逆ハンドルの意味を知ったファミコンソフト『ロードファイター』。大人になって分かった意外なものとは?

レトロゲームは静かなブームから表舞台へ?

ゲームといえばスマホゲームやVR技術が話題を集めているため、これまでレトロゲームはかなりサブカル色が強く、決して表舞台に出るようなカテゴリーではありませんでした。
しかし、2016年9月30日に任天堂が『ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ』を11月10日に発売することを発表して以来、レトロゲームへの注目度が高まっています。いわば深夜枠で放送されていたコアなバラエティ番組が一気にゴールデンタイムに進出してきたかのよう。レトロゲームが主流になることは決してありませんが、ファミコン世代には懐かしさ、そして若い世代には新鮮な驚きがある世界であることは間違いありません。<レポート:北沢剛司/Koji Kitazawa>

カウンターステアの極意はこのゲームから学んだ

そんなレトロゲームのなかでも、コナミが1985年に発売した『ロードファイター』は、トップビュー方式のレースゲームです。内容はシボレー・コルベットのチューニングカーを駆り、敵車や障害物を避けながらゴールを目指すという単純明快さ。アーケード版として開発されたゲームをファミコン用に移植・アレンジしたものでした。

オレンジ色の懐かしいコナミのパッケージにアメリカンテイストのイラストが映える
オレンジ色の懐かしいコナミのパッケージにアメリカンテイストのイラストが映える

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ギアはBボタンのLOWとAボタンのHIの2段変速で、LOWでは198km/h、HIでは最高速度400km/hまで引っ張ることができます。また、ブレーキは両ボタンを放すという簡潔さ。後のカーゲームのようなBGMもなく、エンジン音の唸りとともにひたすらゴールを目指すという、ストイック極まりない世界観が特徴です。

左下の赤い車両が自車
左下の赤い車両が自車

ステージ内で何度クラッシュしても復活できる代わり、燃料がなくなってガス欠になるとゲームオーバー。白いボーナスカーに接することで加点され燃料残量が増える一方、クラッシュすると再スタート時に燃料を余計に消費するためか、燃料残量が5つ減ってしまうというペナルティがありました。

画面上のアリタリアカラーのようなクルマがボーナスカー
画面上のアリタリアカラーのようなクルマがボーナスカー

コースは住宅街、橋、海岸、山道の4種類で、それぞれのチェックポイントを抜ければ1ステージクリア。4ステージ目の山道を抜ければゴールとなり、その後は難易度が上がった4種類のコースを再び走行します。

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ファミコンのレースゲームとしては比較的初期につくられた製品でありながら、シンプルな操作性とスピード感溢れる内容は、後のレースゲームと比べても個性的でした。中途半端に凝ったゲームの場合、後にプレイしたときに古さが目立ってしまい、楽しめなかったりします。その点、シンプルな内容の『ロードファイター』は数十年ぶりにプレイしても新鮮で、思わず時間を忘れてプレイしてしまいました。

 

カウンターステアの極意はこのゲームから学んだ

それまでトップビュー方式のレースゲームでは、敵車に接触すると即爆発というのが定番でした。しかし、圧倒的なスピード感を実現した『ロードファイター』では、敵車との速度差がありすぎてすべてのクルマを避けて走るのは不可能。そこで、敵車に当たると自車のテールが左または右側に横滑りするロジックを採用。流れた方向と逆側にステアリングを操作してスピンを防ぐ逆ハンドルの概念を導入したのです。

敵車を避け切れず追突!
敵車を避け切れず追突!
 次の瞬間、車両が横滑りするので、素早くカウンターステアをあてて姿勢を立て直す
次の瞬間、車両が横滑りするので、素早くカウンターステアをあてて姿勢を立て直す

ゲームの世界で逆ハンドルを実現したのは画期的で、そのテクニックを駆使した走りが最大の醍醐味でした。トレーニングとして自分から敵車にどんどんぶつかっていったり、敵車に幅寄せされる前に自分から敵車にぶつかることで積極的に自車の進路を切り開いていくようなドSなドライビングも可能。「攻撃は最良の防御だ」と言わんばかりのゲーム内容は、まさに『ロードファイター』の名にふさわしいものでした。

