またまた3シリーズにバリエーションが追加された。現在の3シリーズはセダン、ステーションワゴンのツーリング、2ドアクーペ、カブリオレのバリエーションを展開しているが、新たに「グランツーリスモ」が加わった。このボディバリエーションの多さに加え、多様なエンジンの組み合わせはまさにフルチョイス・システムだ。
新たに加わったグランツーリスモは一種の多用途クロスオーバーモデルで、エクステリアはクーペのようなデザインでありながら5ドアボディで、しかもロングホイールベース。セダン、ツーリング、クーペの要素とハッチバックの使い勝手をミックスしたモデルなのだ。ただし全長はセダン/ツーリングが4625mm、グランツーリスモは4825mmで200mm長く、ホイールベースもセダンより110mm長いので、ほとんど5シリーズ並といえる。
実はこれ、中国仕様のセダンLモデルと同じホイールベースなのだ。中国市場ではセダンのリヤ席の足元スペースの広さが必須条件で、BMWに限らず多くのメーカーがロングホイールベース仕様のセダンを中国マーケット向けに用意してる。このロングホイールベースを選んだグランツーリスモは、さらに全高もベースのセダンより81mm高い1510mmで、フロントシートの着座位置も地面からの距離で59mm高い。つまりベースのセダンより少し着座位置はアップライトになっており、その分だけリヤ席の居住性に振り分けられているのだ。
このようなパッケージングを成立させ、なおかつクーペライクなルーフラインとしてまとめるために、フロント・グリルの位置も高められ、デザインの整合性を保っている。だからグランツーリスモのエクステリアは、一見するとベースの3シリーズと比べてアッパーボディのボリューム、存在感が大きく、3シリーズとは異なるクルマのように見える。
また、このようなクーペライクで大型なボディでは空力性能が悪化するため、フロントではフェンダー内の気流を排出するエアブリーザー、リヤエンドには自動作動する格納式エアスポイラーを備え、Cd=0.29を確保しているという。
外観ではやや逆スラントに見えるキドニーグリル、立体的なフロントバンパーのデザイン、クーペルーフにマッチさせたボディサイドのプレスラインが特徴的で、要するにエレガント路線でまとめられ、スポーティさは感じられない。
インテリアは、インスツルメントパネルがこれまでの3シリーズと同じデザインで、エモーショナルな要素がなくビジネスライク。その一方で、リヤシート周りの仕上げはいかにもグランツーリスモという感じで、ゴージャスな雰囲気を狙っているが、さすがに3シリーズをベースにしたクルマだけに、ダッシュボードやドアライニングなどのディテールの作り込みには少し粗さが気になる。
リヤ席の足元スペースは十分広く、脚を組んで投げ出すような姿勢でもゆとりがある。またリヤシートバックの角度も調整できるのも快適装備だといえる。ただ、リヤシートの着座位置はフロントシートよりさらに高いので、さすがにクーペスタイルのルーフとのヘッドクリアランスはけっこうギリギリ。また折り畳み性を重視したためか、シートへの身体のフィットが今ひとつなのは残念だ。
大きなリヤゲートを開けば、広く、しかもツーリング・モデル同等に上質に作り込んだラゲッジスペースが現れる。もちろんリヤシートを畳めば広大なラゲッジスペースになる実用性もあるが、ラゲッジスペースの質感の高さこそ、このグランツーリスモの真髄か。なお電動リヤゲートの開角度は任意に停止できる。
エンジンは2種類。4気筒・2.0L直噴ターボ(184ps/245ps)と直列6気筒の3.0L直噴ターボ(306ps)という2種類、グレードもそれぞれのエンジンごとに、ベースグレード、Sport、Modern、Luxurly、M Sportという5種類が設定されている。
試乗したのは2.8i Luxurlyだった。グランツーリスモの車重は1.7tのため、245psのエンジンでも2000rpm以下では少しクルマが重く感じられる。8速ATとの組み合わせのため、市街地の常用域は2000rpm以下で事足りるが、この範囲では交通の流れに乗った緩かな加速がほとんどのため、グランツーリスモはしずしずと走るという感じだ。この範囲ではステアリングもかなり軽い。このスピード域ではやはりランフラットタイヤの路面に対する当たりが硬めなのは相変わらずだが。
郊外の空いた道路や高速道路に入り少し深めにアクセルを踏み込む機会が増え、エンジンが3000rpmを超えると明確にトルクの盛り上がりが感じられるようになる。ボディの落ち着き、ステアリングのびしっとした締まり感、タイヤ、サスペンションの路面の凹凸のいなし具合など、80km/hを超えるといずれもがBMWらしいスイートスポットに入ってくる感じだ。
高速道路の100km/h巡航ではエンジンは1800rpmを切るくらいなので室内の静粛性も申し分ない。こういうドライブシーンがグランツーリスモにぴったりだと思う。また相変わらず8速ATは滑らかかつ俊敏な変速で心地よい。
5シリーズに迫る大柄なボディのグランツーリスモは、3シリーズのスポーティさを重視した走りのキャラクターが薄まり、その一方でセダンと同じ全長、ホイールベースを守るクラシックスタイルのツーリング(ステーションワゴン)の限界を打ち破る新カテゴリーのモデルだ。リヤのラゲッジスペースがフルサイズのセダンと同等の520Lというボリュームを持ち、さらにリヤシートを倒すと1600Lになるという、圧倒的なスペースユーティリティと、そのラゲッジスペースの質感にこそ、その価値があると感じられた。
ただ惜しまれるのが、レーダーによるアダプティブ・クルーズコントロールやヘッドアップ・ディスプレイ、前車接近警告システム、レーンチェンジウォーニングなどはイノベーションパッケージ・オプション(36万円)とされていることで、このプレミアムクラスでは違和感がある。