この記事は2019年6月に有料配信したものを無料公開したものです。
フォルクスワーゲンは、2019年5月に開催された「第40回ウイーン国際エンジン・シンポジウム」で、同社が開発した電気自動車用モジュラー・プラットフォーム「モジュラー エレクトリック ドライブ マトリックス(MEB)」の詳細と、より幅広い車両ラインアップの電動化技術「48Vマイルドハイブリッド」技術を発表した。
48Vマイルドハイブリッド概要
48V電圧を使用するマイルドハイブリッド技術は、すでにボッシュ、ヴァレオ、コンチネンタル、シェフラーなどを始めとするサプライヤーから発表され、このハイブリッド・システムの主要コンポーネンツの量産もスタンバイしている。
48Vマイルハイブリッドは、発電と駆動アシストを兼用するISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)、DC-DCコンバーターと制御用ECU、小型のリチウムイオン・バッテリーで構成される。
ISGの搭載場所は通常のエンジンの場合、オルタネーターの位置、エンジン後端、エンジンとトランスミッションの間にサンドイッチ状に配置、そしてリヤ・デフ部に配置など様々な配置方法がある。つまり既存のエンジン駆動システムに適合させやすいシステムになっている。
低コストが必須要件
システムは、小型のリチウムイオン・バッテリーに蓄えられた電力をISGに流すことでエンジンを始動し、加速時にはエンジンをアシストする駆動力を短時間発生する。そして減速時にはISGは発電機として作動し、発生した電力をリチウムイオン・バッテリーに送り込む。つまり減速エネルギーを回生し、回生電力を生かして駆動アシストを行ない、駆動アシスト分だけエンジンの負荷を減らし、結果的に燃費を向上させることができるシステムだ。
国産車では12V電圧のマイルドハイブリッドが存在するが、48V電圧のほうがより大きな回生、駆動力を生み出すことができ、効率が良いとされる。また自動車用として48V電源を使用するというコンセプトは、2011年にフォルクスワーゲン、ポルシェ、アウディ、ダイムラー、BMWなどドイツのメーカーにより48Vの電源規格であるLV148が決められたことに端を発している。
トヨタを筆頭にしたハイブリッド(ストロング・ハイブリッド)車は250V〜300Vの電圧を使用するため、「高電圧」ハイブリッドとも呼ばれる。そのため、電装品、配線類は高電圧に対応した仕様が求められる。これに対して48V規格は「低電圧」の扱いになり、電装品、配線類は低電圧用の仕様で、より低コスト化できることもメリットだ。
48Vシステムの普及期
さらに48V電源系を採用することで、ISG(マイルドハイブリッド)以外に、電動スーパーチャージャー、電動可変スタビライザー、電動可変車高調整システムなどに使用されるモーターも48V化により出力を大きくできるなどの用途も想定されている。
このため主として欧州の自動車メーカーを対象に、欧州系サプライヤーが48Vマイルドハイブリッド・システムを開発し、既存のエンジン搭載車に組み合わせることで低コストにハイブリッド化が実現し、燃費向上効果も期待できる。
しかし、48Vマイルドハイブリッドのコンセプトは発表されてから、量産モデルに搭載されるまでかなり時間を要したのは、やはりリチウムイオン・バッテリーに課題があったからだ。マイルドハイブリッドに使用するバッテリーは小容量で済むのだが、48Vマイルドハイブリッド・システム全体がローコストでなければならない。なぜなら既存のエンジン搭載車に付加するシステムのため、車両価格の高価格化は難しいからだ。
これまではリチウムイオン・バッテリーの価格が依然として高く、システムの価格を押し上げていた。しかし2018年以降でようやくバッテリーの価格が妥当なレベルになり、メルセデス・ベンツ、アウディなどの上級モデルに48Vシステムが搭載され市販化されるようになったという経緯がある。
1.5 TSI Evoエンジンに採用
フォルクスワーゲンは、以前から48Vマイルドハイブリッドを採用する構想を打ち出していたが、今回のウイーン国際エンジン・シンポジウムで、量産モデルに採用することを明らかにした。
フォルクスワーゲンの電気駆動システムのポートフォリオは、マイルドハイブリッドのような部分的に電動化された車両から、新たに開発した専用プラットフォーム、MEBをベースにした電気自動車まで幅広くラインアップするとしている。
