ちょっと難しいダンパーの話 vol.2 動画もたっぷり

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前回は、ダンパーの働きと構造を説明したが、今回はその作り込みに関してみてみよう。ダンパーは一見すると単純な油圧の粘性抵抗を使用する減衰器だが、実は微小な動きで正確に減衰力を発生させることが要求される精密な機械であることが分かったと思う。そして、サスペンションの動き、ボディの動き、つまりは走りのフィーリングに大きな影響を与えるものだということを説明した。

しかしこれを逆に考えると、自動車メーカーのエンジニアが、クルマの走り、走行中のクルマの動き、乗り心地などにどれほどこだわるか、ということに尽きる。なぜなら、サスペンションのダンパーは、市販されているものを購入してクルマの製造ラインで取り付けるといった種類のものではないからだ。

■サスペンション、ダンパーの作り込み

クルマを設計する過程では、サスペンションのジオメトリー(動き)、クルマの重量やばね上荷重、ばね下荷重、ダンパーの配置など多くの条件を考慮しながら、ばね定数、減衰係数、スタビライザーの剛性などを決定する。

そしてクルマのプロトタイプができ上がると、試作ダンパーが装着され、台上での計測、実走行でのテストが開始される。また、新開発のシャシー、サスペンションの場合は、新しいシステムのサスペンションだけを装備する先行試作車が使用されるケースもある。

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金属ベルト上で走行するクルマのサスペンションの動きを精密に計測

台上試験は巨大なローラーの上、あるいは金属製の動くベルトの上で、あるいはサスペンションを油圧シリンダーで加振するなどして行なわれる。テスト項目としては、設計通りの性能が達成できているかのチェックと、実走行で取得したデータの比較・検証を行なう目的で行なわれる。

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公道での走行テスト

実走行テストでは、振動や乗り心地のデータの収集と同時に、テストドライバーの感覚によるフィーリング・チェックも行なわれる。これらのテストによりデータが集められ、設計として、あるいは製品企画として決めたターゲット性能が実現しているかが検証される。

もちろん、シャシー性能や走りが一発で決定するようなことはなく、ばね、ダンパー、スタビライザーやブッシュ類の変更など、再チューニングが行なわれる。そして、それぞれの部品については、供給メーカーに新たな試作品が要求されるわけだ。

開発の後期になると、プロトタイプ車はテストコースだけでなく、公道でもテストされる。特にヨーロッパやアメリカのメーカーは公道での走行テストが重視され、最後の煮詰めの段階ではダンパーメーカーも同行し、現場で微妙なセッティングを行ないながら熟成のためのテストが繰り返される。

■理想のサスペンションの追求

実際のクルマのサスペンション、ダンパーの熟成は、経験を積んだテストドライバーと微小な減衰力チューニングを何度も繰り返すダンパーメーカーとの、いわば泥臭い作業の繰り返しといえるが、その一方でより大きな視野で自動車メーカーによる理想のサスペンションの追求も行なわれている。

今ではすっかり忘れられつつあるが、日本の自動車メーカーはこうした取り組みでのパイオニアであった。1982年にはトヨタは「ソアラ」にTEMS(トヨタ電子制御サスペンション)を導入した。

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1982年に「ソアラ」に採用されたTEMS(トヨタ電子制御サスペンション)

フロント、リヤサスペンションのダンパーの減衰力を2段階3モードに制御し、アンチロール、アンチダイブ、アンチスクォートの機能を持ち、乗り心地、操縦安定性の向上を計った世界初の電子制御サスペンションのシステムであった。

さらに1986年には「ソアラ」にエアサスペンションが採用された。一般的なコイルスプリングの代わりにニューマチックシリンダー(空気ばね)のエアチャンバー内に封入した空気にスプリング機能を持たせ、コンピュータ制御により、ばね定数・減衰力と車高を走行条件に応じて3段階に自動的に切替えシステムだった。

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ソアラに採用されたエアサスペンション式TEMS

ドライバーの好みにより、2モードの選択ができ、任意にばね定数・減衰力と車高を切替えることにより、卓越した乗り心地と操縦安定性が得られるという、世界初のシステムだった。

さらにトヨタは、1989年に乗用車の量産車としては世界で初めて、アクティブ制御のハイドロニューマチック・サスペンション(アクティブサスペンション)をセリカに採用している。このシステムは走行状態を各種センサーで検知し、リニア圧力制御バルブによる油圧で各輪の独立懸架用油圧シリンダー内の油圧と油量をアクティブに制御するものだった。

