【メルセデス・ベンツ】新型Sクラス 最善か無か。蘇るかSクラス神話 W222型誕生 vol2 

前回まではメルセデス・ベンツとはどんなブランドなのか?どんな哲学を持って開発されてきたのかといった歴史を振り返る内容だった。ここでは、新型Sクラス(W222型)の開発コンセプトを説明する前に、初代から今回の6代目に至るまでのSクラスの歴史を振り返ってみたい。もともと高級車造りから始まったメルセデスは、どのモデルから「S」が冠されたのだろうか。

Sクラス
エミール・イェリネックが所有したこともあるエレガントで豪華なツアラーサルーン「シンプレックス60hp」(1904年型)と新型Sクラス

初代は1972年のW116型「S450SEL」だ。このモデルは4.5L・V8型が主力であったが、6.9L・V8型という戦後のメルセデス史上最大の排気量のV8型が登場している。このインパクトは大きく、Sクラスは名実ともに最強のパワーを持つセダンとして認知されたのである。注目すべき技術はオフセット衝突を模擬して開発されたボディ。衝突時に乗員の生存空間が維持できる安全ボディの先駆けであった。さらにABSがオプションで備わった最初のモデルでもあった。

W116 (1972 ~1980)初代Sクラス 450 SEL 6.9
2代目W126(1979 ~1991) 500SEL

 

 

2代目は1979年のW126型Sクラス。技術的なハイライトはエアバッグが実用化されたがモデルサイクルが12年と長く、単年換算でも最も売れたSクラスだった。

3代目W140型は1991年に発表されたが、ボディサイズがグッと大きくなり二重ウィンドウガラスが採用されるなどした。1994年にビッグマイナーチェンジをした時に「500SEL」という呼び方から「S500」が使われるようになった。

1998年の4代目W220型は3代目の反動もあり、ボディサイズは縮小され、メルセデスのセダンラインアップ「C/E/S」が完成した。しかし、デザイン的にはもっともカジュアルなSクラスとなり、威厳は薄れたのは寂しかった。

3代目W140 (1991~1998).  S 600
4代目W220 (1998 ~ 2005). S 400 CDI

 

 

5代目にあたるW221型は2005年にフルモデルチェンジしたが、カジュアルになりすぎたと批判があったW220型Sクラスの反省を生かし風格と威厳を取り戻した。IT化された操作系を持つ高級車に年齢の高いユーザーは戸惑ったこともあった。しかし、Sクラスらしい風格が帰ってきたことは大歓迎であった。

5代目W221 (2005 ~2013) S 500
W222 新型Sクラス S500

 

そして2013年6月に6代目W222型Sクラスがドイツ・ハンブルグのエアバス社の組み立て工場で発表された。なぜエアバス社なのか。Sクラスが安全性と快適性では最高であることを示すには打ってつけの場所だという理由だ。最新鋭にして最大の大きさを誇る「A380」を後ろに従えて、新型Sクラスが堂々とアンベールされた。それは異色の舞台での驚きの発表会だった。そして7月に入るとすぐにカナダのトロントで国際試乗会が開催された。多くの移民で成り立つトロントは中国系移民も多く、Sクラスを中国市場に知らせるには好都合な街だ。

 

W222型メルセデスSクラスの開発コンセプト

ここまでのレポートで述べてきたように、Sクラスのボディサイズは大きくなったり、小さくなったり。あるいはデザイン的にも威厳を感じさせる押し出しの強いスタイルであったり、あるいはけっこう庶民的でフレンドリーな親密感を感じるスタイルであったりと、いろいろとチャレンジしているのがわかる。それでは6代目となる新型Sクラスはどんなボディサイズやパッケージを持ち、そのスタイルはどのようなイメージなのだろうか

ボディサイズを語るには、Sクラスのメイン市場がアメリカだけでなく新興国の雄と言われる中国で期待されていることを考慮する必要がある。そのために、ロングホイールベースが標準ボディとなり、例外としてショートとスーパーロングが存在する。

新型Sクラスがもっとも売れそうな中国では、より大きなボディを好む傾向にある。エンジンは小さくても外からは見えないが、ボディは誰がみても偉そうに見える大きなボディを好むのが中国人の富裕層だ。その証拠に中国ではEクラスにもロングホイールベースが用意されるほどだ。今やその中国がSクラスの最大の市場となろうとしている。スーパーロングはまだ発表されていないので詳細は未確認だが、噂では最も恰好がいいらしい。

ところで新型Sクラスのボディ開発には三つのコンセプトが用意されていた。その一つは徹底した軽量化。2シータースポーツのSLで実用化したアルミ・コンポジットボディ技術はSクラスにも展開され、フロント部分はフレームからパネル類までアルミで構成されている。その効果は絶大で先代のSクラスと比べて約100kgの軽量化に成功している。新型Sクラスの中で中核を成すS500(日本ではS550)はショートボディで1995kgの車両重量であるが、ロングは2015kg。先代モデルよりも大幅に軽量化している。

ホイールベースはショートが3035mm、ロングが3165mm。つまり従来型と同じ寸法だ。全長はほぼ同じサイズが与えられているが、トレッドがより広がり、キャビンの幅が広くなったぶん、全幅は29mm広くなっている。その影響はスタイリングに現れている。明らかに先代モデルよりもダイナミック性能が高そうなフォルムだ。タイヤはボディの四隅で支えており、むしろショートよりもロングボディのデザインのほうがごく自然に見えるのだ。

ハンブルグのエアバスの組み立て工場で行なわれた発表会

二つ目のコンセプトはボディの安全性だ。エアバスA380になぞらえたように、Sクラスは最高の安全性を誇る必要がある。というのはエアバスA380は世界最大の旅客機であり、快適性と安全性が売りだからだ。予防安全に関しては、後で詳しく述べるが、衝突安全では頑丈なキャビンを実現するために、多様な素材を適材適所で使い分けている。

アルミや強度が異なる高張力鋼板などの最新材料を採用し、乗り心地やダイナミクスにも影響するねじり剛性は先代の1.5倍にも向上している(ロングボディ)。ショートはホイールベースが短いので、ねじり剛性はEクラス以上に高いという。

三つ目のコンセプトは空力デザインだ。風切り音や燃費にも影響する空気抵抗係数Cd値は、コンパクトサルーンのCLAのCd=0.23(欧州仕様のディーゼルモデルのみがCd=0.22)には及ばないものの、SクラスのロングではCd=0.24(ハイブリッド0.23)を実現している。

新型Sクラスは徹底した床下の気流制御を行うことでCd=0.24 を実現。空力性能でもトップレベルとしている

Cdを測定する風洞テストは設備によるバラツキが大きいと言われるが、同じメルセデスファミリーのCLAと変わらない数値は立派だ。実際の空気抵抗はCdに前面投影面積Aを乗じた値となるが、CdAで比較してもクラストップの値だ。

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