48Vマイルドハイブリッドシステムは、ガソリンエンジンの1.5L・TSI Evoと組み合わせると発表している。つまりゴルフ・クラスへの投入を意味している。これまで発電用のオルタネーターを設置していた場所に、ベルト駆動式のスターター・ジェネレーター(BSG)を搭載し、48V電力を供給する。BSGはブレーキ・エネルギーの回収し、つまり回生によりBSGは車両の運動エネルギーの一部を 電気に変えるオルタネーターとして機能し、回生エネルギーは、助手席の下に設置した48Vリチウムイオン・バッテリーに電気エネルギーとして蓄えられる。
この電気エネルギーは、出力時にBSGに供給され、TSIエンジンの駆動力をアシストする。またBSGは、TSIエンジンの始動時にスターターモーターとしての役割も果たす。これにより、始動音も通常のスターターモーターよりはるかに静粛になる。
このマイルドハイブリッドは、走行中の燃費を低減させるためにエコ・コースティング機能も備えているのが特長だ。このモードでは、走行中にアクセルを閉じるとエンジンを停止し、車両を「コースティング(惰性走行)」させることで排ガスはゼロにすることができる。
なお、このマイルドハイブリッドで100km走行あたり0.4L(0.004km/L)の燃費低減効果が得られる。48Vの電装ネットワークと車載の電装品に電気を供給している12V電装系統には48Vの電圧を12Vに変換するDC/DCコンバーターで接続されている。
MEBと自動運転への道
フォルクスワーゲンは、CO2排出量を大幅に削減するためには、バッテリー式電気自動車(BEV)を広範囲に普及させる戦略だ。この戦略を実現するために電気自動車用のプラットフォーム「モジュラー エレクトリック ドライブ マトリックス(MEB)」が開発された。
MEBは、次世代の電気自動車の基盤になるプラットフォームで、主な特長は、高電圧バッテリー(ボディのフロア面に搭載することでスペースを節約)と、リヤアクスル、4輪駆動モデルの場合はフロントアクスルにも搭載されるコンパクトな電気駆動システム、そして、急速充電用の標準のCCS(コンバインド・チャージングシステム:ヨーロッパの急速充電規格)だ。もちろん日本に導入される時にはCHAdeMO規格に変更されるはずだ。
さらにMEBは、新しいモビリティサービスやドライバー支援システムを構築するために用いられる電子プラットフォームとOSである「vw.OS」に加え、まったく新しいエンドツーエンド(E2E)のオールエレクトリック「E3」と呼ばれる電子アーキテクチャーのベース基盤も形成されているという。
言い換えれば、フォルクスワーゲンは純粋な自動車メーカーからモビリティ・プロバイダーへと進化することも想定済みで、さらに自動運転に必要な技術もこうした電子プラットフォームの上に構築されるとしている。
VWの技術の象徴
MEBのリヤアクスルに搭載するプライマリー・ドライブシステムは、電気駆動システムの大規模な量産を実現するため、フォルクスワーゲンが取り組んでいる技術の象徴だ。この電気駆動ユニットは、高電力密度と高い効率が特長で、1万6000rpmまでの幅広い回転域で安定したパフォーマンスを生み出す永久磁石同期型モーターを採用している。
MEBプラットフォームを採用して最初に生産されるクルマが「ID.3(アイディ.スリー)」となる。このクルマは、330〜550km(WLTP)の航続距離、150kWの出力、そして、160km/hの最高速度を実現し、当然ながら走行時にエミッションを排出しない。この「ID.3」はすでにヨーロッパでの予約発注が行なわれている。
ドライバー支援システムの進化
フォルクスワーゲンは、20年以上前にドライバー支援機能の開発を始め、現在では「IQ.ドライブ」という名称の下で、車両の前後および左右方向の制御をカバーできる多様なドライバー支援システムを実現している。
これらのシステムは、自動運転、そして最終的には無人走行につながる第一歩になるという位置づけだ。将来的に自動運転は、高速道路や立体駐車場など、さまざまな場面で活躍することが想定され、今後発売されるクルマは、より高レベルのシステムが搭載されていく。
現在のレベル2(部分的な運転支援)からレベル3、レベル4への飛躍には、技術開発、法整備、倫理的問題の観点など、さまざまな課題があることは周知の事実だ。レベル3以上での運転時の責任が、ドライバーから自動運転機能(一時的であったとしても)に移行することに対して明快な道筋が明らかになれば、クルマへの装備は一挙に進むことになる。