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1989年にセリカに採用されたフルアクティブ・サスペンション

上下・左右・前後方向の姿勢変化を少なくし、ばね上振動はフラットで、高周波領域の振動はソフトな乗り心地に。その結果、一般的なサスペンションのクルマと比べ、ロール量は1/4以下に、ダイブ量は1/2以下に低減、スクォート量は1/3以下に低減と低周波領域におけるバネ上の上下加速度の大幅な低減を達成している。

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アクティブ・サスペンションのダンパー&車高制御

余談だが、このトヨタのアクティブサスペンションと日産のインフィニティQ45の油圧アクティブサスペンションは激しい開発競争を行ない、セリカとほとんど同時期に市販している。

このように世界の自動車をリードした、理想を追求する可変制御、アクティブ制御サスペンションの開発はバブルの崩壊などを契機に姿を消した。なにしろコストが高く、開発に長い時間を要するシステムで、それ以後はすっかり忘れられた技術となっている。

■ボディ姿勢のコントロール

可変制御のサスペンションはクルマの走行状況を検知し、姿勢変化を抑え、乗り心地、ロードホールディングを両立させるために瞬時に減衰力を変化させるシステムで、セミ・アクティブサスペンションとも呼ばれる。

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上級車に多く採用されているザックス社製の連続可変式CDCダンパー
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CDCサスペンションのセンサー配置

一方、アクティブサスペンションは、ダンパーの外部に動力源を持ち、油圧を変化させることでダンパーの減衰力だけではなく、車高を変化(つまり油圧、または圧縮エアによる可変スプリング)を行なうことで、クルマの姿勢全体を制御するシステムだ。

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アクティブ・サスペンションの基本となる「スカイフック理論」。スカイフック理論は、車体を仮想ショックアブソーバーを介して空中から吊り下げ、路面からの凹凸入力に対して、車輪だけが上下動し、車体の動きに対してのみ減衰力を作用させ、車体の動きを抑える

このアクティブサスペンションは、クルマのサスペンションの動きだけでなく、クルマの姿勢も任意に設定することができ、突起を乗り越えるときはあらかじめサスペンションを縮める、また、凹路面ではサスペンションを伸ばすなどの動きが可能で、凸凹を乗り越えるときでも車体はフラットに維持できる。

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ポルシェ(PASM)や日産GT-Rが採用しているビルシュタイン・アクティブ制御ダンパー
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ビルシュタインのアクティブ制御ダンパーの減衰力グラフ

またコーナリングでは、通常のクルマではカーブの外側に向かって沈み込むロールを発生するが、アクティブサスペンションを作動させることでコーナリング中でもフラット、あるいは飛行機のようにカーブ内側を沈み込ませることもできるのだ。

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マジック・ボディコントロール

現在では、メルセデス・ベンツSクラスが「マジック・ボディコントロール」を採用している。フロントガラス上部のステレオカメラで最大15m前方の路面の詳細な凹凸を検知する「ロードサーフェススキャン」を搭載し、様々なボディ側の加速度センサーなどからの情報によるドライビング状況も加味し、4輪それぞれの油圧ユニットに供給されるオイル量をコントロールしている。

これにより、油圧ユニットに組み込まれたコイルスプリングの長さを理想的な位置に修正し、連続可変ダンピングシステムと組合わせてフラットな乗り心地を実現している。

もちろん、発進、コーナリング、ブレーキング時などのロールやピッチングを抑制し、いかなる場合も平坦な道を走っているかのようにフラットな姿勢を保つのだ。

また、Sクラス・クーペは、コーナリング時に車両がコーナー内側に傾くダイナミックカーブ機能も搭載。ステレオカメラがコーナーを検知し、その曲率と車速の情報をもとに、4輪に供給されるオイル量を正確にコントロールしている。コーナー内側の車高を下げ、外側を持ち上げることで、瞬時に車両が傾き、コーナリング時でも乗員はより安定して座っていることができるのだ。

このようにダンパーの機能の発展型では、クルマのボディの姿勢を制御し、通常の乗り心地や接地性だけでなく、サスペンションが自動的に伸縮し、車体そのものをフラット化させる、究極の乗り心地を実現することができるようになっている。

減衰力を発生させるダンパーは、将来的にはこうしたボディの姿勢コントロールという領域まで機能を拡大させる可能性を持っている部品なのだ。


The Mortor Weekly

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