブレーキを自動でコントロールし車輌の安定を図る装置だ。
ボディ自体も80回の実車衝突テスト、2500回のコンピューターシミュレーションを含めて1万2000回以上の衝突テストを繰り返し、第三者機関による衝突安全テストであるユーロNCAPで5星を獲得し、乗員、歩行者の安全を高次元で達成している。
フォード・フォーカスsports 293万円(消費税込)
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