カウンターをあてるタイミングが遅れるとスピンに。集中力と反射神経が問われる
カウンターをあてるタイミングが遅れるとスピンに。集中力と反射神経が問われる

今思えば、当時の私は人間として壊れていたのかもしれません。スピン中に敵車に当たると彼らがもらい事故を起こすため、クラッシュした光景を見てニヤリとしたり、道路端を走る敵車にわざとぶつけて彼らを爆発に追い込んだりする傍若無人な走りを繰り返していました。しかし、そんな鬼畜な走りをしていても、トレーラーや工事中の箇所にぶつかった場合は即爆発。罰当たりな行為に対する戒めのように思えたものです。

 敵車を踏み台にして先を急ぐ。レースの世界は非情だ
敵車を踏み台にして先を急ぐ。レースの世界は非情だ
 しかし、工事箇所には勝てずに爆発
しかし、工事箇所には勝てずに爆発

 

実車を知った今だから分かる楽しみ方とは?

レトロゲームの楽しみ方は、懐かしさだけではありません。実車の世界を知った大人だからこそ見えてくる面白さがあるのです。例えば搭載されるエンジン。アーケード版の説明には、エンジンスペックとして “V12 DOHC 2500PS”と書かれています。しかし、ブガッティ・シロンの1500psをさらに1000ps上回る高出力を発揮しながら、最高速度は400km/hに留まっています。反面、0-400km/h加速は実測すると3秒台前半でした。そんな驚異的な加速性能に、今さらながら興味深さを感じてしまいます。

そして何より気になったのはエンジン音です。V12と謳っていながら、実際はドロドロとした音でかなり違和感があります。しかし、今改めて聞いてみると、どこか聞き覚えのある音であることに気付きました。それは、アウディ・クワトロやボルボ850、そしてホンダ・インスパイアなどでお馴染みの5気筒サウンドだったのです!特に400km/h走行時の音は、5気筒エンジンにおける中回転域の音そのもの。ゲームをプレイしていると、5気筒エンジンが百花繚乱だった’80年代から’90年代の思い出が蘇ります。

 一定時間無事故が続くと、画面左側にコナミマンが現れてボーナスポイントがもらえる
一定時間無事故が続くと、画面左側にコナミマンが現れてボーナスポイントがもらえる
 道幅の狭い海岸ステージでコナミマンを出すのは大変だった
道幅の狭い海岸ステージでコナミマンを出すのは大変だった

『ロードファイター』にはさらに、一定速度を維持して走行できる裏技もあります。これはスタートボタンを押しながら、Aボタンを押すと速度が上がり、Bボタンを押すと速度が下がるというもの。機能的にはまさにクルーズコントロールそのものですが、実際には敵車と並走したい場合くらいしか使い道がなく存在意義はほとんどありません。当時は裏技ができたこと自体に喜んでいましたが、今はこの裏技を入れた意味について思いを馳せるだけでも楽しくなったりします。

そして後年もっとも衝撃を覚えたのが、LOWギアで198km/hのまま走ってもゴールできるという驚愕の事実でした。若い頃は行き急いでアクセル全開で飛ばしていたため、トレーラーや工事箇所が急に現れたときに対応できず、衝突・爆発を何度も繰り返していました。そこで思い出したのはバブル全盛期の思い出。あの頃、渋滞した高速道路の路肩を全開でかっ飛ばしていく日産シーマやベンツ560 SELの姿をよく見かけたものです。あの頃、あんなに急いでいったいどこに向かっていたのでしょうか。それを思うと、LOWギアのままローリスクでゲームをゆるりとクリアするというのも、分別のある大人ならではの楽しみ方かもしれません。まさにintelligentでefficiencyなイマドキの走りといえるでしょう。

実は最高速の半分の速度でクリア可能だった!
実は最高速の半分の速度でクリア可能だった!

レトロゲームには、修学旅行で昔訪れた名跡を大人になって再訪するような楽しみがあります。昔は結果しか見えていなかったものが、歳を重ねることでいろいろな魅力に気づくことが少なくありません。今から30年以上前に発売された『ロードファイター』にも、クルマ好きの大人を楽しませる要素がたくさんありました。今となっては新鮮なトップビューのレースゲームをプレイしてみると、新しい発見があるかもしれませんね。

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