次世代モビリティは電動化に向けて加速しているが、自動車メーカーだけにとどまらず、システムを提供するティア1もE-モビリティへとシフトしている。2019年9月に開催されたドイツ・フランクフルトモーターショー取材のあと、ZFのE-モビリティ開発の本拠地シュバインフルトを訪問し、ZFのE-モビリティについて取材をしてきた。
E-モビリティ開発の拠点
欧州、中国を中心に電動化が声高に伝わり、フランクフルトモーターショー2019の会場周辺では、モーターショー開催に対する反対デモも行なわれるほどICEが悪者扱いになってきている。そうしたモビリティの変化は電動化へと突き進み、フォルクスワーゲンを始めドイツメーカーは電動化された多くのモビリティを展示していた。
そして訪れたシュバインフルトはフランクフルトから東へ200kmほど離れた場所で、かつてSACHS(ザックス)の開発拠点としていた街だ。それを欧州に拡散していたE-モビリティ開発チームを近年シュバインフルトに集約し、開発から製造までを担う拠点へと変更している。
かつてSACHSの工場があった場所は、現在博物館になっており、120年に及ぶSACHSの歴史を見ることができる。
さて、シュバインフルトでは、Udo Niehaus(ウド・ニーハウス)氏がZFのE-モビリティについてプレンゼンテーションをした。
開発のメジャートピックス
シュバインフルトの街には全部で9本のビルがZFのE-モビリティ関連となっていて、都市における将来のモビリティ、次世代モビリティとはどんなものか? バイク(自転車)や、ロボタクシー、バス、トラックなど、すべてのマーケットにフォーカスした開発が行なわれている。
開発領域としては、電動ドライブのシステム開発、バッテリーによる電動ドライブ、FC(水素)による電動ドライブ開発を中心に行なっており、BEV用のモーター製造工場もこのシュバインフルトにある。
次世代モビリティに要求される技術的なメジャーなトピックスを整理すると
- 車両のモーションコントロール
- 統合安全システム
- 自律走行と5Gによる常時接続
- E-モビリティ
といった領域になると説明している。そして各領域にまたがりZFでは乗用車に限らず、農業機器や建設機器、トラック、バスなどのロジスティックスへも環境性能が高いものを提供する姿勢だ。
各国の環境規制
2018年末EUが発表したCO2の排出量を企業平均で60gとしたニュースが示すように、ICEの燃焼効率を上げていっても到達できない数値が掲げられた。そのためEV化がより加速しているわけだが、ZFではそうした背景もあり「ビジョンゼロ」を掲げている。交通事故ゼロ、CO2排出ゼロだ。
フランクフルトモーターショー2019のZFブースは「safety」と「CO2」に展示物を分けて展示していたのは、こうした理由からでもある。ZFの提供するソリューション、システム、アプリケーションによって、安全で、CO2ゼロ社会を目指すというメッセージになる。こうした目標に対してMobility Life Balanceというキャンペーンを行ない、生活の中でのモビリティ依存バランスを見直すきっかけとしている。
さて、こうした環境規制に対しICEでは解決できないため、モーターを組み合わせた戦略が練られている。それがプラグインハイブリッド(PHEV)とバッテリーEV(BEV)というパワートレーンになる。
こうしたモデルの成長率は著しく高くグローバルで右肩上がりになっており、中国や欧州、アメリカでも伸びている状況だ。そうした中、ノルウェーも驚異的に伸ばしているが、やはり政府からの補助金の影響が大きく、例えばe-ゴルフとガソリンのゴルフでは車両価格が約€1万の差があるが、その差分をノルウェー政府が負担し、ガソリン車と同じ価格で購入できるそうだ。
一方、日本はZFの資料によれば-6%の成長率だという。ウド・ニーハウス氏は「日本はとても保守的であり、かつ次世代ハイブリッドやEV車の新しい技術を待っている傾向があり、とても慎重になっている。それが世界市場との違う特別な理由だ」と説明している。
実際には日産リーフ1本という状況や、集合住宅による充電インフラの問題もあり、必ずしも次世代技術を待っているとは言えないと思うが、保守的であるのは同じ日本人として理解できる。
こうした状況下で、現在のPHEV、EVの保有台数を見ると、中国はダントツの2,243万台、欧州全体で1,350万台、日本は26万台であり、日本はもっとEV化への積極姿勢があってもいいのかもしれない。
根本的な変化
こうしたEV化へのトレンドは自動車産業の根本的な変化が起きていることもある。それは電動化されることで、シェアモビリティがうまれ、自動運転が始まり、常時接続があることは全てが関連し合うことなので、企業間の繋がりも変化していくことを意味している。
モビリティの行動変化、高度な技術の普及、新しい競争と協力、変化する市場と収益プール、そしてデジタル化された製品とそのプロセスという領域で、従来の自動車産業とは違った繋がりが生まれているわけだ。
中でもマイクロモビリティでは自動車産業以外からのマーケットへの進出があり、新しいプレーヤーが自律走行の分野で進出してくることが予想されている。それはMaaSにおけるさまざまなサービスの登場がきっかけにあるだろう。
