アウディ 耐久ラリーカー「RS Q e-tron E2」2022年モデル発表

アウディスポーツは2022年9月1日、2022年型の耐久ラリーカー「RS Q e-tron E2」を発表した。このプロトタイプ・マシンの原型はすでに3月に開催されたアブダビ・デザート・チャレンジで初の総合優勝を達成している。

そしてその後、2022年モロッコラリーと、2023年1月開催の2回目の挑戦となるダカールラリーに向けて、大幅な改良が加えられ「E2」ヘと進化した。ボディは完全に新しくなり、エアロダイナミクス性能が大幅に向上している。さらに低重心化も行なわれ、走行性能は一段と向上している。

また、新しいシステムなどを導入したことにより、電動ドライブトレーンのエネルギー効率がさらに向上。そして車内における操作やホイール交換の際、ドライバーとコドライバーは、これまで以上に作業を容易に行なうことができるようになっている。今回の進化を受けて、RS Q e-tronにはE2というコードが追加された。

アウディスポーツのマネージングディレクター兼アウディ モータースポーツ責任者のロルフ・ミヒェル氏は「私たちは、RS Q e-tronでダカールラリーに初参戦し、アウディにとって初めてステージ勝利を収めるという素晴らしい成果を達成しています。私たちのチームは一丸となって準備を行なっています。いつもの通り、開発の初期段階において、ドライバー、コドライバー、エンジニアは、開発目標について迅速に合意し、その結果を進化したパッケージ RS Q e-tron E2にまとめました」と語っている。

今後は、開発プログラムの第2段階に入り、本番の2023年のダカールラリーに参戦するための準備を加速させるとしている。

RS Q e-tron E2は、先代モデルと共通のボディパーツは一切使用していない。規定の室内寸法に準拠するために、以前はルーフに向かって狭くなっていたコックピットの幅が大きく拡大された。前後のボンネットも完全に新設計となっている。

21モデルと22モデルの比較。側面視では上が22モデル、上面視では左が22モデル

新しいモデルでは、Bピラー左右に装着されていたリヤフードのアンダーフローが廃止され、複合素材の最適化したファブリック層と組み合わせ、改良されたレイアップと呼ばれる構造により、重量を削減することに成功している。

ダカールラリーT1U規則に属するプロトタイプの重量は、将来的には2000kgではなく2100kgにする必要があるが、第1世代のRS Q e-tronはこの重量を超えていたので数10kgの軽量化が必要だったのだ。ボディの軽量化にともなって、車両の重心が下がるという副次的な効果も生み出されている。

ボンネット下の、パワートレーン・ルーム内の空力コンセプトも一新された。このセクションは、ボートの船体を連想させるコンセプトになっている。最も広い点はコックピットの高さにあり、前後に向かってボディが大幅に絞り込まれている。また、フロントホイール後方に設置され、ドアへと繋がるフェンダーの一部が廃止された。

この結果、デザイナーはより多くの重量を削減し、エアフローを最適化。砂漠でのラリーではエアロダイナミクスはきわめて重要なのだ。確かに、新しいコックピットの寸法は、ボディ断面が大きくなるため、ラリーカーにとっては好ましくないが、それでも全体的な空気抵抗を約15%削減している。

またレギュレーションで最高速度は170km/hに制限されているため、この点に変更はない。それでも、エアフローを改善したことにより、電動モデルを走らせるエネルギーがさらに削減されているのだ。シミュレーション流体力学(CFD)を駆使して、ボディ全体の空力計算を実施し、空力特性を改善しているという。

RS Q e-tron E2の電動ドライブトレーンは、内燃エンジンと発電機、高電圧バッテリー、前後アクスルに搭載された2基の電気モーターから構成されているシリーズ・ハイブリッドだ。このシステムはエネルギーマネージメントが重要な役割を果たすことはいうまでもない。

高度な電動ドライブトレーンの電子制御システムは、初参戦したラリーでも真価を発揮している。このラリーでは、非常に極端な状況においてのみ問題が発生した。例えば、ダカールラリーでは、ジャンプ中や起伏が非常に激しい路面において、ホイールが地面とあまり接触しない状況で、短時間、出力制限の上限値を超えるという問題が発生している。
世界自動車連盟(FIA)の規則では、2kJ(キロジュール)の超過エネルギーが確認された時点で強制介入し、レギュレーションに基づいてペナルティが課せられる。このような状況では、許容範囲に対して、毎秒100倍以上のエネルギーがモーターに流れる。単純に、しきい値を数kW低く設定することもできたが、その場合、全体のパフォーマンスが低下してしまう。その代わりに、パワーコントローラーに数多くのファインチューニングを行なった。現在ソフトウェアが、2つの個別の出力制限値(各モーター1つ)を、数ミリ秒以内に再計算することで、出力の限界値内で正確に作動するように改良されている。

制御システムを最適化したことで補機類にもメリットがもたらされた。サーボポンプ、エアコン冷却ポンプ、冷却ファンなどの消費電力も低減することができたのだ。2022年のデビューレースで、Q Motorsportラリーチームは、貴重な経験を蓄積した。例えば、エアコン・システムを例に取ると、システムは頻繁に作動するため、常に最大出力で作動している場合、クーラントが凍結する可能性があるが、システムを断続的なモードで作動するように改良。これによりエネルギー消費量が少なくなり、長時間の走行でも室内温度はわずかに変動するだけで、ファンとサーボポンプの作動も最適化されている。また、リエゾンステージではスペシャルステージよりも低い負荷に設定することも可能になっている。

インテリアは、ディスプレイはこれまで通りセンターコンソールに配置されている。また、24の操作系を備えた中央のスイッチパネルも従来通りだ。その一方で、ディスプレイとコントロールを改善している。すべての機能を1つにまとめると乗員に混乱が生じるため、今回初めてドライバーとコドライバーは、ロータリースイッチにより4つのシステムエリアから1つを選択できるようになっている。

4つのエリアは具体的に、「ステージ(競技)」と呼ばれるエリアでは、速度制限のあるセクションでの速度リミッターやエアジャッキなど、競技走行において重要なすべての機能を集約。「ロード(巡航)」エリアには、ウインカーやリヤビューカメラなど、リエゾンステージで頻繁に使用する機能がコントロールできるようになっている。「エラー」エリアは、エラーの検出、分類、記録に使用。「セッティング」エリアは各システムの詳細な温度など、テスト中または車両が宿泊地点クに到着した後に、エンジニアにとって役立つすべての情報がコントロールされる。

また耐久ラリーで避けられないパンクした場合でも、これまでよりもはるかに簡単にタイヤ交換ができるように改良されている。ボディ側面に搭載された、スペアホイールカバーには、以前の大きなカバーに代わり、シンプルかつフラットで、簡単に取り外し可能になっている。新しい10本スポークホイールは、取り扱いがはるかに簡単で、ドライバーとコドライバーは、より簡単にそしてより安全にタイヤ交換を完了することができる。

RS Q e-tron E2に乗るのはマティアス・エクストローム/エミール・ベリークヴィスト、ステファン・ペテランセル/エドゥアール・ブーランジェ、カルロス・サインツ/ルーカス・クルスという強力なベテランドライバー達だ。

このRS Q e-tron E2は、10月1日~6日まで開催されるラリー ドゥ モロッコで、このニューマシンの性能検証を行なう。そして目指すは2023年1月の決戦の場、ダカールラリーでの総合優勝である。

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