2019年3月上旬、ホンダは電動化の中心的役割に位置付けたi-MMDのテクニカルワークショップを開催し、今後のホンダ車の中心的システムはi-MMDとしていく説明があった。
ホンダの開発ロードマップ
2019年4月1日から本田技術研究所の社長に就任する、現副社長の三部敏宏(みべとしひろ)氏から、開発ロードマップの説明があった。ホンダは「移動の進化」と「暮らしの創造価値」という2つのテーマで「すべての人に生活の可能性が拡がる喜びを提供していく」ことを目標として開発すると説明した。
そしてグローバルでの進化や変化に目を向けた、ホンダ独自のロードマップの説明もあった。環境への取り組みは約8年前に想定していた2020年目標値よりも早く進んでおり、ICEの改善だけでは、さまざまな環境規制をクリアしていくのが厳しい状況になりつつあり、CO2削減などの環境性能をさらに向上させなければならなくなっているという。さらに、ホンダが持つコンパクトカーを中心に搭載するi-DCDの1モーター式ハイブリッドでも届かない状況になっていると判断をしている。
COP21で策定しているCO2排出規制は、現在の130gから2020年に95gに、25年に80g、30年に66gとどんどん規制は厳しくなるが、そのためにはハイブリッドの効率を上げ、BEV(バッテリーEV)も重要になってくる。しかしながら欧州のCAFEや北米のZEV規制などをクリアしていくには、販売台数も必要になり、技術だけでなく事業性の両立も重要であると話す。つまり、魅力的なホンダらしい環境車が必要になってくるというわけだ。
電動化比率を上げるには
CO2削減を目的としたEV普及において、重要なのは発電時のCO2排出がある。発電方法において化石燃料を使用する比率が欧州の主要国や米国では50〜70%程度だという。また中国では70%、日本では80%が化石燃料からの発電ということになる。一方でカナダ、フランス、スウェーデンのように原発、水力などの再生可能エネルギーからの発電が盛んな国においては、EVはCO2削減に有効であるのは言うまでもない。が、自動車メーカーがこうした発電方法という上流をコントロールすることは難しい、と前置きしながらも、モビリティにおいてCO2を語るには、Well to Wheelで語らなければならないとしている。
そしてWell to Tank とTank to Wheelの2つの考え方で整理できるとしている。ホンダの試算ではアメリカでの発電比率の平均値を用いて算出すると、COP21で定められた基準を達成するには2010年基準で定められた基準の1/3に下げる必要があるという。したがって、ゼロエミッション発電、再生可能エネルギーからの発電、カーボンオフセットの考え方が必要になってくると。
そうした試算を元にホンダは2030年には電動化比率を2/3にすると発表している。その内訳としてハイブリッドを50%、燃料電池、BEVを15%、ICEが35%だ。日本国内の電動化比率は特殊なマーケットであるためすでに27%の電動化が進んでいるが、グローバルで見るとわず4%程度であり、2030年に向けた取り組みのハードルは高い。その対策の第1弾としてi-MMDを搭載したCR-Vを欧州市場に投入したというわけだ。また、中国では「理念VE-1」という中国専用モデルを2018年に量産を開始し順次販売拡大中ということだ。
また、今月(2019年3月)開催されたジュネーブモーターショーでは「ホンダe」というBEVをワールドプレミアし、2019年中に欧州で発売、来年の2020年には国内で発売すると発表した。
つまり、電動化比率を上げていくためには、ユーザー欲しがるような魅力的な環境車でなければならず、そこには走りにもこだわる「ホンダらしさ」という部分も大切にし、商品開発していくとしている。
マーケットニーズに応える選択肢の拡大
具体的な電動化車両の技術の方向性としてはモーター、PCUのさらなる小型化、バッテリー制御によりエネルギーを最大限に引き出す、そして充電技術を磨くことで、環境性能、走る喜び、生活とつながる価値を提供することができていくとしているわけだ。
また、電動車のエネルギー事情は地域によって異なることも踏まえ、化石由来エネルギーを最小化、水素などの多様化したエネルギーに対応する必要があると位置付けている。そのため、グローバルのニーズに応える選択肢を準備すること=ホンダらしい環境車を拡大することで、CO2削減につながると考えている。
そのために、今後はi-MMDの拡大を中心的な存在にしていくという。つまり、i-MMDはPHEVやEVへの発展の可能性を持ち、環境だけでなく走りにも拘り、燃費と走りを両立する技術だと位置付けているからだ。もちろん、モーター、バッテリー、IPUの技術革新を研究しながら、今後のホンダのベースラインとなる技術としているのだ。
2モーターハイブリッド中身
ではそのi-MMDについて見てみよう。
ホンダ独自のi-MMDは2モーターハイブリッドで、充電用モーターと駆動用モーターの2つを装備している。そして充電には搭載されるガソリンエンジンが使用され、蓄えた電力で駆動用モーターを動かして走る。いわゆるシリーズ式ハイブリッドの仕組みを持っているが、さらに、高速道路など高速領域はモーターよりもICEのほうが効率がよいことから、速度域によって駆動方式が切り替わり、エンジンだけで走行する時とモーターアシストの入るパラレル方式ハイブリッドにもなる。つまり、走行状況に応じて、もっとも効率の良いものをシステムが選択し走行する、というのがi-MMDの特徴なのだ。
その駆動用モーターをホンダは自社開発・生産しており、浜松にあるトランスミッション工場の一部がモーター生産工場に替わっている。現在生産ラインは4ラインあり、今後も増産になることは間違いない。またグローバルでは現地調達も必要と考え、日立オートモーティブとの合弁会社を設立し、中国生産も行なわれている。
今回、その浜松工場のモーター製造ラインでセグメントコンダクタータイプのステータを製造するラインを見学することができた。モーターは銅線に電流を流して電磁石とするステータと永久磁石のローターで構成する三相交流式のDCモーターだが、ホンダはローターに使われる永久磁石に、重希土類を使わないタイプを開発している。
モーター製造にもホンダ独自技術
工場見学では、生産ラインは3つのゾーンに分類され、ゾーン1では銅線ワイヤーの切断、エナメル質の皮むきから始まり、ホンダ独自の技術である銅線を4本に束ね、同時に曲げ加工し、72個のスロットに挿入する工程がある。もちろんロボットでの精密な作業だ。
ゾーン2ではワイヤの溶接工程で打点300箇所を自動でおこない、粉体塗料で絶縁、ワニス処理をする。そしてゾーン3では絶縁工程というエリアを見学した。
これらは2016年発売のオデッセイから搭載され、現在も搭載モデルが拡充されつつある。次期フィットに搭載されるのか?は注目だ。バッテリー重量、価格などを踏まえるとコンパクトクラスに搭載するのは難しいと考えられるが、どうなるか楽しみだ。
ちなみに、搭載しているガソリンエンジンは現在1.5Lと2.0Lの2機種あり、どちらもアトキンソンサイクルを採用している。こちらはV-TECの技術を用い、バルブタイミングを切り替えを行ないながら運転されている。
このように、ホンダは電動化への技術ロードマップを発表し、i-MMDを主軸にした戦略で、ハイブリッド車がメインに変わっていく。またBEVも重要な位置付けで、ホンダeに続く新しいモデルが誕生してくることが想像でき、電動化への新たな局面への対応の一端を見ることができた。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>