この記事は2020年7月に有料配信した記事を無料公開したものです。
2020年に発売が開始されるポルシェの電気自動車スポーツカー「タイカン」は79.2kWh、または93.4kWhという大容量のリチウムイオン バッテリーを搭載。0-100km/h加速は最高で2.8秒、ベースモデルでも5.4秒という強烈な加速力を発揮する。
急速充電器の高出力化
そしてもう一つの注目点は800Vの高電圧の急速充電を採用していることで、「ポルシェ ターボチャージャー」と呼ばれる150kWの出力を持つABB社製CHAdeMO規格の急速充電では、5%の蓄電状態から80%まで急速充電するのに要する時間は24分となっている。
大容量のリチウムイオン バッテリーと、高電圧の車載システムを組み合わせることで、短い充電時間と大航続距離を実現しており、これからの電気自動車の一つの方向性を示しているということができる。
実際のところ、ヨーロッパでは今後、800Vに対応した350kW出力の超急速充電網が整備されようとしている。一方日本はどうか?
日本の急速充電のCHAdeMO(チャデモ)規格は、CHAdeMO 1.0(出力50kW 125A×500V)、CHAdeMO 1.2(出力200kW 400A×500V)、CHAdeMO 2.0(出力400kW 400A×1000V)と時代とともに規格はアップグレードされてきている。
しかし、現実には電気自動車の車両側が400V規格のため、実際に全国各地で設置されている急速充電器の大半はCHAdeMO 1.0(出力50kW 125A×500V)で、ごく一部にCHAdeMO 1.2(出力200kW 400A×500V)が設置されている。そのためABB社製の「ポルシェ ターボチャージャー」もCHAdeMO 1.2の規格に合わせている。
またCHAdeMO 1.2に対応できるのは、ポルシェ以外では日産リーフ+のみで、テスラもCHAdeMOアダプターを使用するので日本での充電時は50kWまで。I-PACE、メルセデス・ベンツEQCなどの大容量電池搭載車でも急速充電はCHAdeMO 1.0対応となっているのが現実だ。
ただ、ヨーロッパでの急速充電器の高出力化の流れと、日本におけるCHAdeMOでの規格のアップデートにより、電気自動車が搭載するバッテリー容量の増大に合わせた対応は進んでいるといえる。
各国の急速充電規格
日本においては、2010年春に将来的な電気自動車普及のために、トヨタ、日産、三菱、富士重工、東京電力の5社が幹事会社となりCHAdeMO協議会が設立され、急速充電の規格化を行なうなど、時代を先取りしている。
その一方で、2010年秋にはアウディ、BMW、ダイムラー、ポルシェ、フォルクスワーゲンの5メーカーが集まり、電気自動車の充電コネクターモジュールの規格を統合することで合意。そして2011年にドイツ技術者協会が主催する国際大会で、ドイツ自動車メーカー5社が合意した「統合充電システム」が発表された。これがユーロコンボ(CCS2)だ。
一方、アメリカの自動車メーカーは同時期にUSコンボ(CCS1)を規格化している。ただ、テスラは独自の急速充電システムを採用しており、アダプターを介しての互換化を行なっている。
さらにその後、電気自動車大国となる中国はGB/T規格を採用するなど、世界の各地域で統一規格とはなっていない。ただし、それでは電気自動車メーカーも不都合なため、アダプターを使用し互換性を確保している。実際、現在のヨーロッパの急速充電スタンドの多くは1基の急速充電器から、ユーロコンボ(CCS2)用と、CHAdeMO用の充電ケーブルの2本が取り付けられ、どちらでも利用できるようになっている。
しかし電動化を急ぐヨーロッパは、ユーロコンボ(CCS2)を前提としながら、急速充電器の高出力化を目指しており、少なくとも現時点では350kWという高出力の急速充電網を今後展開しようとしている。
こうした背景の中で、2018年8には、日本のCHAdeMO協議会と中国の電力企業連合会との間で日本/中国の次世代の規格制定に向けて覚書が締結されている。その後、日本政府と中国政府による第三国への普及拡大に向けた覚書が締結され、2019年には日本とインド政府間で、インドにおける急速充電器普及への協力について覚書が締結され、アジア発の次世代急速充電規格が生まれるバックグラウンドが作られたわけだ。
