【メルセデス・ベンツ】新型Sクラス 最善か無か。蘇るかSクラス神話 W222型誕生 vol4

いよいよ最終回となるレポートは、メルセデスが目指す「最善か無か」という哲学を復活させ、徹底的に開発コンセプトを突き詰めたモデルとなっている部分に目を向けたい。そして仕上がったSクラスはなんとも魅力的な人間臭さのあるプレステージモデルだったのだ。

新型Sクラス  S350ブルーテック 

◆予防安全とアクティブ・サスペンション
新型Sクラスはメルセデスの総力を注いで開発された最新の安全技術が織り込まれている。過去にもそうであったように、Sクラスで採用された技術が下のモデルに普及する。その意味では今回の新型Sクラスの最新技術はしっかりと理解しておきたい。

「ぶつからないクルマ」で一躍有名になったスバルのアイサイトは、最近のスバルの好調な販売を支えている。10万円のオプションでもユーザーはお金を出すことがわかった。それではメルセデスにはどんな技術が実用化されているのか。

新型Sクラスの少し前に登場した新型Eクラスには最新の「レーダーセーフティ・システム」が備わっているが、実はこの技術はSクラス用として開発されていた技術であり、Eクラスが先取りして搭載したものだ。

Eクラスに採用されたレーダーセーフティ・システムの技術的な特徴は、前後に5個のミリ波レーダーを備え、前方にはさらに歩行者・車線・対向車のヘッドライトを認識するステレオカメラが備わっている点であり、このハードウェアを聞いただけで完璧なシステムと思えるのだ。

ラジエーターグリル内にレーダーと赤外線センサー、フロントスクリーン上部にステレオカメラを配置

ハードウェア的にはライバルメーカーとの差別化がないように思えるが、メルセデスが開発したステレオカメラの認識技術に秘密が隠されている。それは、静止画を一秒間に数十枚撮ることで、物体の動きを予測するアルゴリムが実用化されているのだ。この技術は「6D」と呼ばれるもので、2012年のドイツではもっとも先進的な技術に与えられる賞にノミネートされたほどだ。また、メルセデスらしいのは世界中の都市や幹線道路を走ることでロバスト性を十分に高めていることも特筆すべきことだろう。

新型Sクラスは5つのミリ波レーダーとステレオカメラを搭載するが、やはりSクラスだけの技術として暗闇の人間や動物をも感知できる遠赤外線センサーを備えている。闇夜に潜む歩行者を発見すると、LEDのヘッドライトは3回だけフラッシュし、クルマが接近することを知らせる。

コストは高いが体温で感知できる遠赤外線はナイトビジョンと組み合わせることが可能だ。人間の体温を感知し、ヘッドライトの照射範囲内ではカメラで再確認する。精度の高さでは遠赤外線が理想的だ。対車輌/対歩行者/対動物などあらゆるリスクを感知し、ドライバーに警報しているシステムはメルセデスらしく、ロバスト性が高いことも特徴だ。世界中の都市で実証実験を繰りかえしてきた。

実は安全のために備わるステレオカメラは路面の凹凸も検知できる。そこで油圧で制御されるアクティブ・サスペンション「ABC」と連動させることで、バネ上のボディをフラットに保つことができる。電話帳くらいの段差を実際に乗り越えても、週刊誌を踏んづけたくらいしか感じない。したがってアクティブ・サスペンションがフィードフォワードされるようになったわけだ。

このシステムは「マジックボディコントロール」と呼ばれている。300km近く走ったときの印象は、とてもありがたいと思ったが、稼動速度は130km/hまでに制限されている。というのは、このマジックボディコントロールは得てしてドライバーにスピード感を失わせてしまうリスクを考慮したのだ。メルセデスらしい判断だ。

安全性と快適性では宇宙一の性能を誇ることは間違いないが、走り味は先代モデルよりも明らかにスポーティだ。サイズは異なるがE63 AMGと同じミシュランPS3(パイロットスポーツ3)を履くSクラスのハンドリングはスポーティなキャラクターを狙ったようだった。

清水和夫
安全性、快適性、静粛性など新型Sクラスの走りの様々な面を体験した清水氏

 

◆後席の快適性をチェック

ホイールベースがショートボディより130mm長いロングの後席に座ると、「シートベルト・バックルエクステンダー」が装備されているのでバックルを締めやすい。しかし、ベルトを装着するとこのガイドが自動的に下がる仕組みだ。これならお腹が大きいおじさん達もベルトを締めやすいはずだ。これはなかなか良いアイディアだと思った。

メルセデスのエンジニアは「後席はエアバッグがないので衝突安全を前席と同じように確保することは難しい」という。そこでメルセデスは後席用に「ベルトバッグ」を開発した。衝突を検知するとガス圧で胸の部分のシートベルトが膨らみ、胸部への加害性を低減できる。60歳を超えると胸部肋骨の強度が低下するからお年寄りは外傷が増えやすい。さらにリクライニングしている時の拘束力を高めるために、シートの座面が隆起する「クッションバッグ」も備わっている。こうした機能はロングボディの標準装備だ。

S550のショーファーパッケージ。リヤシートがVIPルームになり、ベルトバッグなど最高レベルの安全性を確保

「最善か無か」というメルセデスの開発哲学は新型Sクラスで蘇ったと言える。ユーザーのライフスタイルに合わせて選べるハイブリッドの多様性、最善の安全性と快適性。どれをとっても技術は超一流だ。この先進性こそ、新しいSクラスが持つ価値ではないだろうか。

清水和夫
カナダで行なわれた試乗会で新型Sクラスのステアリングを握り300kmの走りを体験した清水和夫氏

 

清水和夫

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