グローバル・サプライヤーのZFは2023年2月1日、パワー半導体のシリコンカーバイド(SiC)技術で世界をリードするWolfspeed(ウルフスピード)との次世代モビリティを実現するための戦略的パートナーシップ締結を発表した。このパートナーシップは、モビリティ、産業、エネルギー用途向けシリコンカーバイド・システムおよびデバイスの進化を推進する、共同イノベーションラボの建設を含んでいる。
アメリカ・ノースカロライナ州を拠点にしているウルフスピードは、能力増強へ65億ドルを投じる計画を発表しており、今回の投資もその一環で、これからの電気自動車の性能向上、航続距離の伸延に不可欠とされるSiCパワー半導体では世界No.1のポジションを確立しつつある。
なおウルフスピードは、2023年初めにメルセデス・ベンツと供給契約を結んだほか、ジャガー・ランドローバーとも供給契約を結んでおり、ヨーロッパの需要を満たすのに工場進出が必要と考えたわけだ。なおウルフスピードの投資全体で生産能力は10倍以上に拡大するとされている。
ZFとの共同イノベーションラボとウルフスピードのデバイス製造工場計画はともに、マイクロエレクトロニクスと通信技術のフレームワークのための「欧州共通利益の重要なプロジェクト(IPCEI:Important Projects of Common European Interest)」の一部として位置付けられており、欧州委員会の補助金も受けて着工される予定だ。
新拠点の予定地は西部ザールラント州のエンスドルフ火力石炭発電所の跡地だ。このコラボレーションは、チップから完全なインバーター・システムまでのバリューチェーンを網羅する、シリコンカーバイドのシステム、製品、用途の画期的なイノベーションを開発することが目的だ。このコラボレーションには、さらなるパートナーも参画し、ヨーロッパにおいてドイツを拠点としたエンドツーエンドのシリコンカーバイド・イノベーションネットワークを構築しようとしている。
建設される工場は、完全自動化された高度な200mmウェハー製造工場だ。ZFはウルフスピードの普通株式取得による数億ドル規模の投資を行ない、新工場建設を支援する。この投資により、ZFは当該工場の少数株主となるが、新工場全体の運用および管理権限はウルフスピードに帰属する。両社は、シリコンカーバイド・インバーターを用いた業界をリードする高効率電動コンポ開発のための戦略的パートナーシップを2019年に発表しているが、今回の新しい取り組みにより両社の次世代向けの技術開発と生産でグローバル規模のリーダーシップを取ることを目指しているといえる。
新工場の立地お披露目会にはドイツのオラフ・ショルツ首相も出席しており、ドイツ政府も重視するプロジェクトであることを物語っている。
ZFのCEOのホルガー・クライン博士は、「これらの取組みは、順調な産業の変革に向けた大きな前進です。ヨーロッパの供給回復力を強化し、同時に欧州グリーンディールとデジタル化の10年(Digital Decade)戦略目標を後押しするでしょう」と語っている。
またZFのシュテファン・フォン・シュックマン取締役会メンバーの以下のように語っている。
「ウルフスピードとZFは、パワーエレクトロニクスとシステムのアプリケーションに関する業界で類を見ない専門知識を組み合わせていきます。ウルフスピードには35年以上にわたるシリコンカーバイド技術があり、ZFには乗用車、商用車から建設機器、風力発電、産業用途まで、あらゆる分野のシステム全体の深い知見があります。製造工場と研究開発センターの緊密な協力により、最先端技術を超越する、画期的なイノベーションをお客様の利益のために開発することができます」
ウルフスピードのグレッグ・ロウCEOのコメント
「私たちは強力なパートナーを見つけました。ZFは電動モビリティ向け部品の量産化において業界をリードし、シリコンカーバイド・システムとパワーデバイスのイノベーションを加速させる知見をもたらすでしょう。このパートナーシップは、シリコンカーバイド半導体技術を新たなレベルの世界的影響力へと引き上げ、あらゆる業界の持続可能性と効率性の向上を後押しすると確信しています」
なお、日本においてはシリコンカーバイド製のパワー半導体の量産化はデンソーなどが試みているものの、現時点では大量生産の見通しは立っていないのが懸念される。