フォルクスワーゲン EV大量生産を支える最新バッテリー戦略の全貌

フォルクスワーゲンは2021年3月15日、ウォルフスブルグで「Power Day」を開催し、2030年までのバッテリー、充電に関するテクノロジー・ロードマップを発表しました。周知のようにフォルクスワーゲン・グループは電動化、それとどの自動車メーカーをも上回るEVの大量生産に着手しています。その大量生産されるEVを支えるバッテリー戦略が明らかになりました。

電気自動車生産のポールポジションを目指す

フォルクスワーゲンが目指すバッテリーのロードマップは、できるだけ多くの人に電気自動車が魅力的で現実的な選択肢とするために、バッテリー生産の複雑さとコストを大幅に削減することです。

ヘルベルト・ディース会長

同時に、フォルクスワーゲン・グループは、2025年以降のバッテリーセルの安定供給の確保も目指しています。ヨーロッパだけでも、2020年代の終わりまでに合計で240GWhの生産能力を備える6か所のギガファクトリーを稼働させる計画です。

この背景には、現在多くの自動車メーカーが電気自動車の生産を開始しており、バッテリーの争奪戦が発生していることと、バッテリーのコストダウンが当初の予想より減速していることがあります。つまりバッテリーの大量確保とコストダウンなくして、電気自動車の大量量産は実現することが困難であり、今回、フォルクスワーゲンは自社生産を含む大規模バッテリー生産計画を示したのです。

フォルクスワーゲンはまた、公共急速充電ネットワークのグローバルな拡大を積極的に推進しています。これは電気自動車の主要市場であるヨーロッパ、アメリカ、中国で公共送電網と直結する超高圧急速充電ネットワークを拡大し、家庭充電と送電網を結ぶスマートグリッドなど、複合的に展開する計画です。

ヨーロッパでは、エネルギー企業のBP(イギリス)、イベルドローラ(スペイン)、エネル(イタリア)と協力することで合意しています。

フォルクスワーゲン・グループの最高経営責任者ヘルベルト・ディース会長は、「電気自動車は私たちにとって中核事業となります。現在、バリューチェーンに追加すべきステージを体形的に統合しています。私たちは、ゼロエミッションモビリティの時代に、最高のバッテリーと最高のユーザーメリットを提供するというレースにおいて、 長期的にポールポジションを獲得する体制を整えています」と語っています。

グループのコンポーネンツ最高経営責任者トーマス・シュマル

このテクノロジーにおけるロードマップをグループの全ブランドで展開するのは、フォルクスワーゲン・グループのテクノロジー担当取締役であり、フォルクスワーゲン・グループのコンポーネンツ最高経営責任者(CEO)を兼任するトーマス・シュマルです。

6ヶ所のギガファクトリーで240GWhのバッテリーを生産

グループは増加するバッテリーセルの需要に対応するため、ヨーロッパでの生産能力の拡大を全力で推進しています。

トーマス・シュマルCEO「パートナーと協力して、2030年までにヨーロッパで合計6か所のセル工場を建設し、稼働させることで安定供給を実現したいと考えています」と語っています。

すべての新しい工場が 完成すると、総エネルギー量年間240GWhのバッテリーセルを生産することができる見込みです。それによりフォルクスワーゲンは、欧州連合による「グリーンディール」の目標達成に積極的に貢献することになります。

ノースボルトのギガファクトリー

最初の2つの工場は、スウェーデンのシェルレフテオーとドイツのザルツギッターで操業を開始します。フォルクスワーゲンは、需要の増加に対応して、セル生産に関するこれまでの計画を再検討した結果、ノースボルトと協力してプレミアムセルの生産をスウェーデンのシェルレフテオーに建設する「Northvolt Ett」ギガファクトリーに集約させることを決定しました。

このセルの生産は2023年に開始する予定で、生産能力は年間最大40GWhまで段階的に拡大。ノースボルト製のリチウムイオンバッテリーは現在で最も低CO2のバッテリーであり、スウェーデンでの生産はグリーン電力の確保が容易で低コストという理由からです。

内製でバッテリー生産を行なうザルツギッター工場

現在フォルクスワーゲンが運営しているザルツギッターのギガファクトリーは、2025年からボリュームセグメント向けの統一規格セルを生産し、プロセス、設計、バッテリー材料の革新技術の開発を進めます。

そしてザルツギッターでも年間最大40GWhの生産能力を確保する計画です。両方のギガファクトリーには、再生可能エネルギーによる電力が供給されます。その他の工場の建設予定地およびパートナーは、現在検討中ですが、他の2つの新工場でも各40GWhの生産ボリュームを見込んでおり、合計4工場で240GWhを実現する計画です。240GWhのバッテリー生産量とは約500万台の電気自動車のバッテリーを生産することを意味しています。

このようにフォルクスワーゲンは、バッテリーに関して、事実上の社内生産体制を構築しようとしており、同様の決断をしたテスラを除く他の自動車メーカーとはバッテリー戦略が違うことがわかります。

バッテリーコストの大幅低減

ギガファクトリーでのバッテリー生産は、バッテリーコストを大幅に低減することも狙いです。トーマス・シュマルは、「私たちはバッテリーのコストを削減し、生産の複雑さを解消すると同時に、航続距離とパフォーマンスの向上を目指しています。それにより電気自動車は手頃な価格になり、今後のパワーユニットのメインストリームになるでしょう」と語っています。

今後のフォルクスワーゲン・グループでの使用バッテリーの構成

現在計画されているバッテリーセル生産の内製化とは別に、新しい統一規格のバッテリーセルを開発することで大幅なコスト削減効果が期待されます。この新しいセルは2023年から生産を開始し、2030年にはグループ内の全ブランドの電気自動車の最大80%に搭載される予定です。

