100年に1度の自動車産業大変革期と言われている今、カーメーカーだけではなく、技術やパーツ、システムなどを供給するサプライヤーも大変革時代を迎えている。そこで、世界のトップ5に数えられるZF(ゼットエフ)の取り組みについて、ZFジャパンの研究開発部門責任者ロバート・サイドラー氏に話を伺った。
ZFソリューションの関連付け
クルマに詳しい人であればよく知っていると思うが、多くのプレミアムモデルに採用されているZF製のトランスミッションは有名だ。世界中の高級車に採用されてきた歴史があり、例えばBMWやアストンマーティン、ロールス・ロイス、ベントレー、ジャガーなどなどだ。
そのZFの創立はツッペリン飛行船に由来し、エンジンやドライブラインに特化した企業をつくることからスタートしている。その後もZFの技術はシャシーやドライブラインの分野で革新をつづけているが、近年、加速度的に世の中には変化が起こり、カーメーカーを始め自動車産業全体が変化の時代を迎えているわけだ。
ZFではドライブラインやシャシーだけでなく、求められる技術の変化をいち早く取り入れるために、他分野における専門企業の吸収や合併を行ない、急成長を遂げている。とくにSACHS(ザックス)の買収ではサスペンション、シャシーコンポーネンツに事業は広がり、近年ではTRWの買収が記憶に新しい。TRW(ティーアールダブリュ)とはパワーステアリングシステム以外で競合する分野がない、つまり、得意分野が拡大する合併となり、2015年には4兆円を超える売上高となる巨大企業に成長している。インタビューに答えてくれたロバート・サイドラー氏も「まさに歯車が噛み合った買収だった」と言っている。
そのZFが今取り組んでいることは、これまで持っている技術やノウハウなどのソリューションを統合していくことであり、ZFの強みを活かしながら「Next Generation Mobility」を掲げている。それは自動で、快適で、誰にでも手が届く、クリーンで安全なモビリティを世界中すべての人に届けることを指し、これがZFのミッションであり、ビジョンでもある。
Next Generation Mobilityを推し進めるために
このNext Generation Mobilityにおける具体的なものは、4つの技術領域にわけて考えている。それは車両制御、統合安全、自動運転、そしてE-Mobilityの4分野で、車両制御を英語では、vehicle motion controlとしている。これをvehicle motion dynamicsとしている企業もあるが、ダイナミクスは動的なものを制御するという意味であり、コントロールでは動的、静的両方をカバーするという意味からZFはコントロールという用語を使っている。
2つ目の統合安全は、事故を未然に防ぐアクティブセーフティ、また被害を軽減するパッシブセーフティの分野を指し、そして3つ目の自動運転は、ドライブアシストや、付加機能も、そしてcar to car通信のコネクテッド領域も含むもので、現在のレベル2から、その先の自動運転までを視野に入れた技術を開発している。そして、エレクトリックモビリティ E-Mobilityの領域では、電動化を部分的に行なうものから、完全なEVまでを含んだものを開発している。
「これらを進めていくうえで活用していくのが、デジタル化であり、IoTである」とサイドラー氏は語る。また「これらの技術、事業領域は乗用車だけでなく、商用車や産業機器の3つの事業領域で提供していきます」と説明している。
こうした4つの技術領域を3つの事業分野においてNext Generation Mobilityを進めていくには、必要技術として、「see think act」という技術で対応していくことになる。つまり、見て、考えて、(正しく)動かすといったことが全ての領域の基盤になっているわけだ。
seeはセンサー類を意味し、カメラやレーダー、LiDAR(ライダー)などのセンシング技術である。thinkはseeで得たデータから機器を動かすためのアルゴリムズを作りコンンピュータで作動させるための、人間の頭脳のようなものだ。そしてactはまさに動かすことであり、ZFのシャシーテクノロジーなど、さまざまなソリューションを使って車両を動かしていく、ということだ。
「ZFでは、こうした車両制御を作る上でのポートフォリオを数多く持っており、完成車メーカーへ提供するにあたっては、このたくさんの既存ポートフォリオ活用することによって、ニーズに応え、インテリジェンスな作動システムを作りたいと考えている」とサイドラー氏は話す。
車両を動かすためのソリューションは充実しており、それらをどう使っていくのか?というインテリジェンスな部分を強調できるような制御をつくりたい、ということだろう。したがって、ZFの制御システムの購買だけにとどまらず、カーメーカーとの協業により、理想的な車両制御を構築することが可能だというのがZFの大きな強みになっている。足りないものはない、そして使い方では協業もできるという姿勢だ。
Mobility-Life-Balanceというスローガン
こうした次世代モビリティに要求されている技術を、人のために使っていく上でZFは今、Mobility-Life-Balanceというスローガンを掲げている。これまで車両を動かすことに注力してきたとも言える事業だが、この先の自動運転や電動化を見据えていくと、そこには人の存在があるわけで、人のためになるMobilityという概念で新たなアプローチをしているわけだ。
ユーザーがモビリティに求めているものは、地点AからBへ単に移動するだけでなく、移動の最中もFun、楽しいこと、快適であることが求められている。プラスして交通渋滞、環境汚染、各国の規制などとのバランスを取っていく必要があると考えている。