企業には間違いなく新しいアイディアが必要となり、ZFではそうしたことから協力していく姿勢であることも説明している。
ZFのE-モビリティ
さて、こうしたマーケットの変化に対し、カーメーカーも変化するわけで、ZFが提供できるE-モビリティについてまとめておこう。
- アクセルドライブモーター、インバーター、減速機
- 電動化システム
- クルマとドライバーのコミュニケーションとなるインターフェイス
- 電動化されたトラクションドライブ
- システムハウスとしての能力
- そしてアジアパシフィックもカバーしていること
特にE-モビリティはドイツのシュバインフルト、中国の杭州、チェコのクラーシュテレツ、そして最も新しいスペイン・セルビアのバンチェボに生産拠点があり、またZFジャパンではシリコンカーバイドやIGBTの研究開発を行なっている。
歴史的には2008年のメルセデス・ベンツS400に搭載したハイブリッドシステムがあり、第2世代の8速ATを2009年にBMWへ提供。それとは別にアウディにも提供し、2012年にフォルクスワーゲンへハイブリッド、デュアルクラッチハイブリッド、そしてピエヒ氏が主導した1Lカー「XL1」への技術提供などがある。
その後SUVではランドローバー、2018年にボルボ、2019年にメルセデス・ベンツのEQCに2モーターシステムをシュバインフルトから提供している。コンベンショナルなドライブラインからハイブリッドドライブラインへ変わり、システム、パーツの提供はどんどん拡大しているのだ。
CO2削減ドライブライン
EU2030年目標の60gを達成するには電動化は必須であり、それでもZFは、コンベンショナルなICEには高効率なトランスミッションを提供することで、削減へのサポートができる。そしてハイブリッドモジュールがあり、BEVのモーター&PCUが揃えられている。
現在のポートフォリオとしてバス・トラック用にはAVE-130-システムがあり、底床のフルフラットな電動シャシーがあり、中・小型トラックにはCeTraxというモーターシステムがある。そして大型トラック用にはTraXon Hybridがあり、従来比7%以上の燃費節約に貢献するとしている。
また、2018年にリリースした15ED35Aは電動車用モーターモジュールで、150kWの出力があり、メルセデス・ベンツのEQCに搭載している。EQCではこのモーター2機を前後に搭載し、低負荷ではフロントモーター駆動で、高負荷時にはリヤモーターも駆動する4MATICになっている。
またこの15ED35Aは2022年にはPCU(パワーコントロールユニット)の新型改良により180kWまで出力をアップすることができるようになる。そして、2023年には第4世代となる800Vで250kWのモーターを予定しており、その開発はすでにスタートしているという。
2021年には出力抑え、小型軽量化した10ED21Pのリリースを予定している。100kWの出力だがわずか55kgの重量で、スモールカーからコンパクトカーに搭載でき、2機搭載することでAWDとしての展開も可能になる。ちなみに、前述の15ED35Aの重量は120kgだ。
プラグインハイブリッドでは、フランクフルトモーターショー2019でワールドプレミアした第4世代となる8速ATにモーター、インバーターを内蔵した8HPのハイブリッドトランスミッションEVPlusがある。これは2022年から市場投入の予定で、125kWの出力で、220Vから420Vまで対応する。
一方、48Vマイルドハイブリッドも2022年に予定している。これは22kWの出力で36Vから52Vに対応し、180Nmのトルクを発揮する。SUVやラグジュアリーカー、C&Dセグメントサイズ向けが想定されている。
それとすでに2017年にリリースしている縦置き用のハイブリッドモジュールで、コンパクトなモジュールはエンジンとミッションの間に設置する設計だ。95kW/400NmでアウディQ7やポルシェ918に採用されている。
そして未来のソリューションとして2速減速の電動ドライブがある。最高速度が上り、全速度域で最大トルクを発揮できる環境が作れるようになるわけだ。こちらは2023年登場を予定している。
同様に800Vのパワーコントロールユニットのリリースを2022年に予定しており、SiC(シリコンカーバイド)の半導体を使ったユニットになる。従来のIGBTと比較して航続距離は107%に延長でき、より効率的になっていく。
他にもフォーミュラEに参戦したことによるモーター、PCU開発へのフィードバックが多数あり、シーズン5ではベンチューリとHWAの2チーム4台がZFのE-ドイラブシステムでレースに参戦していた。
こうした多くのソリューション、アプリケーションを自動車メーカー以外のサードパーティにも提供することでビジョンゼロに向けて加速させ、生活の中でのモビリティのバランスも考え直すきっかけになっていくかもしれない。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>