【舘さんコラム】 2020年への旅・第6回「充電の旅シリーズ6 スーパーセブンに聞け 第4話」

スーパーセブン160Eと小林可夢偉

「おもしろい。早く続きを読ませろ」。そんな脅迫めいたメールが連日、山のように届いているというのは半分冗談だが、周囲からそんな声が聞こえないわけではない。そんなわけで、このコラムの評判を聞きつけて、初めてこのコラムにいらっしゃった方もおられるかもしれない。そんなニューカマーのために、ほんとうなのか、冗談なのか。良く分からない私の話にはめられないように、予防接種を打っておこう。もちろん、常連の方でも効き目はある。

さて、英国の有名なスポーツカーであるスーパーセブンを電気自動車に改造したEVスーパーセブンは、日本1周をめざして、東京から北陸、東北をめぐって、青森県の八戸港からフェリーのシルバークイーンに乗って2013年の9月29日、夜8時に北海道に上陸した。

EVスーパーセブン
EVスーパーセブンは、苫小牧から北海道庁に寄り、雨の中を小樽に向かった

そういえばスーパーセブンを生産するケーターハム社(英国)から、スズキの660ccターボエンジンを搭載して、軽自動車規格にしたケーターハム160Rという新型スポーツカーが発表された。発表会の招待を受けたので、3月10日に会場の英国大使館に行ってみた。F1ドライバーの小林可夢偉が会場にいた。この日のために英国から駆けつけたのだ。明るいブルーに塗られた新型スポーツカーに乗り込む。うむ。絵になる。

ベールに包まれる発表前のケータハム
ベールに包まれる発表前のケータハム

英国大使館IMG_1517IMG_1533

1955年にロータス社の創設者であるコーリン・チャップマンが生み出した、このオールドなスポーツカーが、若い可夢偉にぴたりとはまるのはどうしてだろう。スーパーセブンには、時を超える不思議な力が存在するようだ。スーパーセブンよりも少しだけコンパクトなこのスポーツカーのお値段は、365万円。安くはない。しかし、決して高くはない。電気バージョンが、この値段で買えたら…と不謹慎な思いが交錯した。

寒さに弱い電気自動車

話を戻そう。八戸港を出たメインドライバーの寄本はシルバークイーンの船上で、某自動車メーカーの動力性能試験担当の社員から、厳冬期に北海道1周、2400kmの電気自動車によるラリーがあることを聞きつける。生来のライター魂に火が点いた寄本は、さっそく取材を敢行し、様子を東京の日本EVクラブ事務局にメールしてきたのだった。

だが、その話には信憑性に欠けるところがあると寄本がいう。私もそう思う。どうも怪しい。

厳冬期の北海道をよく知っているわけではないが、あれほどに寒く、雪の多い地域は世界でも珍しい。いや、北海道以外にはないと思う。そんなところで電気自動車が2400kmも果たして走れるのか。きっとラリーを決行すれば、遭難者続出である。「だから世界中からEVの強者が集まるのだ。世界一厳しければ、危ないと聞けば、世界一の勇者が集まるのが世の常。パリ・ダカール・ラリーを見てみろ」とおっしゃるアブナイ御仁もいるのだが。

たとえばスキーのワックスである。上越地方の柔らかな雪に合わせたワックスなどを塗ろうものなら、北海道ではまったく滑らない。まるで板に接着剤でもつけたかのように、雪面に板が張りついてしまう。スキー合宿で何度も北海道の冬を経験した私には、厳冬期の北海道の冬の怖さの一端はうかがい知ることができる。氷点下になることがあたりまえの北海道の冬を甘く見てはいけない。

電気自動車の電池は、寒さに強いとはいえない。充電には時間がかかり、航続距離も場合によっては半分近くに短くなってしまう。また、パワーも出にくくなり、クルマを牽引する力が弱くなる。電池の中の電解液が凍って、電気が流れにくくなるからだ。寒いと携帯電話やビデオカメラの電池がすぐに無くなるのは、これが原因だ。暖房に使う電力量もばかにならない。

