【クライスラー】イプシロン試乗記 デザインセンスと性能を高次元でバランスさせた一台 レポート:高橋 明

マニアック評価vol185

スタイリッシュなデザインを持つプレミアムコンパクト

個性的なデザインで注目度も高いクライスラー・イプシロン。一見3ドアハッチバックに見えるボディデザインだが、実は5ドアというかなりアバンギャルドな印象のイプシロンだ。走行フィールや乗り心地などはどうなのか? 試乗してきた。

イプシロンはもともとランチアブランドで販売されていたモデルで、フィアットグループに属するランチアは、グループとクライスラーの提携によりクライスラーブランドとして新たな挑戦をしているモデルだ。さらに言えばイタリアの高級ブランドであるランチア製プレミアムコンパクトカーであり、圧倒的デザイン性を持っている。フィアット・クライスラーによれば、「エレガンス」という言葉を独創、品格、テクノロジー、クオリティとイノベーションを大切にする人達を魅了するものと再定義し、それを実現したモデルとしている。

イプシロンとしては3代目にあたり、2011年のジュネーブショーで公開された。ボディサイズは全長3835mm×全幅1675mm×全高1520mm、ホイールベース2390mmでBセグメントに属するプレミアム・コンパクトとなる。

ファニーフェイスな顔つきもイプシロンの魅力のひとつ

エクステリアを見ても、独創的なフロントマスクをしていて、ひと目でイプシロンと分かる顔立ちをしている。なお、欧州ではグリルにはランチアのエンブレムが付く。特に個性的なのは5ドアでありながら後席のドアを感じさせないデザイン。アルファロメオ147や156が使った手法と同様に、ドアハンドルを上手に隠し、3ドアのコンパクトハッチバックであるかのように見せている。

ドアハンドルをステルス化して5ドアだがスマートな3ドアスタイルに見せる

インテリアもプレミアムブランドを名乗るだけあって、上質感がある。デザイン的にも洗練された造形を持ち、素材、カラーの組み合わせ、ディテールへのこだわりといったものを強く感じるインテリアで、改めてランチア製であることを実感する。

プラットフォームはフィアットミニプラットフォームを採用し、フィアット500やパンダと共通でホイールベースを延長したものを使っている。フロントのサスペンションはストラット、リヤはトーションビームとなっている。またシャシーの安全装備としてESC(横滑り防止)、トラクションコントロール、ヒルスタートアシスト、ブレーキアシストなどをフル装備している。

エンジンは85psの2気筒900CCツインエア・エンジンにターボを装備している。実はこのツインエアエンジンも非常に個性的な音がして、エクステリア、インテリアデザインに負けない独創性の高いエンジンである。メカニズムについては、オートプルーブのこの記事を参照してほしい。フィアット500に搭載し話題となったあのエンジンと同じものが搭載されている。言うまでもなく燃費性能、CO2排出削減を狙いながら高性能を保つコンセプトで開発されているエンジンだ。欧州では1.2Lもあるが、国内ではこのツインエアだけだ。

トランスミッションは5AMTで、ロボタイズドミッションになっている。こちらはシングルクラッチの構造で2ペダルというタイプで日本では馴染みが薄いが、欧州では一般的に普及しているタイプだ。もちろんMTもあるが、国内導入は2ペダルだけである。また、クライスラーブランドで販売されるのは、英国と日本という理由から右ハンドルが導入される。

さて、そんな斬新的な要素をたくさん持つイプシロンだが、前後にシフトレバーを動かして変速させるシーケンシャルのMT操作をしながら乗るのが楽しい。ATトルコンに慣れた身としてはその操作感が懐かしく、クルマを操る感覚がよみがえる。

1速から2速、2速から3速へとシフトアップするときはアクセルペダルを戻し、変速するまで待つ。変速したらアクセルを踏み込むという操作をするが、まさにマニュアルと同じ操作でクラッチペダルを踏む、繋ぐという操作がないだけだ。これはワインディングではもちろん、街中でも楽しめた。

都内の交通量の多い場所でのクラッチ操作が煩わしいというのがMT離れの理由のひとつだろうが、このタイプであればその煩わしさはない。逆に操作感が楽しめ、しなやかにシフトレバーを動かす腕や手から、同乗者へ安心感や信頼感を感じさせる動作に映ると思う。女性ドライバーであれば、上質なインテリアにマッチした優雅さにも見えるかもしれない。

ワインディングでは言うまでもなくマニュアル操作が楽しく、コーナー手前でのブレーキングからダウンシフト、それに伴い回転の上がるエンジン、パーシャルでコーナーをクリアし全開でアクセルを踏む。吸気音を響かせ加速させるという一連の動作が楽しくて仕方ない。

エンジンサウンドはそれなりにするが、楽しめる音なので気になるようなことはない。高速では100km/hで2800rpm付近と最近のダウンサイジングモデルとしては高回転だが、900ccという排気量を考えれば妥当だろう。風切り音も少なくロードノイズも小さい、そしてエンジン音もほどよく聞こえている。

ハンドルは操舵感は軽い。駐車場や狭い路地などでもクルクルと回すことができ、女性でも操作しやすい軽さだ。一方、直進性の高さは欧州車のそれで、ドイツ車ほどではないが座りのあるハンドリングである。コーナーでは微小舵角に対して正確に反応し不安はない。

装着するタイヤは195/45-16で乗り心地もいい。プレミアムコンパクトでもスポーティな方向のモデルではなく、ソフトで穏やかな印象だ。路面のデコボコの入力にもうまいいなし方をしているように感じる。

イプシロンはイタリアのデザイン、価値観、そして運動性能と燃費を高い次元で両立させ、ハイテクでありながらファッショナブルなモデルという位置づけになるだろう。ライフスタイルにもこだわりがあり、個性的で、そしてユニークでありたい。そんな都会生活を送る女性に是非選んで欲しい1台だ。

<クライスラー・イプシロン>

イプシロン ゴールド 235万円(右ハンドル)

イプシロン プラチナ 260万円(右ハンドル)

クライスラー・イプシロン諸元表

クライスラー公式サイト

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