サイドラー氏は「現状で求められているものと、今起きている現状では、そのバランスが取れているとは言えないでしょう。ですから、そうしたバランスを取るためにZFは行動していかなければならないと考えています。そして、その恩恵は個人でもわかるようにしなければいけないのです。具体的には、効率性と持続性にフォーカスしていくことになります。そして誰でも使いたい時に使え、手の届きやすいものでなければいけないと考えています」と話す。
レベル2プラスとは
手に届きやすいという例では、自動運転の定義でレベル1〜5まである中で、運転支援技術のレーンキープや、追従機能などがあり、こうした既存技術はドライバーが快適にドライブできるためのサポートシステムであり、自動運転の定義でいえばレベル2に相当するものだ。
そうしたことのアプローチの第一弾として、ZFはレベル2プラスを2021年にリリースする。「コ・パイロット」と呼んでいる技術で、高速道路での追い抜きが自動でできるようになるものではあるが、完全な自律走行をするものではない。
「こうしたことからも分かるように、ZFがやらなければならないのは、すでに数多くのポートフォリオがあり、多くのセンサー情報をどう繋いでいくのか、そして、実現するためのインテリジェンスなアルゴリズムを作っていくことが大切です。それを行なうことによって、実現させるのは比較的簡単にできると考えています」とサイドラー氏は語る。
つまり、ZFの既存の製品群を関連づけていくことで高度な運転支援技術が提供できる、というのがZFの強みでもあるわけだ。いわゆるレベル2では警告を出すだけだったが、ZFが目指すものは、ドライバーをサポートする動きをするもので、そのために新たな製品開発といったものは不要であるというのが大事なポイントだ。カーメーカーにしてみれば、高い製品を買う必要はなく、既存製品で実現できるため、アフォーダブルを追求できると考えているのだ。
もっと噛み砕けば、ZFのアプリケーションはモジュラーとして提供できるものであり、カーメーカーの要求に合わせてカスタム化できるということが強みということになる。
フライングカーペット2.0の提案
ZFの技術がカーメーカーにとって、アフォーダブルであることと同様に、快適性を重視する、つまりコンフォータブルであることも重要で、「フライングカーペット2.0」というソリューションがある。
サイドラー氏は「クルマに乗っている時の快適性には2つあります。それは車両に乗っているときの乗り心地と車内で運転以外のことをしたい時の乗り心地です」と話す。やはり、既存のソリューションによって生み出された技術で、カメラからの映像を解析し、連続可変ダンパーを連動させてピッチやロールをコントロールする。さらにコーナリング時には車体が傾かないような制御も可能になる新しい技術として提案しているのだ。
このフライングカーペットについては、Vehicle Motion Controlに位置付け、乗員の乗り物酔いに関する研究をし、医学的に酔ってしまうことが解析できたと説明する。それは乗り物酔いの兆候として、乗員の顔の温度を計測することで状況がつかめるのだという。
コストを下げるということは
こうした数多くのソリューションをすでに所有しているため、センサー類からの情報を統合していくことで、要求要件をコストをかけずに満たすことができるということは理解できたが、例えば、次のレベル3に引き上げた時、ドライバーがよそ見をしたり、e-mailを書いたりすることが許される世界となり、それを実現するためには、より多くのセンサーが必要になってくる。
そしてそのセンシングされたデータの処理はより能力の高いスーパーコンピュータを搭載していかなければならなくなる。サイドラー氏は、そうなるとアフォーダブルなもので考えた時に、課題として残っていると言う。
しかし、このレベル3がアフォーダブルであると考える時、コストとの比較において車両の利用時間を考えなればならないという。ひとりあたりの運転時間を超えるような時間にならないと実現できないと考えていると説明する。
「1週間でどれくらいの時間を運転しているのかを考えた時に、導入コストと比較され、そこをどう調整する必要があるのかを考える必要があります。そのためには、車両の稼働時間を高める必要があり、そのために、カーシェアリングに足を踏み入れたり、ロボ・タクシーのようなコンセプトの模索などが必要になってきます。高額な機器を搭載すると高価にはなりますが、手の届くような価格にしていかなければなりません」と。
乗用車への適応として考えた場合、コストばかりが高騰する技術に関し、シェアリング車両やロボ・タクシーのような公共性のあるもの、マス・プロダクトとして生産されていく車両にこの高いレベルの技術を提供していくことで、量産効果を生み出し、乗用車への普及はアフォーダブルな技術となり、提供できるようになると言うわけだ。
また、コストを利用する時間軸で考えていることも新鮮だった。どうしても単純にモノの量産効果によるコストダウンしかイメージしないが、使うことでコストが下がるというスキームで捉えていることで消化できることを知ることは重要だろう。
また、サイドラー氏は「将来、自動運転は二極化してくる可能性があります。レベル3以上での人の移動、モノの移動という、移動手段にしか使わないタイプのクルマ。そして個人で所有して運転するレベル2以下の技術が搭載されているモデルに別れるかもしれません」と。
もちろんZFは二極化したとしても、レベル3以上の技術開発にフォーカスすることになる。つまり、高度な技術開発をすることによる知見でレベル2へフィードバックできるからだ。そして、レベル3以上の技術には、現状、各国に規制があり、別のトピックとして議論していく必要があるが、そうした意味でもよりハイレベルなレベル2へ進化させていくことは必要であると考えているのだ。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>