そして、日本と中国との共同の新規格の技術開発が行なわれ、この超急速充電のネーミングは、当初は「新 GB/T」とされていたが、その後、日中間で協議した結果、新しい呼称は「ChaoJi(チャオジ)」と決定された。
この日中の新規格の開発にあたっては、日本、中国の自動車メーカー、GM、ヨーロッパの自動車メーカー、さらに各国の目がサプライヤーなど多くの企業も参画しているが、あくまでメインは日本と中国である。
そして2020年4月に、CHAdeMOは次世代超高出力充電規格(チャオジ)を日本ではCHAdeMO 3.0として発行した。
2020年6月19日にはチャオジの日中合同イベントを開催した。もちろん本来は双方のメンバーが出席してのイベントになる予定であったが、新型コロナウイルスの影響を考慮し、日中の会場を通信回線で結んでのオンライン イベントになった。
イベントでは、中国電力企業連合会と日本のCHAdeMO協議会が共同で次世代規格の仕様の発表と、今後の活動計画などが紹介されている。
チャオジ=CHAdeMO 3.0
チャオジ規格は、なんと出力900kW(600A×1500V)に対応している。しかも、こうした大出力に対応しているにも関わらず、コネクター部は従来より遥かにコンパクトで、接続ケーブルの径も小さくなっている。
その理由は接続ケーブルの中を液冷として、コネクター部のピンとなる部分の冷却が可能になったっているからだ。また、これまで急速充電器のガンコネクター側にロック機構を装備していたが、このチャオジ規格では車体側に移している。このため、ガンコネクター形状が小さくなっており、接続ケーブルが細径化していることと合わせ、実際の接続時の取り回し、扱いやすさが格段に向上している。
もうひとつの大きな特長は単に電気自動車への急速充電だけでなくV2X給電にも対応していることで、従来の急速充電器より発展性も備えられている。
ただ、いずれにしても現状の電気自動車に900kWといった大出力の急速充電が必要かといえば、まだ現状の電気自動車はその域に達しておらず不要である。
ではなぜこうした大出力の新規格となったのか。それは中国における大型トラック、バス、建設機械など電動化に余裕を持って対応できるようにしているからだ。
大型トラックや大型バスは乗用車EVに比べはるかに大容量のバッテリーを搭載することが想定され、その大容量バッテリーを短時間で急速充電するために、高出力化がはかられているのだ。
なおチャオジは、新世代の急速充電規格を意味するが、実際の運用にあたっては、中国ではGM/Tアダプター、日本ではCHAdeMOアダプターを使用することで既存インフラとの共存を行なう。そのため、日本ではチャオジ/CHAdeMOアダプターを統合してCHAdeMO 3.0と呼称し、上位互換システムと位置づけられている。
また、この新規格は将来的にはユーロコンボ(CCS2 )との統合規格化のためにヨーロッパ側への呼びかけも行なわれるが、ヨーロッパ側の方針は明確にはなっていない。
なおCHAdeMO 3.0の速充電器は液冷システムのため、急速充電器側にはラジエーターが必要になる。また最高出力が大きいため、専用の高圧受電設備も必要となり、かなり大型で、高価となることが予想される。
しかし、必ずしも新しい急速充電器がすべて出力900kWに対応する必要があるわけではないので、CHAdeMO 3.0規格ながら、より低出力の急速充電器もラインアップされることになるはずだ。
中国ではこの新規格の急速充電器は2022年ころには製品化が開始される予定としている。それは大型EVトラック、EVバスに対応するためだ。
日本では2022年以降で製品化が始まり、電気自動車の大幅な普及期とされる2030年には本格的な導入が始まると予想している。
いずれにしても、こうした大出力の急速充電器であれば、EV乗用車ならほぼゼロ状態から15分程度で80%充電が実現することになり、電気自動車の充電時間に関する課題はあまり問題にならなくなることが予想される。