「メルセデスが考える自動運転の今」by清水和夫

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2025年、自動運転時代の高級車コンセプトF105と筆者・清水和夫

餌を食べるために、大きな口を開けたクジラのようなメルセデス・ベンツのコンセプトカーF015。自動走行の時代の高級車のあり方を問う意欲作だが、実際に試乗できると聞いてサンフランシスコまで飛んだ。

F015は2015年のラスベガスで開催されたCES(コンシュマー・エレクトロニクスショー)でワールドプレミアされた。2025年の自動運転を可能とするコンセプトカーだ。このF015に込められたメッセージは自動運転の技術領域ではなく、自動運転が可能となったときに高級車はどうあるべきかを問う哲学的な意味を持っている。その思想を取材してきた。

清水和夫 メルセデス自動運転コンセプト 006 清水和夫 メルセデス自動運転コンセプト 007■自動運転のレベルの定義
自動運転については最近各自動車メーカーや、Google、アップルなどからさまざまな話題が発表されている。言ったが勝ち的なニュースに翻弄される多くのメディアは、その全体像が見えていない。というのも自動運転のレベルの定義によって発表される中身の評価は異なってくるからだ。

混乱と誤解を避けるために、まずは自動化レベルの定義を考えてみよう。日米欧でNHTSA(米国交通安全局)やSAE(自動車技術会)の定義はおおよそ次のようになる。

レベル0:すべて人が操作
レベル1:一つの機能が自動化(ACC/車間自動コントロールやAEB/自動緊急ブレーキなど)
レベル2:二つ以上の機能が自動化(ACCとステアリング制御/車線逸脱自動修正など)
レベル3:半自動運転でサブタスク可能。問題がある場合はドライバーが操作する
レベル4:完全自動運転
レベル5:SAEによる定義の無人運転

レベル2まではドライバーが前方やクルマの走行状態を監視する義務が発生するのでサブタスク(運転以外の他の作業)は認められない。そもそも1968年に制定されたウイーン道路交通条約では「ドライバーはいかなる場合でも適正な運転ができること」という決まりがあり、レベル2まではこの条約の規定に収まるが、レベル3以降は条約の改訂が必要となる。

もっと分かり易く言うと、レベル2まではドライバーが前方を監視するが、レベル3になるとシステムを監視する義務を持つ。サブタスクが認められるのはレベル3以降だ。

今回メルセデスが発表したF015は2025年頃を目指すレベル3~4の段階なので、運転操作を離れたサブタスクが可能になっている。

■宇宙船メルセデス号に乗船
サンフランシスコ郊外の飛行場跡地でF015を試乗した。といっても今回はたとえ運転席に座ってもハンドルは握らないのだが。担当者がiPhoneでF015を呼び出す。無人の状態でゆっくりとご主人さまの前に登場した。この自動バレー・パーキング(Valet Parking)は技術的にはすぐにでも可能らしい。

清水和夫 メルセデス自動運転コンセプト 004 清水和夫 メルセデス自動運転コンセプト 005F015のデザインはまるでよその惑星からやってきたような未来感のあるスタイル。数年前に発表されたコンセプトカーF700からメルセデスは「アクア・ダイナミック」というデザインを重視している。まるで生き物のように柔らかい丸みを帯びたデザインが特徴的で、いままでのようなエッジが効いたシャープなデザインとは対照的だ。この得体のしれない宇宙船に映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」という映画の主人公になった気分で乗り込んだ。

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試乗といってもドライバーはステアリングを握らない

4座のシートは自在に回転できるので、乗員は向き合うことができる。電気駆動を前提として設計されており、タイヤがボディの四隅に配置されているのでホイールベースは3.61mと長い。全長5.22mなので全長対ホイールベース比では前例がない。清水和夫 メルセデス自動運転コンセプト 009

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乗員は向かい合って座ることもできる

インテリアは木を使ったフローリング仕上げだし、シートは座り心地が良い本革が使われている。インテリアのボディ表面はLEDが使われており、まるで壁一面がiPadのような感じだ。外の様子はキレイに画像処理されてインテリアの壁面のディスプレイに映し出す。

スピードや目的地へのコマンド入力はどの席からでも操作できる。音声入力もできるし、メーターパネルに手を触れることなく、操作できる。バーチャル・リアリティなのだが、実際に走っているので、どこまでがリアルでどこからがバーチャルなのかわかない。とにかく自動運転の時代にメルセデスは退屈させない快適性を求めている。清水和夫 メルセデス自動運転コンセプト 008

■F015が提案するシェアードスペース(Shared Space)とは
前後左右のディスプレイパネルからは多くの情報を得ることができるが、そのビッグデータの処理がポイントらしい。数値ではなく直感的に人に分かりやすくする工夫が必要だというのだ。こうした「人とシステム」の関係を「HMI」(ヒューマンマシン・インターフェース)と呼ぶが、車外の歩行者とのインタラクション(交流)も重要だろう。無人で走るクルマは歩行者からみると恐怖を植え付けるからだ。

F015は人工知能を持ったロボットカーのように、近づく歩行者を認識すると合図を送る。歩行者がクルマの前を横断する、と判断すると路面にグリーンの人工的な横断歩道をレーザーライトで映し出す。

このように車内でも車外でも、人とマシンの関係に分かりやすい対話ができるようにすることが、メルセデスのこだわるところである。自動運転というと技術論が先行するが、メルセデスは技術課題よりもユーザーや社会への説明、法律の整備に時間がかかると考えている。その意味ではAI化(人工知能)やロボット化が進むハイテク社会こそ、人間研究が必要になりそうだ。今回発表したF015は自動運転の伝道師なのである。

メルセデス・ベンツ関連情報

メルセデス・ベンツ公式サイト(海外)
■参考サイト
http://www.startyourengines.net/

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