バッテリーセルのタイプを最適化し、革新的な生産方法を導入し、一貫したリサイクルを行なうことで、さらなるコストダウンが実現します。またリサイクルが成立することで、再生エネルギー電力の使用と合わせ、バッテリー生産に関するCO2の大幅低減も実現します。

エントリーセグメントの電気自動車のバッテリーコストは50%ダウンを目指す

こうしたバッテリー生産戦略により、フォルクスワーゲンはバッテリーのコストをエントリーセグメントで最大50%、ボリュームセグメントで最大30%ほど段階的に削減することを目指すとしています。

トーマス・シュマルは、「私たちはバッテリーに関しても、お客様の利益のためにスケールメリットを活用します。バッテリーシステムのコストを、平均して1kWhあたり100ユーロ(約1万3000円)を下回るレベルまで削減していきます。それにより、最終的に電気自動車は手頃な価格にすることができます」と語っています。

バリューチェーンの統合と全固体電池の開発

統一規格のバッテリーセルや、一貫して拡大する内製化に加え、グループの新しいテクノロジー・ロードマップでは、バッテリーのリユース(中古バッテリーの活用)、産業リサイクル(バッテリーの解体と材料の再抽出)に至るまでバリューチェーンの各段階を統合することにも焦点を当てています。特にバッテリーのリサイクル(都市鉱山化)により、バッテリーセルの材料の低コスト化と生産段階でのCO2の大幅削減が実現するわけです。

フォルクスワーゲンは、選定した戦略的パートナーとともに、電動化攻勢に必要なバッテリーセルを、長期的に安定供給できる体制を確保し、またコスト面でのメリットに加えて、充電容量と急速充電機能の改善にも力を入れています。

中古バッテリーを固定蓄電用に再利用
ザルツギッター工場に新設されたバッテリーリサイクル・プラント

新しいプリズマティック・ユニファイド・セル(プリズム統合型セル)は、次世代の全固体電池への移行に最適な技術です。フォルクスワーゲンは2020年代の半ば以降に全固体電池の実用化を見込んでいます。

開発中のプリズム統合型セル技術は次世代の全固体電池電池の生産技術に直結

グループは、バッテリーと充電の両分野において、戦略的パートナーシップとリソースの効率的な使用を重視し、グループは長期的な財務目標にしたがって2025年までに約6%の設備投資比率と、自動車事業における年間100億ユーロ超えの調整後ネットキャッシュフローを生み出すことを目指しています。

グローバルでの急速充電網

フォルクスワーゲンはバッテリー攻勢に合わせ、急速充電ネットワークの大規模な拡大も実施していきます。エネルギー・インフラのパートナーとともに、2025年までにヨーロッパに約1万8000か所の公共急速充電ポイントを運営することを計画しています。

これは、現在と比較して急速充電ネットワークを5倍に拡大することを意味しており、2025年にヨーロッパ大陸で予測される総需要の約3分の1に相当します。

この急速充電網は、合弁事業のIONITY(イオニティ)に加えて、戦略的パートナーシップを通じて実現します。フォルクスワーゲンはBPとともにヨーロッパ全土に約8000ヶ所の急速充電ステーションを設置する計画です。

超大出力の150kWの充電容量を備えた急速充電器の大部分は、ドイツとイギリスに合計4000ヶ所のBPおよびARALサービスステーションに整備されます。スペインでは、イベルドローラ社と協力して、主要な幹線道路をカバー。イタリアではエネル社と協力して、高速道路沿いと都市部の両方で急速充電ネットワークを整備する計画です。フォルクスワーゲンは2025年までにヨーロッパでのプログラム全体に約4億ユーロを投資し、残りの投資は外部のパートナーが負担する予定です。

もちろんアメリカと中国でも公共急速充電ネットワークを拡大しています。Electrify Americaは、年内に北米で約3500ヶ所の急速充電ポイントの設置を計画しています。中国では、CAMS合弁事業を通し、2025年までに合計1万7000ヶ所の急速充電ポイントを設置することを目標としています。

電気自動車とエネルギー網との統合

フォルクスワーゲンは将来、電気自動車を民間、商用、公共のエネルギーシステムに統合する予定です。これにより太陽光発電システムからのグリーン電力を車両に蓄え、必要に応じて家庭用電力網に供給することができるスマートグリッドが実現します。

ユーザーは公共電力網から独立した電源を持つことができるだけでなく、電気代を節約し、CO2排出量を削減することができます。フォルクスワーゲンが開発したMEBプラット フォームをベースにしたモデルは、2022年からこのテクノロジー(V2X)をサポートします。

今後主流となる150kWhの大出力の急速充電器

フォルクスワーゲンは、双方向ウォールボックスからエネルギー管理まで、すべてのモジュールとデジタルサービスを備えた完全なV2X用パッケージも提供します。このテクノロジーにより近い将来、集合住宅、企業、一般向け電力網などと電気自動車が接続可能になり、電気エネルギーが大規模に活用されることになるわけです。

V2H(ビークルtoホーム)接続

フォルクスワーゲン・グループのバッテリー戦略は、バッテリーの大規模な内製化とリサイクルシステムの追求、バッテリーの大幅なコストダウンと、次世代の全固体電池開発の推進、そして超大出力の急速充電網の拡充など、インフラ整備、そして電気自動車と電力網との統合という全方位戦略により自動車業界における覇権を確保しようというものです。

電力網インフラとの接続

この全方位戦略は、他の大手自動車メーカーにとって大きなインパクトを与えることになると予想されます。

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