三菱自動車の電気自動車であるi-MiEVの初期のモデルには、ニクロム線の暖房装置がついていた。これをフルに使うとi-MiEVの電池は、暖房だけでたった5時間で電気をすべて失ってしまう。日産の電気自動車であるリーフも、その初期のモデルは同様で、8時間しか持たない。厳冬期の北海道では、車内を温めるだけで、電気がなくなってしまう。ましてや、そこを昼夜分かたず電気自動車で走ろうというのは、狂気の沙汰である。

ただし、i-MiEVとリーフの名誉のためにつけ加えておくと、最新モデルはヒートポンプ式の冷暖房装置、いわゆるエアコンになっている。これは、家庭のエアコンと同じで、とても効率が良い。厳冬期北海道ラリーなど、おもしろがって、誰かが流した噂に過ぎないに違いない。私は寄本に、さらに詳しく厳冬期北海道EVラリーついて調べてくれるよう頼んだ。

北海道でEVは使えない

雨の北海道庁。普段は入らせてもらえない敷地にご厚意で進入。重厚な庁舎とEVスーパーセブンの写真を撮らせていただいた
雨の北海道庁。普段は入らせてもらえない敷地にご厚意で進入。重厚な庁舎とEVスーパーセブンの写真を撮らせていただいた

EVスーパーセブンは、苫小牧で1泊して翌日、札幌を経由、北海道庁に表敬訪問をして、小樽に向かった。寄本によれば、千歳からはあいにくの雨で国道36号線の旅は厳しいものになったという。途中、北央三菱自動車販売千歳本店に伺い、充電をさせていただいた。そこで、冬の北海道におけるEVの厳しい現実を知らされることになった。厳冬期北海道ラリーなど、とんでもない話である。そのことについて、寄本は自身の旅のブログでつぎのように記している。

たとえば美幌峠の登り口に充電器を設置したとする。そこは雪深い。充電器はまるごとすっぽり雪に埋まってしまう。たとえ屋根をつけても、積もった雪で充電器には近づくことさえできない。雪深い北海道では、積もった雪で道路と農地の区別がつかない。あるいは側溝も雪で埋まって見えなくなる。

そうした危険を避けるために、道路の端にポールが立てられている。「ここまでが道路だ」というわけだ。充電器にも5メートル近い高さのポールが必要かもしれない。しかし、雪に埋まった充電器を誰が掘り起こすというのだ。北海道の全充電器の除雪計画なるものを策定する必要がある。

小樽で雨の中を充電。雨の中を札幌から小樽まで走った後の充電だ
小樽で雨の中を充電。雨の中を札幌から小樽まで走った後の充電だ

 

寄本は、北海道で真剣に電気自動車の普及に取り組んでいるディーラーの責任者の言葉に頷かざるを得なかった。人は、物事に真剣に取り組むほどに事の重さを知るものである。他人事ではなくなると、その前に広がる膨大な困難に気づくのだ。北央三菱自動車販売千歳支店は、電気自動車の課題を自分たちの課題とするまでに深く普及に取り組んでいた。

さらに寄本を追い込んだのは、その後に表敬訪問した北海道庁で伺った話であった。それは寄本が抱いていた北海道における電気自動車の課題そのものであった。果たして北海道では、夏でも冬でも電気自動車で走らなければいけないのだろうか。北海道の人たちが、そうした重荷を背負わなければならない理由などあるのか。なぜ、課題だらけの北海道のしかも厳冬期にEVラリーを開催するのか。寄本には理解できなかった。

道庁の皆さんの歓迎を受ける。充電インフラ整備を推進する人たちだ
道庁の皆さんの歓迎を受ける。充電インフラ整備を推進する人たちだ

厳冬期北海道EVラリーは、ほんとうに開催するのか。乞う。次回。

2020年への旅 スーパーセブンに聞け 第5話
2020年への旅 スーパーセブンに聞け 第3話
日本EVクラブ公式サイト
■Exciting GoGo! EV RACE 2014(5月3日開催 場所:筑波サーキット1000)
Exciting GoGo! EV RACE 2014

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