2017年12月21日、ZF社は自動運転の電気自動車向け汎用プラットフォームである「インテリジェント・ダイナミック・ドライビングシャシ(IDDC)」の供給を開始したと発表した。IDDCは、ZFの掲げるゼロエミッションの理念を実現し、車両そのものが「見て、考えて、動かす(see, think, act)」ことを可能にしている。
IDDCが備える自動運転システムは、交通環境センサー、インテリジェントな制御ユニット、コネクテッド&メカニカルシステムにより自動運転を実現。電動化+自動運転が可能なIDDCを具現化した「スケートボード」プラットフォームは、スイスのユニークな自動車コンストラクター「リンスピード社」の最新の都市型モビリティコンセプトカー「Snap(スナップ)」のベースとなっている。
ドライビング・プラットフォーム「スケートボード」にはハードウェアとソフトウェアが統合され、自由に乗客キャビンから切り離すことができる構造になっているのが特長だ。
ZFのアドバンスト・エンジニアリング部門の責任者のトーステン・ゴレウスキーは、「未来の都市交通はローカル・ゼロエミッションで自律的に走行し、多様な要件にも極めて柔軟に対応できるようになるでしょう。当社のIDDCは、このために必要な技術的・機能的要件に対応しています」と語っている。
電気化されたプラットフォームのIDDCは優れた操縦性を備え、人間が運転しなくても都市部を走行でき、また理論上は上部のキャビン(客室)がなくても走行可能だ。これは、24時間365日の連続運行が想定されている公共交通的な乗り合いシェアリング用「リンスピード スナップ」の車両コンセプトには最適といえる。
「ポッド」と呼ばれる上部構造(キャビン)は、その時の要件に合わせて変更することができる。ポッドは人間や貨物を積載する固定式、あるいは可変式のキャビンで、自動操縦のためステアリングホイールは存在しない。
IDDCの核心となっているのが、モジュラー式のリヤ駆動アクスルである「mSTARS(モジュラー型セミトレーリングアーム・リヤサスペンション)」だ。組み込まれているアクティブ・キネマティックスコントロール(AKC:後輪操舵)は、最大切れ角を14度まで確保している。
電気駆動モーターとパワーエレクトロニクスがアクスル内部に配置され、効率的に車両を駆動する。通常の乗用車用として想定されている電動アクスル・ドライブは出力が150kW(204ps)だが、スナップは50kW(68ps)に抑えられている。これは、比較的低速で最大限の距離を走行するためで、同時に都市部でのカーシェアリングにおける耐久性も考慮した設計としているためだ。
IDDCのフロント・アクスルも革新的な構成だ。フロント・アクスルは「イージーターン」と呼ばれるシステムで、改良型の電動パワーステアリングによって最大75度のステアリング切れ角が実現している。従来のシステムでは最大切れ角は50度だが、より大きな切れ角とし、リヤのAKCとの組み合わせにより、スナップはほぼその場で旋回することも可能で、混雑した都市の中心部ではこの超小回り性は大きなメリットとなる。ZFの電動式統合ブレーキ制御(IBC)も、IDDCに採用されている。この電動ブレーキも自動運転システムに不可欠な存在だ。
ZFはハードウェアとソフトウェアをシャシーに統合し、キャビンがない場合でもIDDCが車両の周囲を検知、認識できるようにしている。都市における自動運転のためにレーダーシステム、ライダー(ZFがイベオ社と共同開発したレーザースキャナー)技術、カメラシステムで構成されている。このため昼夜間や気象条件にかかわらず、都市におけるほぼすべての標準速度で、車両の近くから遠くまで周囲360度の交通環境を検出できるようになっている。
将来的には、IDDCのあらゆるコンポーネント、駆動&操縦システム、センサーのデータや、Car-to-Xの通信コミュニケーションのデータがすべて、NVIDIAと共同開発した中枢スーパーコンピューター「ZF プロAI」で分析・処理されることになる。このコンピューターはリアルタイムでデータを処理し、この演算されたデータを使用してアクチュエーターに指示を出すことができ、前後方向、左右方向の運動制御や、場合よっては上下方向の制御もコントロールする。もちろんこの高性能な制御ボックス「ZF プロAI」は、人工知能とディープラーニング機能をフルに活用することはいうまでもない。