ZFのCEOシュテファン・ゾンマー博士は以前から、クルマの電動化と自動運転には、革新的なアクティブとパッシブセーフティ・テクノロジーが必要だと明言しており、2017年のIAAフランクフルトモーターショーでは、近未来の乗り物として注目される小型モビリティへの乗員保護システムへの参画とZF独自の革新的なインテリアを発表した。
■超小型モビリティ用安全装備
メガシティ化が進む中、交通渋滞や大気環境もそれにつられて悪化していくことが予測され、それらの問題を技術で解決する研究をZFでは行なっている。そのメガシティ化された未来の都市では、インフラとしての乗り物はEV化され、またカーシェアリングの普及、そしてパーソナルな移動手段としては超小型モビリティの存在が必要になってくるとされている。
欧州ではこうした電動の小型モビリティをLEM(ライトウエイト・エレクトロ・モービル)あるいはクワッド・サイクルという呼び名で、開発が進められ、特にニーズが最も高いのが「L7e」と呼ばれる最高出力15kW、最大重量400kgというヨーロッパ規格の超小型モビリティだ。
一方でZFは、これらの超小型モビリティによる短距離移動を検証するEU主導の「プロジェクト・ベヒクル」では、ZFの得意分野である、乗員保護分野におけるパートナーとして参画した。ちなみに、「ベヒクル」とはベスト・イン・クラス・ビークル(Best in-class Vehicle):クラス最高のクルマを意味する欧州規格の超小型モビリティだ。
実際にこれら超小型モビリティは、ラスト・ワンマイルの乗り物として各社が実証実験を開始しているが、乗員保護という点では十分な開発が進んでいないのが現実だ。これまでユーロNCAPで2つ星を超える評価を獲得したモデルはないという状況なのだ。
今回開発する3人乗り電気自動車「BEHICLE」にZFは、新しい4点式シートベルトとエアバッグシステムの開発と搭載、およびシミュレーションやテストなどを担当し、このカテゴリーで初めて、ユーロNCAPで5つ星の獲得を目指して設計している。
このプロジェクトでは、乗員保護分野におけるZFの知見を活かし、このクラスで初めて、ユーロNCAPでの最高評価獲得が可能なシステムを開発した、とZFの副社長兼乗員保護システム事業部のジェネラルマネージャー、ミハエル・ビューフスナー博士は語っている。また、BEHICLEのような新しい車両コンセプトやソリューションの開発もZFの「ビジョン・ゼロ」には含まれているということも話している。
■ZFの知見から誕生した専用装備
具体的に提供した技術では、BEHICLEの特徴である中央に位置する運転席やBピラーレスの構造は、乗員保護システムの設計にあたって大きな課題であり、ZFは、4点式シートベルトとカーテンおよびサイドエアバッグを特別設計してこの課題を解決している。
4点式シートベルトは、通常の3点式よりも事故の際の保護性能は向上する。そのため、テンショナーとベルトフォースリミッターを統合した2つのリトラクターが、BEHICLEのリヤルーフに取り付けるという専用設計をしている。
また、左右2つのタングプレート(差し込み側)は運転者の頭上から前方外側に突き出すため、ヘッドライナーから簡単に引き出すことができるという。そして運転席の左右に取り付けられたバックルは、照明によって見つけやすい工夫がされている。また、DLT(ダイナミック・ロック・タング)と呼ばれる量産システムの採用によって、事故発生時、乗員の胸部や肩にかかる拘束力を骨盤周辺よりも下げ、シートベルトによる怪我を防止する機能も備えている。
さらにZFの新型サイドエアバッグ(SABs)をBEHICLEではアルミのドアビームに取り付けている。BEHICLEは運転席が中央に位置するため、SABはドアとドライバーが通常のクルマよりも離れていることと、シートに合わせて長さを調整しないという要素も考慮に入れて設計されている。
さらにAおよびCピラーに装備された外部保持ストラップ付のカーテンエアバッグ(CAB)は、側面衝突時における効果的な乗員保護を行なうというものだ。
■戦略的パートナーシップからの産出
2017年5月に世界6位のグローバル自動車部品サプライヤーのフォルシアと戦略的パートナーシップを結んだことはお伝えしたが、この時、ZFのゾンマー博士は「ネットワーク化されたエコシステムはシリコンバレーだけのものではありません。パリ(フォルシア)とフリードリッヒスハーフェン(ZF)間においてもエコシステム哲学の適用によって、ZFとフォルシアは世界中のお客さまに革新的なソリューションをご提供できると信じています」と語っている。
つまり、資本関係を含まずとも企業間ネットワークを強化することができ、かつ高効率なウイン・ウイン関係が構築できると説明している。
この戦略的パートナーシップの締結からわずか4か月で、革新的なそして、新しいコンセプトのシートを発表した。しかも「コックピット2025」を掲げ、運転支援機能から完全自動運転へとシフトする過渡期において、どういった開発が必要とされるのかというヒントまで含む発表がされたのだ。
発表ではZFとフォルシアとの提携によって、運転支援から自動運転のレベル3、レベル4さらにレベル5とクルマの機能が進化する過程に対応できる「コックピット2025」の開発を目的とし、衝突安全を含む変化する車室内ニーズに対応することを提案した。
■レベル3、4自動運転用インテリアとは
提案する新しい運転席は、運転時、リラックス時、および(運転以外の)作業時の3つの体勢に対応するものだ。作業時は、シートがわずかに車室内中央に回転し、最大で後方に25度、車室内側に10度傾斜する。
このようなポジションを実現するため、シートバックは2つのパーツに分割されている。シートベルトの取り付け位置はシートと一体化されており、衝突時の体勢に対応して最善なポジションになるように設計している。またポジション変更の際には、肩付近にあるベルト取り付け位置が自動的にドライバーの姿勢に合わせて移動するという。
シートベルトシステムはヒューマン・マシン・インターフェイス(HMI)の一部としても機能するという。必要時には「アクティブ・コントロール・リトラクター(ACR)8」が振動などの信号を送り、前方道路への注意や運転操作を促す。つまり、運転をドライバーへ戻すことを知らせるきっかけを意味している。
レベル3からは一部ドライバーの監視義務がなくなり、ドライバーは運転から解放される。だが、クルマが自動操縦をできなくなる状況では、運転をドライバーに戻したい。その通知手段をどうすべきか?各社アイディアを絞っている最中で、ZF/フォルシアではシートベルトの振動という手法をひとつ提案している。
AUTO PROVEでも6月のプレスイベントで、「ビジョン・ゼロヴィークル」でこのシートベルトの振動を体験しているが、非常に分かりやすく、不快にも感じないで運転操作に戻れたことを記憶している。
この新しいドライバーズシートは、衝突時に運転者の肩や頭部を守る新しいタイプのサイドエアバッグもシートに内蔵している。特に運転席の反対側から起こった衝突の際、ドライバーの頭部と首を保護するのに役立つ。さらに、運転席のシートバックに内蔵されたエアバッグが後席の乗員を保護するのにも役立つようになっている。
電動化と自動運転というモビリティの変化にともない、必要とされるソリューションも数多くある。また、過渡期であることからも、その変化には常に敏感で的確なものが提供されなければならず、ZFから提供されるさまざまなソリューションには今後も大注目だ。